これまで長年にわたり『保険研究所』が刊行してきた『インシュアランス保険統計号(保険研究所)』といえば、言うまでもなく保険業界と共に長年歩んできた業界紙です。
当該統計号は年次資料(例.生保は11月、損保は12月など)ですが、週刊誌としても、生損保別に業界内外の様々なニュースを取り上げ、保険会社などに納品されておりましたので、まさに、保険業界人にとってのバイブルといっても過言ではないですね。
そこで今回のコラムでは、90年代後半に当該資料に粛々とデータを無償で(笑)提供してきた一担当者として、廃刊に当たっての率直な感想などを、思いつくままに列挙いたしましょう。
1.廃刊経緯
“1927年11月創立(1947年設立)の「保険研究所」は2023年11月、経営者(N会長の横領)により、百年の歴史に幕を閉じました。”との記事がWEB上で見つかりました。
https://soi.co.jp/info/%E3%80%8E%E5%B0%8F%E9%87%91%E4%BA%95%E9%80%9A%E4%BF%A1%E3%80%8F%E3%81%AE%E6%8E%B2%E8%BC%89%E3%81%AB%E9%9A%9B%E3%81%97%E3%81%A6%EF%BC%92%EF%BC%90%EF%BC%92%EF%BC%94%E5%B9%B4%EF%BC%92%E6%9C%88/
なお、⽇本ハイコム株式会社という会社に当該資料の版権などが譲渡された模様でして、同社からのコメントが以下のPDFファイルで公開されております。
https://www.hcom.co.jp/contact/insurance2024.pdf
2.地方別データ
「決算状況表」といえば、保険業法第128条(報告徴求権)に基づき、保険会社から主務官庁へ決算データなどが報告されていますが、都道府県別のデータ(例.新契約高、保有契約高など)は掲載されていません。
一方、『インシュアランス生命保険統計号』では、これまで当該データが記載されておりましたので、決算状況表にないデータが市販の書籍に掲載されていることに驚いた記憶があります。
もっとも、当該データは、生命保険協会経由で、別途主務官庁へ報告されてはいるのですが。
3.創立96年の重み
上述の1.にあります通り、1927年11月創立を鑑みますと、実に100年近く稼働してきた歴史的権威のある資料(史料)ですが、業務上横領という恥ずかしい刑事事件で幕を閉じてしまうことは、著しくプロ意識が欠如した恥ずべき事態と言えるでしょう。
https://column.tmsn.net/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%BB%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3/
4.Xでのつぶやき
早速、X(旧ツイッター)でも“つぶやき”があるようです。
それにしても、イラストの似顔絵が御本人にソックリであることに、毎回、感銘を受ける次第です。
https://x.com/Cross_Stream2/status/1744649025822077158
5.植村先生のブログ
主務官庁にもいらした、福岡大学の植村先生のブログにも、本件に触れられています。また、毎年秋頃に刊行される『週刊東洋経済(臨時増刊号)』の巻末の決算データもなくなったことにも触れられていらっしゃいます。
大変残念でなりませんね。
https://nuemura.com/?s=%E4%BF%9D%E9%99%BA%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%8F%B7
6.赤字配当は可能か!?
1996年度決算で損保系生保が『赤字でも契約者配当準備金繰入』を行っていることが当該資料に掲載されております。
恐らく(2年目配当である)団体保険に対する繰り入れと想定されますが、“PL上の赤字”と“契約者(社員)配当準備金繰り入れ”とは、必ずしも相対ではないという事例として、今となっては大変貴重な資料と考えられます。
7.アクチュアリー試験対策
公私にわたり大変お世話になりました、アカラックスの坂本義輝氏がブログなどで、「アクチュアリー第2次試験対策として、同誌の『主要概況』を直近数年分チェックするだけでも効果的と評されましたが、まさに、当方もこの貴重なアドバイスのおかげで、正会員資格を取得することができました。
8.保有契約を英語で言うと?
同誌は日英両方の記載がありますので、英語の勉強にも大いに役立ちます!
例えば、保険契約のうち「保有契約」が「in force」と表現されることをとってみても、中学レベルの英単語でビジネス英単語が習得できるなど、特に外資系保険会社にお勤めの方から見ても実務に役立つ貴重な資料と言えるかもしれませんね。
9.O社の先見の明!?
SECに上場されている某O社は、同誌からの依頼データの一部に未回答とされていた時期があるようです。考えすぎかもしれませんが、こうなることを想定されて、必ずしも全てのデータを渡さなかったとの経営判断がなされていたとすれば、まさに、先見の明という感じでしょうか。
いかがでしたか。いよいよESR(経済価値ベースのソルベンシー規制)の導入間近ですが、USPなど、当該規制では保険会社の経験データの蓄積が大変重要になっているように思われます。まさに、“継続は力なり”ですが、業界全体の貴重なデータ群が経営者の不始末で消え去ることは本当に残念でなりません。
(ペンネーム:活用算方)
2025年06月03日 (火)
インシュアランス保険統計号(保険研究所)
