差分で表す公式(生保数理編)


生保数理の直前対策としてコラム『アクチュアリー試験の直前対策』をアップして頂きましたが、より実践的な内容として『差分』に着目した公式をご紹介いたしましょう。

今回ご紹介する公式以外にも『差分』で表される公式があると思いますので、是非、探してみて頂き、もしなければ、自ら作り出すくらいの勢いでチャレンジしてください。

1.生存者数の差

\[l_x-l_{x+1}=d_x\]

恐らく、生保数理を初めて学習するときに、最初に出会う公式でしょう。年度始および年度末の生存者数の『差分』が当該年度の死亡者数に等しいことを表しています。

なお、実務上では、死亡率以外に解約率などを用いることも少なくありませんが、生保数理の教科書(注:2019年11月現在)では、少なくとも、養老保険などの単生命保険では、死亡以外の脱退は考えない模様です。

2.生存基数の差

\[vD_x-D_{x+1}=C_x\]

1.の公式に『金利』の要素を加えた公式ですね。\(v=1-d\) の関係を用いれば、{\(D_x\)}に関する階差数列が登場します。また、過去問で言えば、平成7年度(保険数学1)問題3での部分に左辺が当てはまります。

ちなみにこの問題は、古典的な有名な問題でして、養老保険の年払純保険料が累減定期保険の年払純保険料と定期積金の年払掛金の和に分解されるものです。実は、後述の7.も、この問題と深く関係しているのですが、機会があれば、改めてコラムに仕上げたいと思います。

3.据置生命年金現価

\[_{\small{f}|}a_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}=\ddot{a}_{x:{\overline{\small{\ f+n\ }|}}}-a_{x:{\overline{\small{\ f\ }|}}}\]

教科書(上巻)107ページ(4.3.23)の公式ですが、両辺とも年齢は\(x\)である点に注意が必要です。つまり、加入年齢を固定したまま、生命年金現価の差分で据置生命年金現価を表します。

4.生命年金現価の差(その1)

\[A^1_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}=v\ddot{a}_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}-a_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}\]

教科書(上巻)121ページ(4.6.10)の公式ですが、右辺の第一項に\(v\)を乗じることで、『期始の生存者数を維持したまま、期末の金利価値に修正する』というテクニックを駆使したものです。その結果、期始と期末の生存者数の差である当年度の死亡者が焙りだされて、定期保険の純保険料に等しくなるというカラクリです。

5.生命年金現価の差(その2)

\[A_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}=v\ddot{a}_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}-a_{x:{\overline{\small{\ n-1\ }|}}}\]

教科書(上巻)127ページ(4.9.5)の公式ですが、3.の公式に似ていますね。実際、定期保険と養老保険の差になりますので、満期保険金部分の有無がその差になります。

なお、(死亡保険金と同額の)満期保険金がある場合、最終保険年度の生存死亡は保険料に影響を与えません(∵ 死んでも生きても期末に1を支払う)ので、右辺の第二項の保険期間が\(n-1\)となる点が特徴です。

また、上式から、\(v^n {}_np_x\)を辺々引くと、左辺は定期保険に、また右辺は\(a_{x:{\overline{\small{\ n-1\ }|}}}\)が\(a_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}\)

になりますので、4.の公式が導かれます。(養老保険から満期保険金を引けば定期保険になることを言っているだけですが。)

6.確定年金現価と生命年金現価の差

\[\ddot{a}_{\overline{\small{\ n\ }|}}-\ddot{a}_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}=\frac{1}{D_x}\sum_{t=1}^{n-1} C_{x+t}\ddot{a}_{\overline{\small{\ n-t\ }|}}\]

教科書(上巻)134ページ問題(12)の公式ですが、いわゆる『収入保障保険(=お給料保険)』の一時払純保険料を表します。(厳密には、右辺の項数が\(n-1\)なので、n年満期の収入保障保険にする場合は、右辺の項数をnにする必要がありますが。)

また、この差分の考え方は後述の復帰年金にも通じるものでして、死亡後に遺族に対して年金形式で死亡保険金を支払うことを、まず、全員に年金を支払ってから被保険者が生存している人から年金を回収することで、給付対象の人(=死亡した人)の給付現価を焙りだすという方法です。

7.生命年金現価の『逆数』と確定年金現価の『逆数』の差

\(\frac{1}{\ddot{a}_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}}-\frac{1}{\ddot{a}_{\overline{\small{\ n\ }|}}}=\)\(第t年度の死亡保険金額=\)\(1-\frac{\ddot{s}_{\overline{\small{\ t\ }|}}}{\ddot{s}_{\overline{\small{\ n\ }|}}}\)\(となる累減定期保険の年払純保険料\)

教科書(上巻)162ページ問題(4)の公式ですが、直前の教科書(上巻)161ページ問題(3)からスタートして、教科書(上巻)162ページ問題(5)まで一連の問題です。

2.で紹介しました古典的問題の集大成とも言えるでしょう。

試験直前で構いませんので、この公式を覚えておけば、大幅に解答時間を省略できるかもしれません。

8.復帰年金

\[a_{x|y:{\overline{\small{\ n\ }|}}}=a_{y:{\overline{\small{\ n\ }|}}}-a_{xy:{\overline{\small{\ n\ }|}}}\]

教科書(下巻)121ページ(12.6.3)の公式ですが、期末払い年金である点が重要です。

実際、期始払にしようとすると、加入時点で既に(x)が死亡していることになりますので、そもそもこの保険に入れません。

また、上述の6.と同様に、(x)が死亡した後に(y)に年金を払う場合、(x)の生死に関係なく、まず(y)に対して年金をすべて支払ったことにして、各年度末で(x)(y)が共存していれば支払った年金を返還してもらう。そうすると、(x)が死亡した後に(y)に年金を払うことだけが、やはり、焙りだされます。

なお、この公式を用いた過去問では、選択肢を敢えて『期始払』のみとすることで、受験生を混乱させる狙いもあります。実際、上式の右辺で、『1を足して1を引く』という数学によく登場するテクニックを使うと、

\[a_{x|y:{\overline{\small{\ n\ }|}}}=\ddot{a}_{y:{\overline{\small{\ n+1\ }|}}}-\ddot{a}_{xy:{\overline{\small{\ n+1\ }|}}}\]となり、保険期間が\(n+1\)になるという、ある種の“ひっかけ”問題となります。

9.就業不能生存確率

\[_tp_x^{ai}=\frac{1}{l_x^{aa}}(l_{x+t}^{ii}-l_x^{ii} {}_tp_x^i)\]

教科書(下巻)158ページ(13.1.19)の公式です。左辺は就業者が就業不能になった後に(就業不能者として)\(t\)年後に生存する確率です。右辺はt年後に就業不能者として生存する者から、加入時点で既に就業不能者であった者を除外したものです。

特に、右辺の( )内の2番目の項で、\(_tp_x^i\) の右上の\(i\)が1つである点が特徴です。

10.就業不能者年金

\[a_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}^{ai}=a_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}^a-a_{x:{\overline{\small{\ n\ }|}}}^{aa}\]

教科書(下巻)163ページ(13.2.7)の公式です。左辺は就業者が就業不能になった年度末から(就業不能者として)生存する限り年金を支払う一時払純保険料です。

上述の復帰年金のような考え方をすれば、最初から、就業者に対してすべて年金を支払っておき、各年度末に就業状態であれば年金を返還してもらう仕組みです。

復帰年金と同様に、やはり、期末払の年金である点が特徴です。(∵ 加入時点で就業不能者は就業不能保障保険に加入できません。)

いかがでしたか?生保数理を攻略するためには、まず、基本的な公式を覚えることからスタートする必要がありますが、上記の公式はいずれも重要なものばかりです。教科書や過去問などを見ながら、1つずつ公式を吟味しているのも、意外と、合格への近道かもしれませんね。

(ペンネーム:活用算方)

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