永く残る商品を生み出すべく難解なパズルを解いていく


アクチュアリーになろうと思ったきっかけを教えてください。

偶然、大学キャンパス内の掲示板で、某生保の先輩アクチュアリーによる集中講義を見つけたのがきっかけです。当時、高校の数学教師になろうと教育実習も経験していたのですが、集中講義で「アクチュアリー」という職業を知り「これだ!」とピンときました。その後、生保、損保、信託銀行を訪問して、最初に内定をいただいた日本生命に入社しました。もし、大学の掲示板を見ていなければ、今頃、まったく違う人生を歩んでいたでしょうね。

アクチュアリーの正会員資格取得までの道のりについて教えてください。

最短2年でアクチュアリー正会員資格が取得できますが、私は8年かかりました(笑)。8年の間に結婚して子供が誕生し、徐々に受験勉強の環境からは遠ざかっていきましたが、今思えば、守るべき家族が出来たからこそ最後まで頑張れたのかなと思っています。最近は入社前に正会員になっている驚異的な学生さんもいらっしゃるようですが、当時は入社してから勉強を始める人が多かったと思います。
当時の1次試験は6科目(現在は5科目)でしたので、2次試験の2科目と合わせると、結果的に1年1科目ペースで進んだ感じですが、年によって合格率に差があったりしますので、合格するまでは苦しくても未合格科目を毎年受験することが大切だと思います。(私も合格0科目の翌年に3科目に合格しました。)
具体的な勉強方法ですが、平日は朝6時半に出社して9時まで2時間ほど勉強しました。また、昼休みは社内有志で集まって昼食をとりながら勉強しました。さすがに、仕事を終えて帰宅するとヘトヘトになっているので、夜は勉強せずそのまま就寝しました。とてもストイックな生活にみえるかもしれませんが、規則正しい生活を続けた方が健康にも良いです。

現在の仕事内容と、そのやりがいについて教えてください。

2012年11月に現在の勤務先に入社し、商品開発を担当しています。生命保険の商品を開発して販売するためには、主務官庁から認可をいただく必要がありますので、認可折衝が私の仕事の中心となります。認可折衝には、商品開発のロジックを論理的に説明できる資料を持って行きます。ちょうど、数学の証明問題をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。例えば、「この保険料はどのような前提で生み出されたのか」、「この保険料が妥当な理由は何か」を先方が理解できるように丁寧に説明して、もし、論理飛躍などを指摘されれば、宿題として持ち帰ります。

もちろん、自分が疑問に感じる点がひとつでもあれば事前に解決して折衝に臨みますし、たとえ数学的に正しい説明であったとしても、相手に理解してもらえなければ意味がないので、数学的知識に加えて、相手の立場に立ったコミュニケーション能力も求められます。
私は算数が好きなので、パズルを解くような面白さを味わいつつ、お金を頂けることは大変ありがたいです。また、終身保険や終身がん保険などの一生涯を保障する生命保険商品を生み出せれば、退職後もそれらの商品が世の中に残っていくのはうれしい限りです。やはり、世の中に役立つ商品開発に従事できることは、誇りであると同時に責任も感じますね。

アクチュアリーに求められること、必要なことは何だと思いますか。

アクチュアリーというと「数字とにらめっこしている仕事」と思われる方が多いのですが、商品開発においてはコミュニケーション力がとても大切ですね。社外での折衝に加え、社内では営業部やマーケティング部のメンバーに、どんな商品が求められているのかをヒアリングし、商品開発に生かす必要があります。

また、どの仕事でも同じかもしれませんが、自分が能動的に取り組めることが大事ですね。例えば、給料水準が高い(らしい)といった理由だけでアクチュアリーを目指したとしても、結局、自分の嗜好にマッチしなければ、逆に苦しいだけの仕事になりかねません。さらに、「1時間で必ず終えられる」というような、時間と成果が必ずしも比例するとは限りません。1日で終えられるものもあれば、1週間かけてようやく妥当な保険料を出せたという場合もありますので、難問を自力でクリアしたいという前向きな気持ちが必要になりますね。

もちろん、アクチュアリーという資格は、ひとつのツールにすぎません。
アクチュアリー正会員になって、どんな仕事をやりたいのか、どんな価値を創造したいのか、常に具体的にイメージし続けることが大切だと思います。

■プロフィール

西林信幸(にしばやし・のぶゆき)さん
92年大阪大学理学部数学科卒、94年大阪大学大学院理学研究科博士前期課程終了、理学修士。94年以降、日本生命とかんぽ生命で、商品開発・決算および保険引受リスク管理に携わるとともに、ニッセイ基礎研究所と監査法人トーマツで共済制度のコンサルティングを担当。2014年11月現在、アクサダイレクト生命の商品開発部長。日本アクチュアリー会正会員。

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