企業の事業回復、信頼改善をサポート! 不正調査を通じて再発予防に努める、フォレンジック業務の魅力とは


―最初に、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー社におけるフォレンジック部門の業務内容を教えてください。

フォレンジックとは犯罪捜査における分析、鑑識を意味する語ですが、当社では「不正調査」を指します。

企業経営をしていると、従業員の横領や不正会計など、様々な不正・不祥事が起こります。こうしたものを社内だけで解明するのは難しい場合に、第三者の観点から調査することが求められるケースがあります。そのときに行われるのがフォレンジック業務であり、企業の財務諸表の適正性について意見を表明する会計監査と違うところです。

―フォレンジック案件のニーズは近年高まっているのでしょうか。

そうですね。企業の不正に関しては、製品の品質不正やデータ改ざんなど、様々な類型があります。ただ、不正件数自体が増えているというよりも、対外的な、きちんとした説明責任を求められるようになっているのだと感じています。

そうした背景から、上場企業内で調査委員会が設置され、我々のような社外の客観的、専門的な目で調査してほしいというケースが増えています。企業を見る社会の目が厳しくなっており、信頼性のある検証の上で説明責任を果たせなければ、その後の事業や会社自体が成り立たなくなる。その意識の高まりから、フォレンジック業務が伸びているのでしょう。

―お客様のニーズを受けてどうプロジェクトが組成され、どんなサービスを提供していますか。

代表的なケースでは、クライアント企業から依頼を受け、外部の弁護士事務所と共同で調査委員会を発足させます。上場企業のクライアントが多く、社内から一定の距離を置いて調査方法を組み立ててほしい、というニーズが高まっています。

調査の補助者あるいは実際の調査委員会の委員として、当社のメンバーが入る場合もあれば、当社単独で調査を行い、報告書を提出する場合もあります。

プロジェクトにどのメンバーをアサインするかは、案件の内容に応じて、部門内でアサイン会議を開催して検討します。

1つの事案にかかる期間は、だいたい2~3か月というケースが多いですが、これは案件の規模、複雑性などによって異なります。調査では、発生した不正内容・手口、不正による被害額などを調査するとともに、発生した原因、再発防止策などを報告書にまとめていきます。

同様の不正が再発しないようにすることが一つのゴールです。仮に起きてしまっても、企業自らが発見、正すために必要なこと、今まで足りなかったことをクリアにし、クライアントに還元すること。クライアントが自走できるようになることが、私たちの役割だと思っています。

―フォレンジック部門の組織構成やメンバーのバックグラウンドについて教えてください。

フォレンジックアドバイザーは約50人在籍し、うち2割が女性、1割が外国籍社員です。

バックグラウンドとしては、会計士のメンバーに加え、事業会社での内部監査出身者、経理出身者、海外の弁護士資格を持ったメンバーなど、多様な人材を抱えています。

―アナリストレベルの方がフォレンジック業務につく場合は、具体的にどのような業務内容になるのでしょうか。

例えば、事業会社で内部監査や経理を経験されていた方が入社された場合、力を発揮しやすいケースは再発防止での内部監査の強化だと思います。

自分が内部監査をする立場から、今度はそれをコンサルテーションしていく立場になるので、自分がやっていた経験をいかにクライアントに還元するかという視点が重要となります。事業会社出身の方は、会社の仕組みや事業の動き方を理解しているので、再発防止のために何をどう動かすべきかのイメージを立てやすいのです。実際に内部監査に同行のような形でサポートすることもあります。また、当社と監査法人の リスク・アドバイザリーチームと共同で実施するケースもあります。

―フォレンジック業務を進めるにあたり、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー社ならではの強み、特徴は何ですか。

会計系ファームとしての特徴となりますが、不正会計の調査に強い点が一つ。加えて、グループ会社を横断してプロジェクトメンバーをアサインしチームを構成することも多く、連携の強さは他社にはないところでしょう。

昨今はサイバーインシデントが増えてきており、そうした様々な不祥事に対応できる人材が当部門だけではなくグループ内にいます。各領域でのスペシャリストがいるので、起こった事象に応じてメンバーに入ってもらうことも多いですね。

―御社におけるフォレンジック業務のやりがいや面白さとは?

仕事の幅が広いことは、一つの魅力だと思います。

不正調査後の改善活動までコンサルテーションを行うので、不正、不祥事予防の仕組みづくりまでシームレスに展開していくことができます。不正がすでに発覚している段階では急ピッチに体制を作り上げる必要があり、クライアントの切迫感に合わせた迅速な対応が求められます。事業自体の見直しや事業再編が必要なときには、当社のM&Aや、リストラクチャリングの専門部隊といったメンバーとも一緒に仕事をするケースがあります。

不正調査だけに留まらず、その後に発展する業務を経験できるので、非常に学びが多いと思います。

不正調査の仕事ですから、クライアントにとって“よろしくない状況”に入っていかなくてはいけません。不正の影響で事業自体が下降トレンドに入っていくこともあります。しかし、調査を経て、会社として正すべきところを正し、その後また業績を伸ばしていく様子をニュースなどで目にすると、「あのときにやるべきことをやっておいて良かった」と実感します。

―フォレンジック部門で身につくスキルやキャリア価値は何でしょうか。

何らかの窮状に陥っている企業に対して、自分の力を役立てたいというマインド方には非常に面白い仕事だと思います。

フォレンジック業務を経たその後のキャリアとして、不正調査をずっとやっていきたいという方もいますし、事業再編やリストラクチャリングなど違う分野のコンサルティングをやりたいという方、事業会社に移って再発防止や改善、内部統制関連の仕事をしたいという方もいます。

不正調査では、再発防止提言の中に内部監査部門の強化が頻繁に出てくるため、そのコンサルテーションの経験を生かして事業会社で活躍されるケースもあるでしょう。内部統制、経営企画などの部門にはキャリアとして親和性がありますし、独立して再発防止業務を請け負う方など、様々なキャリア展開があります。

―これからジョインされる候補者の方へ、スキルやマインド面で求めることはありますか。

ベースとしての会計知識や、事業会社の構造を理解する力は必要だと思います。

マインド面では、いろんな業務に挑戦したい、幅広く経験を積みたいという方に向いていると思います。クライアントの業界は様々で、再発防止支援を続ける場合は1~2年と長期でお付き合いするケースもあります。企業文化はなかなかすぐには変えられるものでもないので、クライアントの状況を常にキャッチアップしながら、どういう仕組みづくり、ガバナンス構造が必要なのか、そのためにどんなチームでプロジェクトを動かしていくべきかをトライアンドエラーを重ねていく姿勢も大切です。

―監査業務においては、職業上、疑って見る視点も大事になると思います。フォレンジック業務においても重要になりますか。

そうですね。ただ、必要以上に疑うのではなく、きちんと論理立てて考えた上で調査すべき点、おかしな処理を指摘しなければいけません。クライアントには厳しいお話をすることが多いので、エビデンスに基づいたしっかりした準備が大事になります。

現場からは「なぜ不正を疑われなければいけないのか」と反発されることもあります。

でも、何らかの調査をするからには、それだけの理由がある。どんな形で調査しなければいけないのかを丁寧に説明し、可能な限り情報を伝えてご理解いただけるよう努めています。

―これからのフォレンジック業務を取り巻く市場はどうなっていくとお考えですか。そこで必要な人材と併せて教えてください

傾向として、日本企業の海外拠点での不正件数が増えており、その場合、グループの海外ファームと連携してプロジェクトを進めるケースが多いです。

コロナ禍により現地調査が難しく、オンラインコミュニケーションが増えています。現地の様子、地域の商慣習を理解したうえで、海外とコミュニケーションを図れることが非常に重要になっており、そうした理解の深い海外勤務経験者には、ぜひ来ていただきたいですね。

―最後に、フォレンジック業務に興味を持っている候補者の方へ、メッセージをお願いします。

業務の領域が広いので、スペシャリストとして不正調査を極めたい人も、幅広いコンサルテーションを経験してジェネラルなスキルを身に着けたい人にとっても、刺激的な仕事が待っていると思います。

フォレンジック業務は、やらなければいけないことを自分たちで立案する必要がありますます。

不正調査と一言でいっても、何をどこまでやるのかのプランニングはすべて自分たちで決め、クライアント等に対して「こういうアプローチで、こんな調査をします」と根拠を持って説明できなければいけません。業務がほとんど定型化されていないからこそ難しく、やりがいのある仕事だと思います。

数年先に、クライアントに何らかのいい影響を残せるよう、という長期視点で動ける方と、ぜひ一緒に働きたいと思っています。

*プロフィール
佐藤保則さん
デロイト トーマツ フィナンシャルアドバイザリー合同会社
パートナー/公認会計士

監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)に入社後、国内法定監査・IPO支援に従事。その後2007年よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて事業再生における調査、事業計画策定、金融支援交渉、スポンサー選定業務の他、M&A関連の調査等に従事。その後、大手自動車メーカーに出向し、国内事業会社の再編業務に携わる。2015年よりフォレンジックサービス部門に異動し、複数の大型不正調査案件のほか、調査後の再発防止計画の立案・実行支援の中でガバナンス・オペレーション改善や、各種当局対応支援の経験を有する。

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