投稿日:2025.12.12/最終更新日:2025.12.12

不正調査、予防体制づくりが「より良い社会の構築」につながっていく

不正調査、予防体制づくりが「より良い社会の構築」につながっていく

EY新日本有限責任監査法人・フォレンジック部門「EY Forensics」が掲げるパーパスとは

*プロフィール
荒張 健さん
EY  Forensic&Integrity Services Japan Leader 
EY新日本有限責任監査法人 常務理事 アドバイザリーサービス担当 兼
Forensics事業部長 パートナー
公認会計士

上場企業、公的機関等に対する会計監査業務および各種アドバイザリー業務に30年以上にわたり従事。

第三者委員会委員等として、会計不正、贈収賄、独占禁止法関連、品質偽装関連など、数多くの不正疑義に関する実態調査を行い、不正発見・予防体制の評価・改善支援に取り組む。また、米国FCPA違反に関するDPA(Deferred Prosecution Agreement)対応など、米国当局対応を含む、リスク評価、コンプライアンス・プログラムの改善支援業務の実務経験も豊富。

―EY新日本有限責任監査法人におけるフォレンジック部門の業務内容やミッションについて教えてください。

監査法人におけるフォレンジック部門というと会計不正調査をイメージされる方が多いと思いますが、不正の疑義に関する実態調査の対象は多岐にわたります。贈収賄や独占禁止法関連、品質偽装関連など、幅広い不正リスクに係る不正調査に関与しますし、事後的な不正調査のみならず、不正・不祥事の予防体制の確立の支援や、データアナリティクスを活用した不正リスクのモニタリング構築の支援も行っています。

EYの大きな特徴は、パーパス経営をいち早く取り入れたところにあります。EYでは、全てのメンバーが大切にすべき行動指針として、「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」をパーパスに策定しており、フォレンジック部門の中心にも、この思いがあります。では、私たちが“より良い社会の構築”にどう具体的に貢献できるのか。一つは、「不正によって不幸になってしまう人を生み出さない職場づくりを実現すること」、そしてもう一つが、「企業の持続的な成長のインフラを作ること」だと考えています。

私はフォレンジック部門の責任者としてこれまでの13年間、さまざまな企業の不正調査や予防、職場環境の改善に向き合ってきました。その中で特に忘れられないのは公正取引委員会の事務総長を務めた菅久修一さんの話です。菅久さんは、「不正や不祥事を起こすということは、競争から逃げること」とおっしゃっています。「商品やサービスは、世の中に受け入れられてはじめて継続していけるもの。不正をすることは、自由経済社会のベースである市場競争としての『競争』から逃げることであり、それは『お客様に背を向ける』こととなり、『変化から逃げる』こととなる。そのような環境下で、果たしてイノベーションは生まれるのか疑問であるし、持続的な成長は期待できない。したがって、コンプライアンスというのは、単なるコストではなく長期的な企業価値の向上のためのベースとしてどうしても必要なものである。」という菅久さんのメッセージを、フォレンジック部門に携わるものとして、これからも多くの企業経営者に伝えていきたいと思っています。

コンプライアンスというと、どこか“風紀委員”のようで、組織内で煙たがれがちな存在かもしれませんが、コンプライアンスは企業のレピュテーションリスク(否定的な評価が広がり信用が損なわれるリスク)を回避するためだけに必要なのではありません。「コンプライアンスは、企業が持続的に成長していくために整備すべきインフラでもあるのだ」というメッセージを、これからも常に発信していきたいです。

―フォレンジック部門を立ち上げた13年前から現在まで、フォレンジック領域を取り巻く社会や企業姿勢はどう変化してきましたか。また、その中で挙げてきた実績についてお聞かせください。

企業による不正や不祥事は常にメディアで取り上げられており、フォレンジックの仕事の認知もやっと広がってきたと感じています。

フォレンジックの仕事は、不正が発覚した瞬間から動き出す“有事対応”が多いのですが、EYでは、不正を予防する体制構築、モニタリング支援といった“平時の環境づくり”に力を入れてきた実績があります。もともと海外では、不正対策は企業におけるリスク管理の仕組みの一つとして、組織的な対応が図られている一方、多くの日本企業は、これらの欧米企業と比較して、必ずしも十分とはいえませんでした。

当フォレンジック部門「EY Forensics」は、正式には、「Forensic&Integrity Services」という名称になっています。問題が生じたときに調査を進める「Forensic」に加え、不正が起きないようにするための心持ちとして「Integrity(誠実さ)」も醸成させていこう、そんな理念を表し、お客様にも向き合い続けてきました。

平時から予防対策にコストとパワーをかけていこうという企業は、まだまだ少数派ではあります。しかし中には、「しっかりと稼げている今こそ、足腰を鍛えるべく不正対策に力を入れていこう」という、長期的な視点を持った経営者もいらっしゃいます。そうした大手企業では、不正リスクを評価し、改善に向けた継続的なモニタリングを進めています。EY Forensicsは、贈収賄事案が起こった企業における再発防止の体制構築なども数多く担当しているほか、データ分析による本社からの柔軟なモニタリングを実現する等、脆弱になりがちなグローバル拠点のコンプライアンス体制強化での実績にも自信を持っています。

―現在、フォレンジック部門で活躍されている方のバックグラウンドや、持っているスキルについて教えてください。

100名強いるメンバーのうち、約3分の1は、デジタルデバイスから証拠データを収集・分析するデジタルフォレンジックに携わるメンバーや、データサイエンティストやサイバーリスク対応を行うメンバー等、テクノロジーに専門性を持った人材です。同一部門内にこうしたテクノロジーチームのメンバーが在籍しているのはEYならではです。案件の特徴に応じて、スピーディにメンバーをアサインできるため、複合的な課題を抱える企業にも対応しやすいという強みがあります。

ノンテクノロジーのメンバーには、会計士や事業会社での内部監査、法務・コンプライアンス、品質保証などの経験者が多くいますが、採用に当たってキャリアバックグラウンドは問いません中には、製薬会社MR(営業)出身者が、相手のニーズを理解した上でのソリューション提案をフォレンジック業務においても生かすことで、活躍しているケースもあります。

私が部門のメンバーに常に伝えているのは、「リスペクトと化学反応とチームプレーの3つを大事にしなさい」ということ。例えば前述した製薬会社出身の方の場合、フォレンジック業務自体は未経験かもしれませんが、製薬業界や事業会社の業務、MRの仕事においてはどのようなことが問題になるのかという点では誰よりも詳しいでしょう。法務にいた方、品質管理部門にいた方など、それぞれが持つ専門性と知見をリスペクトし合えれば、チーム内に化学反応が生まれ議論の視点はどんどん厚みを増していきます。チームプレーによって素晴らしい成果につながる可能性があるのです。

不正や不祥事はいまや、あらゆる業界、企業で生じているものです。どのようなキャリアバックグラウンドの人でも、これまで培ってきた知見が強みになると考えています。

―フォレンジックの仕事のやりがいや面白さはどんなところにありますか。

不正調査における実態解明において仮説検証作業を繰り返しながら着実に進め、その後の実効性ある再発防止につなげること、あるいは不正予防の重要性を世の中に伝えて不幸な社員を生み出さない職場づくりを支援していくことで、EYのパーパス実現につながっていき、私たちの社会が少しずつ良くなっていく。一朝一夕にできることではなく、壮大な話かもしれませんが、業務の社会的意義がやりがいに直結していると思っています。また、実際に業務を通じてこそ把握できた内容は当初の見立てとは異なることも多く、まさに現実は小説より奇なり、というところに面白さも感じます。

より具体的なエピソードでは、会計不正があった企業に対し、手口や動機等を慎重に解明しながら膨大な量の各種記録データ等を分析して不正による会計的影響額を算出し、それを受けて会社が過去の決算数値を自ら修正し、何とか期限内に監査人から監査意見を得られたことで、上場廃止を免れることができた…というケースは少なくありません。万が一、上場廃止となれば、経済的な影響は甚大です。働く社員とその家族の生活まで影響が及ぶこともあり、まさに「不幸になる人」を増やしてしまう。そうした事態を防ぐことで、お客様からはものすごく感謝されますし、大変だからこその達成感と安堵感は非常に大きいです。チームメンバーとそれを共感し合えることもやりがいにつながっています。

―フォレンジックの仕事をする上で、どのような要素や能力、マインドセットが求められますか。

欠かせないのは責任感と実行力です。

不正調査は、膨大な情報から「これは怪しいやり取りだ・・・」という事案を抽出して、不正の証拠を発見していく、謎解きのような要素があります。例えば、毎日何百通のメールをチェックする「メールレビュー」という仕事では、相当な忍耐力と集中力が求められます。その中のたった1通のメールに不正を裏付ける決定的な証拠があるかもしれないからです。もし見落としてしまえば致命的なミスになるため、「たとえ些細な異常であっても自分は見逃さない」と最後までプロフェッショナルとして責任を持ってやり遂げる力が非常に大事だと感じています。

フォレンジック業務未経験の方や新卒メンバーには、「成長を焦らないでほしい」と、よく話しています。お客様は、明確な正解のない中でベストな対策、改善策を求めてきます。その際、提案の根拠となるのが、多種多様な事案を経験し、失敗事例、成功事例に数多く触れる中で自らが体得した知見です。地道な作業をコツコツ積み重ねることができる方、そこに面白さやインサイトを見いだせる方が、結果的に一番伸びていくと実感しています。

細部にまでこだわる丁寧な仕事が求められる一方で、全体を俯瞰して矛盾点に気付く力もまた欠かせません。さらにお客様のニーズに柔軟に対応する能力もまた必要となり、トータルな能力が求められる仕事だと思っています。

―フォレンジック部門での経験・実績は、今後どのようなキャリアにつながっていきますか。

企業の不正や不祥事に対して、世の中の目はますます厳しくなっています。その一方で、不正リスクに対して企業はまだまだ力を入れられていない現実があり、スタートアップや海外進出先の子会社など組織基盤の脆弱なところでは特に顕著に発生しています。2024年4月に内部統制基準の改正適用となった背景にも、金融庁の危機意識の高まりがあるでしょう。

今後、企業は不正リスクに対して、人・もの・カネをより投資していくようになり、不正予防を重視するマインドは、より高まっていくと予想されます。

その流れの中で、不正調査に向き合ってきた経験と知識は、あらゆる企業から求められる武器になるでしょう。組織内でいかにして不正が起こるのか、どんな対策を疎かにすると不正が発見されずに放置されるのか、具体的な事案を通じて得た知見を持っていることで、事業会社のCFO(チーフファイナンシャルオフィサー)やCCO(チーフコンプライアンスオフィサー)、内部監査部長といったポジションでの活躍も見据えることができると考えています。

―最後に、フォレンジック業務に興味を持っている候補者の方へ、メッセージをお願いします。

フォレンジック業務は、ときに緊急対応が求められ、突発的な“繁忙期”がやってくることもあります。案件によっては、お客様先への長期出張が発生することもあるでしょう。ただ、当部門では、年間を通じてリモートワーク中心の働き方をしているメンバーも多く、子育てや介護の時間を調整しながら、調査業務を進めている方も多く活躍しています。チームプレーを大切に、一人ひとりの状況を理解しながらフォローし合うカルチャーも根付いていますので、一緒にベストな働き方を考えていきたいと思っています。

私たちのパーパスに共感してくださる方、フォレンジックの仕事を通じて「より良い社会の構築」に貢献したいという志のある方でしたら、どのようなキャリアバックグラウンドの方も歓迎します。ぜひ一度お会いできたらうれしいです。

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