美容師体験インターンシップを通じて、子どもたちに自立の道を提示したい


美容室acvii(アクビ)のほか、吉祥寺に3店舗を構える株式会社アクビの代表・堀内彰夫さん。理容室を営む両親を手伝いながら育った堀内さんにとって、お店はリラックスできる日常空間であり、遊びながら学べる場でもあったといいます。その学びの場の提供として、会社経営と並行し5年前から力を入れているのが、児童養護施設の子どもたちを対象にしたインターンシップです。インターンを始めた経緯や、活動に込める思いについて話を伺いました。

―美容室acviiの経営と並行したインターンシップ活動について教えてください。

5年前から、児童養護施設の子どもたちを対象に、美容室での就業体験を行っています。春、夏、冬の長期休暇中に3日間、美容師の基本的な仕事に触れてもらい、働くとはどうゆうことなのか、自分の手を動かしてお金を稼ぐとはどういうことかを体験してもらうのが目的です。 児童養護施設で過ごしている子は全国に約3万人いるといわれていますが、18歳になればみんな施設を出なくてはいけません。進学する子もいますが生活費を稼ぐためのバイトに時間をとられ、学業を続けられないケースも多い。「やりたい仕事を見つける」という余裕がほとんどない現状があります。 そんな実態を知り、自分にできることがないだろうかと考えたとき、「やりたいことに出合う」という機会を、インターンシップを通じて提供することができたら…と考えるようになりました。acviiでインターンを経験し、こういう働き方があるんだと思ってくれるだけでもいいですし、お金を稼ぐ大変さや仕事の面白さを実感してくれるだけでもいい。美容師になりたいのなら雇用しながら育成するという道も用意し、微力ながら、未来ある子どもたちの一助になりたいと思っています。

―活動を始めたきっかけは何でしたか?

お客様から児童養護施設の子どもたちをサポートするNPO団体「ブリッジフォースマイル」を紹介していただいたことでした。そのきっかけは、acviiが開店した経緯までさかのぼります。 acviiのオープンは東日本大震災が発生した翌月のことでした。当時、お客様からの募金と私自身の募金と合わせて数十万円を現地に送ったのですが、募金を継続するむずかしさを実感し、持続可能な活動支援でなければ意味がないと思うようになりました。そこで、支援金を確保するために、自社ブランドのコーヒーを作り、「売上金の利益分全額を未来ある子どもたちへの活動支援に使う」とドリップコーヒーを店頭で売ることにしたのです。 そんな風に細々と資金を溜めていたとき、私の思いに共感してくださったあるお客様がいらっしゃいました。大手企業の慈善事業部にいらっしゃる方で、未来ある子どもたちへ…という共通した思いを持つ「ブリッジフォースマイル」の存在や、児童養護施設の実態について教えてくれたことが、今の活動につながっています。活動を続けるために意識しているのは、ボランティアとして捉えないということ。ボランティアは一時的な事で長く続かないと思ってます。

―インターンシップを続ける理由とは?

子どもたちは未来の宝だと思うからです。 今の社会には、生まれた場所や環境による“負の連鎖”を断ち切れない構造があります。断ち切るために必要なのは、「自立」だと思っています。インターンシップを機に、「美容師になりたい」「やってみたい」と思う子がいれば、あるいは美容師ではなくても仕事の楽しさを感じることができれば、自立の道を歩むきっかけになると思うんです。 インターンシップを終えた後はバイトとして雇用してます。働いた分を、対価としてきちんと支払うことで「仕事をする」自覚につながるからです。また、手に職をつけるまでの道筋もきちんと、提示したいと考えています。例えば、18歳で施設を出た子が3年間、通信制の専門学校で勉強しながら働けば、21歳で美容師免許をとることができます。通常の専門学校と比較して学費は3分の1程度で、合計80万円くらいです。美容師として働きながら月2万円の学費を払い、3年でスタイリストになれる程度の経験も積むことができれば、その後の自立も見えます。仕事に就くための具体的なアドバイスも、私ができるサポートの一つかなと考えています。

―今後挑戦したいことは?

インターンシップの活動は終わりがないので、コツコツと続けていくだけです。雇用につながりスタイリストになって世の中に必要とされる人になってもらえたら嬉しいですね。インターンシップのほかに、地域の子どもたちを対象にしたワークショップも定期的に開催しています。美容師体験(ウィッグのカット、カラーリング、メイクというヘアスタイリングの基本を体験)のほかに、不要なガラス瓶から自分だけのグラスを作ったり、ミニ四駆を作ったり…。美容師体験以外は無料で開催しています。自分がやりたいことを企画して、子どもたちに遊んでもらっている気分なので、「何かをやってあげている」という感覚がないんです。子どもにとって、親や先生でも友達でもない大人の存在は大切です。私はこれをナナメの人間関係と呼んでいますが、「自分が好きなことを楽しそうに企画している人」として子どもたちに記憶してもらえたらそれでいい。将来「そういえば、あのおじさん、人生を楽しんでいたな」とふと思い出してくれたら、子どもたちの生き方の選択肢も少しは広がるかなと考えています。また、acvii、そしてスタッフも社会に必要とされる会社であり、人になっていけたらと思っています。

**プロフィール**

堀内彰夫さん

株式会社アクビ代表。美容師歴19年。2011年4月に美容室acviiをオープン。現在吉祥寺に3店舗を展開。児童養護施設の子どもたちを対象にした、美容師体験インターンシップを季節ごとに開催している。

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