幅広い業務を経験できるスタートアップ事務所で、他の会計士にはない武器を身に着ける


「転職を考えたのは、他の会計士と差別化を図る必要性を感じるようになったから。監査法人でパートナーを目指すいわゆる“花形”の道ではなく、他のフィールドでも輝ける道があるのではと思ったからです」と語るのは、廣瀬雅一さん。転職は、27歳のときでした。

公認会計士試験合格後、有限責任あずさ監査法人で監査業務に携わり、5年後に現職である株式会社わかば経営会計に入社。現在は、中小企業の企業再生業務をメインに、成長支援、事業承継など幅広い業務を手掛けています。

現職について、「大手監査法人では味わえなかった貢献感がある」と話す廣瀬さん。転職活動中はどんなことを考えていたのでしょうか。現在の業務内容、そしてやりがいとは?

――現在までの簡単なご経歴を教えてください。

会計士を目指したのは大学3年生の時。周囲が就職活動を始めた時期に初めて、「自分も何かしなくちゃ。何か武器にできるものがほしい」と勉強を始めました。卒業した年に試験に合格し、翌年2月にあずさ監査法人に就職。約5年、監査業務を経験しました。2015年12月にわかば経営会計に入社し、2年半経ったところです。

――大手監査法人からの転職を考えたのはいつですか?

5年間の勤務で、インチャージ業務を含めて現場で一通りの監査業務を経験したことが区切りとなりました。すでに同期で外に出たメンバーが多かったこともあり、一会計士としてどうやって生きていくかを考え出したんです。

もともと私は、監査業務でずっと食べていくと考えていたわけではありませんでした。また、監査法人で例えばパートナーまで上り詰めるために必要な努力、リソースを他に傾けたとしたら、もっと魅力的な選択肢があるのではと思ったからです。

外に出た同期たちが転職先で能力を発揮している姿も刺激になりましたし、きっと自分の道があるはずだと思っていました。むしろ、27歳という若手のうちに新しい道にチャレンジしておかないと、40代ぐらいになって会計士として食べていけなくなるのではという漠然とした不安を持っていました。

――転職活動中は、どんなことを考えていましたか? 不安や悩みはありましたか?

転職する上では、スキルアップにつながること、他の会計士と差別化できることの2点を重要視していました。

転職自体に迷いはなかったんですよ。年齢的にも若い方でしたし、リスクはほとんどないと思っていました。例えば1、2年大手監査法人の外に出て、「やっぱり監査をやりたい」「大手に戻りたい」と思っても、同期との差は1、2年。定年まで仕事をするとしても、先はまだ30年以上あるので、このタイミングで違う世界を経験することは必ずプラスになるはずだと考えていて。

唯一「どこに行くのか」が悩みでした。どこなら他の会計士と差別化できる経験を積めるのか……。色んな求人企業を見ていくうちに少しずつ条件が定まっていきました。

――その中で現在のわかば経営会計に入った決め手は?

1つは、業務内容が幅広いことです。弊社の業務は監査ではなく、企業再生業務をメインに、成長支援、事業承継、M&A、ベンチャー支援、税務顧問など。しかも、それぞれのサービスラインが部門で分かれているのではなく、各人がすべての業務をサービスとして提供する、本当の意味でのワンストップ体制です。入社時にも「トータル業務ができるよう2年で1人前になってもらう」と言われ、これは面白いなと感じました。何よりスキルアップの面でも申し分なく、同様の業務ができる会計士はなかなかいないため差別化を図る意味でもいいなと思って。

2つ目は、お客様の層が違うこと。弊社のお客様は、大企業ではなく中小企業。大手企業がメインである監査法人、大手コンサルに在籍する会計士が多いなか、中小企業のコンサルをメインにする会計士は少ない。これも差別化になりますよね。一方で中小企業は圧倒的に数が多いため、サービスを提供するプレイヤーが少ないのにニーズはある分野なのです。

最後に、スタートアップ企業のため、近い距離で自社の経営を見て学べて、携われる点。もし自分が将来的に独立したいと思った時にも参考になると考えました。実際に、会社の数字、個人の売上等は開示されていますし、お客様への業務提案、契約、採用面接や事務所移転等にもすべて関わっています。経営ってこういうものなんだと肌で感じられる環境ですね。監査法人でいうと、経営陣、パートナー、マネージャー、シニアスタッフをすべて経験しているイメージです。

この3つの要素をあわせ持つ会計士は少ない。つまり、ここでの経験は確実に他の会計士と差別化を図る材料になり、強みになる。これが、大手の監査法人を辞めてでも行く魅力があると結論付けた理由です。

――現在は、どんなお仕事をされているのですか?

入社時から企業再生がメインの業務です。今は、事業承継、成長支援、税務業務、IPO準備支援などにも幅広く携わるようになりました。

これらの業務には、決まった答えがありません。お客様によって、その企業のステージによって、毎回どういうニーズがあるかを検討、相談しながら考えて業務を進めていきます。それがとても面白いですね。

それこそ今日は、月に1度伺っているお客様先で、主要得意先に対してどうやって値上げの交渉をするかという課題について提案、議論を行いました。何でも屋なんですよ。

――どんなときに自分が能力を発揮できていると感じますか?

中小企業のお客様との業務では、コミュニケーションは監査法人の時とは比にならないくらい重要です。こうしたコミュニケーションは苦手ではなく、むしろ自分の強みが生かせる分野なのかなと思っています。

前職では、大企業の経理部、財務部の一担当者と仕事する機会が多かったですが、今は中小企業の社長や幹部クラスの方と直に仕事をしています。そのため、距離感がすごく近い。信頼関係が業務の大前提になっていますから。

初めは、その距離感に戸惑いました。業務での利害関係しかない「ザ・仕事」な姿勢で接するのはダメ、かといってフランク過ぎてもダメ。でも、多くの方と出会っていくうちに、自分はこういう仕事、関係性が好きだし、苦手ではないなとわかってきたんです。

――反対にクリアするのが難しかったのは?

先述のように弊社が各人でのワンストップ業務を掲げているのは、中小企業のお客様がそのようなニーズを持っているからです。お客様は、困ったことがあれば何でも相談してくださいます。ただその反面、もちろん不足している知識、経験もある。そのため、初めからお客様の要望に全部応えられるようにするのは大変でした。今もまだまだ勉強中ではありますが……。

――印象的な仕事のエピソードを教えてください。

1つは、企業再生で携わっている企業が、倒産危機から存続できるまでに持ち直したことです。会社が倒産すれば、社長の自己破産、従業員の雇用問題、取引先の連鎖倒産……とあらゆる利害関係者に影響を及ぼすことになります。こうした状況を防げたかと思うと、微力ながら力になれたと感じます。

他では、成長支援業務を担当している企業での後継者問題。社外にいる息子への事業承継を検討しており、「息子に跡を継いでほしいと伝えるところから始めてほしい」と言われてスタートした仕事です。仲が悪いわけではないけれど、二人では固い話がしにくかったり、ほとんど会話がなかったりする親子っているんですよね。

まず息子さんにその旨をお伝えして、月に一度の会議に出てもらうことに。また、勉強会をアテンドするなどの後継者育成に加えて、将来的に後継者のサポート役となる人材の幹部育成を行っています。

「これは会計士の仕事か?」と思われるかもしれません。でも、中小企業のお客様ならではの刺激的な仕事だし、何でも屋として信頼されている証拠だとも思えて、やりがいを感じます。

――仕事のやりがいについて、前職と比較して教えていただけますか?

会社様とは距離感が近く、付き合いが密だからこそ、大きな達成感、貢献感を味わえます。

前職では、難しい会計基準の知識を習得すること、レベルの高い業務を担当すること、組織の現場責任者としてチームの業務を回すことなどが、やりがいであり、モチベーションの源でした。ただ、それは自分自身の成長という意味のやりがいであって、お客様のために何かしているという意味のやりがいではなかったんですよね。社内での評価はされますが、お客様から評価をされるのは、監査業務の中でアドバイザリー的な付加価値を提供できないと難しい。

それがガラッと変わった。貢献感が肌で感じられ、何のために仕事をしているかがよく見えます。また、お客様の課題解決に役立ったり、お客様から「ありがとう」の言葉をかけていただいたりすることで、「この仕事をしていて良かったな」と感じられるんです。

――転職を検討している会計士へアドバイスをお願いします。

監査法人で会計士としてのキャリアをスタートする方が大半で当たり前のようになっていますが、それは監査法人が会計士としての基礎を学ぶ絶好の場だから。必ずしも会計士は監査という仕事を選択しなければならないわけではないですし、そもそもずっと監査だけをやり続けようと監査法人に入った方は少ないと思います。会計士という資格、能力は、監査以外のさまざまなフィールドでも活用できます。それならば、積極的に違うキャリアに飛び込んでも良いのではないでしょうか。

また、監査法人からの転職だと、どうしても大手コンサルティングファーム、投資銀行、商社といった“花形”の職種・業務に目が行きがちです。確かに、魅力的に見えますよね。でも、会計士の生きる道はそれだけじゃない。派手な世界ではないかもしれないけれど、中小企業の支援業務もお客様のニーズは高いし、やりがいがあります。どちらが正解なのではなく、自分に合った道が正解。転職の際は、ぜひ幅広い選択肢を持ってほしいと思います。

<プロフィール>
廣瀬雅一さん
株式会社わかば経営会計 パートナー・公認会計士・税理士。岡山大学卒業後、2010年11月に会計士試験に合格。2011年2月に有限責任あずさ監査法人に入社。2015年12月より現職。

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