保険計理人は、言わば保険会社における保険数理の総元締めです。


保険計理人は、言わば保険会社における保険数理の総元締めです。

コンピュータに関わる仕事がしたくて、保険会社に入社しました。
学生時代の専攻は電子工学でした。電気通信大学では新設されたコンピュータ専門学科の第一期生だったのですが主にハードウエアを勉強しました。コンピュータの研究がとにかく楽しくて、4年生の時は卒業論文のために、当時唯一マイクロプロセッサの研究環境があった東京大学の大型計算機センター(現情報基盤センター)にお世話になりました。著名な先生方のもとで当時の最先端技術に触れ、充実した学生生活を送っていたと思います。就職活動が始まった当初は、志望する業界はやはりメーカーを考えていました。しかし、周りの学生や先輩の話を聞いていると、ユーザ側としてコンピュータに関わるのも面白いのではないかと思ったんです。そこで金融機関を志望し、システム要員を募集していた日新火災海上保険に入社することになりました。

入社1年目。目に入ったのはアクチュアリー試験を受験している職場の先輩たちでした。

新卒で入社した日新火災では、プログラミングの研修がありましたが、大学時代コンピュータをずっと使っていた私には研修課題は見たものばかりでした。そんな1年目の冬頃、アクチュアリーの試験問題を抱えている先輩達を見かけたんです。理系出身の私は当時、仕事にも余裕があるし、もしかしたら受かるかもしれないと思ったんですよね。しかし翌年の試験をたいして勉強せずに受験したら全く歯がたたなかった。そこから本格的にアクチュアリーの勉強を始めました。
2度目の受験は、しっかり勉強して臨んだものの不合格。勉強すればするほど、保険数理の奥深さに気づかされましたね。だから、まずは30歳までに1科目受かることを目指そうと思いました。ところがその翌年から3年間、立て続けに合格することができたんです。その頃、システム部門から本社の引受部門に異動が決まり、さらに損害保険協会の火災保険プロジェクトに参加することになりました。プロジェクトに集められたメンバーは大手会社のスペシャリスト達でした。システムしか知らなかった私は新たに学ばなければならいことばかりで、アクチュアリー試験の勉強もできず、異動1年目は合格できなかったのですが、2年目は的を絞って勉強に専念した結果、無事に正会員になることができました。

異動、転職、試験委員など、多くの経験を経て、損害保険会社の保険計理人に。

正会員になった後、全国オンラインシステムの開発が行われることとなり、大型計算機導入と計算機センター建設のため、再びシステム部門に異動することになりました。開発が終われば本社に戻してもらえるはずでしたが、そうはいかず、この頃から転職を考えるようになりました。ある生命保険会社に転職しようとしましたが、社内や業界や御当局の方々の説得もあり、結局会社に残り数理課長なりました。またアクチュアリー会のセミナー委員や試験委員などを務めたのもこの頃です。その後損保総研へ研究員として2年間出向した後、損保協会の協会長事務局の窓口をやったりしましたが、そうした社外での仕事を通じて知り合った縁で、シグナ傷害火災保険に転職しました。その後シグナが買収されてエース損害保険になったりなど、いろいろあったのですが数年後には朝日火災海上保険から声がかかり、2度目の転職となりました。その後先代の保険計理人の引退に伴い保険計理人となったわけです。
保険会社は、確率・統計を駆使して保険商品を作り、お客様のリスクを引き受けるところですよね。保険計理人は、言わば保険会社における確率・統計などの数理業務の総元締めといえる役割を担っています。保険業法に従い、お客様に保険金をお支払いするための十分な責任準備金の額や配当金の額を確認する役目です。決算時にはこれらの確認を行った結果を意見書として取締役会に提出し、その写しを金融庁に提出します。業務に際して保険業法に違反した場合は刑事罰に問われることもあります。常にそれだけの責任を負っているのです。

アクチュアリーに求められるのは、やはりコミュニケーションスキル。

高度な保険数理の知識が必要とされるアクチュアリー試験ですが、実務では理論がわかっているだけではなく、理論に基づく計算結果を経営陣にわかりやすく説明できる能力が求められます。特に損害保険は、死亡リスクを主に扱う生命保険とは異なり、引き受けるリスクは自動車、火災、傷害、海上、機械、自然災害、弊社では扱いませんが天候や宇宙ロケットなど多岐にわたるため、幅広い数理的な知識と共に高いコミュニケーションスキルが必要ですね。試験に合格するまでは、難しい理論と向き合うことが多いアクチュアリーですが、実務で果たすべき役割は数理的に正しいことはもちろんですが会社として売りやすい保険、お客様が受け入れやすい保険を作ることです。きちんとした理論で商品を作り、その構造をどんなお客様に対しても理解していただけるような説明ができて、初めてアクチュアリーとしての役割を果たしていると言えるでしょう。

■プロフィール

大舘 正明さん
朝日火災海上保険株式会社 保険計理人 日本アクチュアリー会正会員
電気通信大学卒業後、日新火災海上保険、エース損害保険を経て朝日火災海上保険に入社後、現職へ。

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