ミドルマーケットでのM&A需要拡大の背景とBIG4系FASの役割


レコフデータによれば、日本企業のM&A市場の活性化を背景にして、BIG4系FASがミドルマーケットでのM&Aにも参入している。

そもそも、現在のM&A業界の最新動向とは? BIG4系FASでミドルマーケットのM&Aに携わることにはどんな魅力があり、その後どんなキャリアパスが描けるのか。デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社でミドルマーケットのM&Aを手掛ける長田和志(おさだ かずし)さんに伺った。

■M&A業界の最新動向とその背景

――最近のM&Aの傾向と今後の動向について教えてください。

現在、M&Aの市場は活況といわれています。2008年のリーマンショック以降、一度は減少した件数も、2011年頃から徐々に回復しています。2017年は過去最高を記録し、2018年度もそれを上回る可能性があります。

ミドルマーケットにおけるM&A市場も活況であり、その要因の1つは、後継者不足の問題に直面した非上場のオーナー企業に、M&Aによる事業承継が普及したためです。

もう1つの要因は、事業の選択と集中を目的とした再編で、ノンコア事業を切り離すためにM&Aをするケースが増えていることです。縮小していく日本の内需を背景に、ノンコア事業の切り離し(カーブアウト)を行っているのです。

最後に、ファイナンシャルバイヤーであるPEファンドが投資を盛んに行っているのも要因です。金融市場が緩んでいることもあり、PEファンドの資金調達環境が良好であるため、かなり積極的な姿勢で投資を進めています。

――今後も、M&Aの件数は伸びつづけるのでしょうか。

人口減少による内需の縮小傾向を考えると、コア事業への集中を目的としたカーブアウト案件は今後も増加するのではないでしょうか。

加えて、日本の中堅・中小のオーナー企業では、今年ついにオーナーの平均年齢が60歳を超えるといわれています。オーナーの半数は、後継者が決まっていないともいわれている状況です。よって、事業承継を端に発するM&Aもまた増えざるを得ないと考えられます。

昔は親族内承継が当たり前でしたが、価値観が多様化した現在は、お子さんたちに自分の好きな道を歩んでほしいと考えるオーナーも少なくありません。また、こうした経営者のお子さんたちは、いい教育を受け、いい大学を出て、いい会社で働いているケースが多い。お子さんたちからすると、縮小する日本国内のマーケットで家業を継ぐことをためらわれるケースも増えてきています。

 

■ミドルマーケットにおけるBIG4系FASの強み

――BIG4系FASのように大手のFASが、ミドルマーケット領域のM&Aに注力するのはなぜでしょうか。

ビジネスの幅を広げていくということではないでしょうか。適切な報酬をいただけるお客さまには、仲介ではなく大手企業と同水準の高品質なアドバイザリーサービスを提供して、ミドルマーケットに貢献したいというのが当社の考えです。

――ミドルマーケットには、中堅・中小のFAS、M&A仲介会社といったさまざまなプレーヤーもいます。まず、売り手、買い手から見ると、FASと仲介会社の違いとは何なのでしょうか。

売り手企業の売り上げ規模が小さくなるほど、また財務状況が厳しくなるほど、買い手を探してくる難易度は上がります。つまり、優先順位はまず買い手を探してくることです。その場合、中小企業の売買の情報をたくさん持っている仲介業者に依頼したほうがうまくディールがまとまるでしょう。

一方で、ある一定の規模、一定の業績以上の企業が売り手の場合は、相手を見つけるのはそれほど難しくありません。単純に相手を探すことよりも、売り主にとって、より良い買い手から、より良い買収条件を引き出し、お客さまであるオーナーに丁寧で高品質なサービスが求められます。その場合は、仲介会社ではなくFAS、特に大手のFASを選んだほうがいいということになります。

――では、FASのなかでもBIG4系FASの強みとは何でしょうか?

当社を例に挙げると、まずデロイトのグローバルネットワークを活用した提案力。国内の企業だけでなく、海外のバイヤーや投資家を対象としたM&Aの話を真正面からすることに関しては、中堅・中小のFASやM&A仲介会社よりデロイト トーマツに優位性があると考えています。

また、当社はBIG4監査法人系のFASということもあり、デロイト トーマツ グループの既存クライアントのM&Aに関するご支援を継続的に行っています。長年のお付き合いで得たクライアントのニーズに即して、単純にM&Aのマッチング業務にとどまらない、PreM&Aとしての戦略の策定からPostM&AであるPMIまで、一気通貫できめ細かいサービス提供が可能なサービスの幅の広さも強みだと考えています。

■ミドルマーケットでのM&Aを手掛ける醍醐味

――大手企業向けのM&AとミドルマーケットでのM&Aは、ファイナンシャルアドバイザーから見てどのように異なるのでしょうか?

ミドルマーケットでのM&Aは、よりダイナミックで手触り感があります。

大きな案件の場合、買い手も売り手も超大手の日本企業で、担当者である我々のカウンターパートは経営企画室やM&Aチームの部長以下が担当者のケースが多いです。一方、ミドルマーケットの仕事は、特に売り手は中小・中堅企業で、担当者は社長やCxOがほとんどです。つまり、最終意思決定権を持つ方と直接やり取りしながら、スピード感を持って案件を進められるのです。

――ミドルマーケットでの仕事の魅力を教えてください。

ミドルマーケットのM&Aは、課題の掘り起こしから関わり、クライアントに寄り添いながら最適解を一緒に探していくことに対価が支払われます。例えば、一口に後継者不在で事業承継に悩んでいるオーナー企業といっても、それぞれに理想とする事業承継の形が違いますし、初期段階ではその理想形すら見えていないケースも少なくありません。

そのため、M&Aというソリューションを使って、いかにクライアントに満足していただくかを考えてゴールを設定し、リーダーシップを発揮して案件を進めていくことが必要です。ファイナンシャルアドバイザーの権限は、クライアントがM&Aに慣れている案件よりも大きくなりますし、同時により泥臭い仕事をすることにもなります。その手触り感が大きな魅力ではないでしょうか。

――どんなところにやりがいを感じますか?

クライアントの意思決定における感情面もしっかりサポートしなければならないというのが、面白さであり、やりがいでもありますね。特に非上場のオーナー企業においては、すべての意思決定がロジカルで合理的であるとは限らないので、案件の手触り感があると使命感も増しますし、交渉が面白くなります。クライアントとの折衝で生まれる信頼関係、一体感も、ミドルマーケットならではのものだなと感じます。

ただ、骨の折れる部分もあります。答えのない問いが多く、案件に対して自分なりのスタンスを取る必要があるため、プレッシャーが大きく、責任も重たい。とはいえ、それに勝るやりがいがあると言えるのですが(笑)。

――BIG4系FASでミドルマーケットを担当しているファイナンシャルアドバイザーには、どんなバックグラウンドを持つ方が多いのですか?

当社で言えば、一番多いのは監査法人出身者です。次に、別のFASからの転職者。最後に、証券会社や金融機関の出身者でM&Aを担当してきた方々です。最近ですと、証券会社や金融機関からファイナシャルアドバイザーになるために入社してくる未経験メンバーもいます。

――では、先々にはどんなキャリアパスが考えられますか?

M&A市場が活況な今、M&A関連の仕事の幅も広がっています。

スキルを生かしてもっと大きな案件を担当したいと、大手證券や金融機関系のアドバイザリー部門に行く人もいます。反対にもっと小さな案件を求めてブティック系ファームに行く人もいるし、ベンチャーを起業する人もいます。ミドルマーケットを投資対象とした投資ファンドがかなり増えているので、PEファンドへの転職者も一定数いますね。

ミドルマーケットでM&A案件を担当していると、クライアントを獲得するところから、ディールを組成し、さらに回して、契約締結するところまでを一気通貫でやり切れる力が身につきます。また、当社であればデロイト トーマツの看板を背負って仕事をしていたことも、キャリアの強みになるでしょう。今後もM&Aのスキルを生かして仕事をしていくにはいい環境だと思います。

<プロフィール>
長田和志(おさだ かずし)さん

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 シニアヴァイスプレジデント。コンサルティング会社にて、M&Aアドバイザリー、リストラクチャリングアドバイザリー、組織再編支援などに従事。M&Aチームのヘッドとしてアドバイザリー業務を主導。主に、中堅企業の事業承継・事業再生に絡むセルサイドFAの経験が豊富。地方銀行・PEファンド等と連携したオリジネーション、買収アドバイスの実績も多数。FAS業務に関する経験12年。2017年より現職。

 

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