アクチュアリーの知識を年金、医療、介護などの分野にも生かしたい


アクチュアリーという仕事を知ったきっかけは何でしたか。

アクチュアリーを知ったのは、たまたま書店でアクチュアリーの本を見つけたからです。本の著者が住友信託銀行でアクチュアリーをしている方だったため、住友信託にも興味を持つようになり入社を決めたんです。その1冊との出会いが、人生を動かしましたね。

そもそも数学に興味を持つようになったのは、数学者・秋山仁先生の授業をテレビで見てから。ただ、大学で数学科に進学したものの、純粋数学を研究する“数学者”になりたいという気持ちはあまりありませんでした。「数学を実務にどう応用させるのか」に興味があったので、大好きな数学を使ってビジネス社会に貢献できるアクチュアリーの仕事には、とても魅力を感じました。
大学3年時に、IBMでのインターンシップを経験したのですが、その際、統計学を使って品質管理をする部署で働かせてもらいました。ハードディスクを作っている神奈川県藤沢市にある工場で、欠陥品がどれくらいの割合で出ているのかを統計学によって詰めていくのです。すると、商品の品質を保つためには、どのくらいサンプルをチェックするべきかが分かります。それまで“勉強”としてやっていた数学が、商品開発に具体的に役立っている――。そのときの感動に似た経験が、「数学を使う仕事っておもしろい」と思った原点かもしれません。

大学卒業後、アクチュアリーになるまでの道のりについて教えてください。

住友信託銀行にアクチュアリー採用として入社し、まずは企業年金の数理計算を任されました。お客さまはほとんど大手企業で、従業員データや退職者データといった統計データをもらい、将来のキャッシュフロー予測を立てたり、給付に見合う掛け金はどれくらいに設計すべきかを決める仕事でした。

アクチュアリーの正会員資格は3年で取得しました。概ね3年以内に取ると、アクチュアリー会から理事長賞をもらえるので、挑戦してみるとよいかもしれません。1年目に一次試験の3科目、2年目に一次試験の残り2科目、3年目に実務経験が問われる二次試験の2科目を一気に受験して合格。3年間、平日は4時半に起床して勉強し、休日は10時間ほど勉強していましたから、仕事と並行しながら、相当勉強していたと思います。

3年という短期間で合格できた秘訣は何ですか。

二次試験が実務と直結した内容だった、というのはありますね。仕事の中で、企業年金についてお客さまから質問を受けることが多く、例えば「どんな企業年金の制度だと税制上の優遇措置が得られるのか」など、規制の具体的なルールを即答できるようにしていないといけませんでした。実務上、必然的に法律を覚えるようになり、アクチュアリー試験には役立たせやすい仕事だったと思います。
現在は、「アクチュアリー受験研究会」を開いており、月に1回ペースで学びの場を設けています。アクチュアリー正会員を目指す方がよりスムーズに受かる道を、自分の方法論を含めて共有したいと思っているからです。

アクチュアリーになって、仕事の進め方など変わったことはありましたか。

一番大きいのは、私の意見を「アクチュアリー正会員が言っているから」と周りから信頼されるようになったことでしょうか。
例えば、日本にはないような企業年金制度を作って、お客さまに話に行くとき、営業担当者だけではどうしても専門的な話ができません。法令や計算の仕組み、掛け金の水準などをお客さまに説明するときには、アクチュアリー正会員であることが大きな強みになると感じます。

2008年には、カナダに留学。留学した理由は何でしたか。

海外に目を向けるようになったのは、2006年にパリでの国際会議に出席してからでした。アクチュアリー正会員になると、論文発表をするよう会社からも言われるようになります。そこで、日本の企業年金制度についての報告論文を、パリで発表させていただくことになりました。当時、TOEIC400点レベルの語学力でしたから、発表をするのも聞くのも一苦労。自分の力のなさを思い知ると同時に、日本と世界とのアクチュアリーに対する価値観の違いも痛感しました。驚いたのは、世界各国のアクチュアリーがヴェルサイユ宮殿に集まって社交界が開催されたこと! 日本では、まだまだ認知度の低いニッチな職業ですが、欧米での地位は全然違うのだと実感する華やかさで…。こんな世界があるのだと目からうろこが落ちました。
そこから英語の勉強に取り組むようになり、翌年、ヘルシンキで行われた国際会議では、日米の年金制度の比較研究を発表。ようやく、会場からの手ごたえを感じることができました。そこで、カナダ・ウォータール大学の数学科の教授、ロバート・ブラウンさん(現在、国際アクチュアリー会の会長)に出会い、発表について意見していただいたことで、「彼のもとでアクチュアリーサイエンスを学びたい」と思うように。翌年から、ウォータール大学数学科に留学することになったのです。

国際会議に出たり、カナダに留学したことで、海外は日本の高齢化社会とそれを支える社会保障制度に非常に興味を持っているのだと実感するようになりました。すばらしい研究材料が日本にあるのに、情報発信できる日本人アクチュアリーが少なく、外国人が「日本の高齢者の死亡率について」発表していたりするんです。「なぜ、日本人が発表しないのか」という違和感を覚えたのも、海外で改めて学びたいと思ったひとつの理由でしたね。

現在の仕事内容について教えてください。

帰国後に、ライフネット生命に入社し、3年間リスク管理を担当しました。入社したその月(2011年3月)に東日本大震災が起こったため、保険会社のビジネスモデルをほとんど理解できていないまま危機管理に忙殺されるなど、最初はとても大変でした。
その後、2014年2月に当社(RGA)に転職し、現在は保険会社の商品開発の支援を行っています。日本にはまだない新しい商品として、長寿リスクを再保険会社と保険会社が折半してリスクを分担するような、終身年金の少し変わったタイプを導入したい。すでにイギリスでは導入されているものですが、これを手がけたいというのが、明確な転職理由でした。

今後さらに手がけたい仕事はありますか。

日本のアクチュアリーが公的な活動にもっと関与できたらいいなと思っています。公的年金、医療、介護の分野では、将来予想に基づいていろんな計画を立てていきます。将来の死亡率がどう推移すると、どんな公的年金制度が必要になるのか。50年、100年後の日本の財政はどうなっているのか、さまざまな選択肢の中から、最適なシナリオを選べるように、もっとアクチュアリーの知識を公的社会に役立てていきたいと考えています。

■プロフィール

藤澤陽介さん

RGA(リインシュアランスカンパニー日本支店) アソシエートディレクター プロダクトディベロップメント アンド リサーチ。
日本アクチュアリー会正会員 CERA 年金数理人。九州大学数学科卒業。2000年に住友信託銀行に入社。2008年から2年間のカナダ留学を経て、ライフネット生命に入社。2014年2月より現職。

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