長年、生命保険業界に“どっぷり”浸っている身としては、一社専属性や特約自由など、いわゆる“生損保のルール差異”に、心を動かされる(=己の無知さを痛感する)機会が少なくありません。
幸い、勤務先の計らいで、損保総研(=公益財団法人損害保険事業総合研究所)主催の「特別講座」である「保険会社経営の今後を探る ~新たな健全性規制の導入を見据えて~」に社費で参加させていただけました。
そこで今回のコラムでは、当該講座における注目すべき事項を列挙しながら、これからの損害保険業界における課題および対処方法などについて、思いつくまま述べてみます。
1.植村先生のブログ
植村先生のブログは保険業界を中心に大変有名で、筆者も毎週月曜日(更新日)を楽しみにしている購読者です。
特に、文字だけではなく、写真も多様されていて、とても読みやすい構成になっている点がありがたいです。
皆様におかれましても、定期購読者の仲間入りを果たしていただけると幸いです。
https://nuemura.com/
2.リスク・マネジャー育成
一連の『損保問題』(例.BIGMOTOR事件、東急向け団体保険談合など)を受ける形で、日本損害保険協会から「リスク・マネジャー」の育成に向けた資格制度導入が計画されている模様です。
逆の言い方をすれば、これまでの損保業界では、「リスク・マネジャー」が不在の状態で、(適切に)保険引受リスク等を管理してきたということですので、果たしてどこまで有効なリスク管理がされてきたのか、若干の違和感が残る感じはします。
なお、損保代理店向けに、実に171項目!から構成される「チェックリスト」も導入されるようですので、当該リストを起点にした、けん制・監督機能の多層化が大いに期待されるところですね。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB17C5A0X10C25A6000000/
3.「ハ方式」廃止
「保険業法施行規則227条の2第3項4号ハ」に起因する「ハ方式」ですが、乗り合い代理店がこの「ハ」に該当していれば、比較推奨販売の業務負荷が軽減されるようです。
ただし、依然として、“保険会社からの募集手数料(キャンペーン手数料上乗せを含む)”に左右される販売が横行していることから、同方式の廃止に至った模様です。
なお、「ハ方式」を詳しく知りたい方は、以下のサイトがとても便利です。
A 顧客の意向に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターン
B 自店独自の推奨理由・基準に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターン
C 上記②の方法で、自店独自の推奨理由・基準に沿って商品(複数の商品)を選別した後、上記①の方法で、顧客の意向に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターン
一般に、上記Aを「ロ方式」(保険業法施行規則227条の2第3項4号ロの「ロ」が由来)、上記Bを「ハ方式」(保険業法施行規則227条の2第3項4号ハの「ハ」が由来)と呼び、上記Cを「ハ→ロ方式」や(ハ方式とロ方式の)「ハイブリッド方式」と呼ぶ。
https://jsa-s1003.or.jp/page-997/
4.第二ブランドへの移行
はなさく生命(日本生命)、ネオファースト生命(第一生命)、メディケア生命(住友生命)、なないろ生命(朝日生命)といった、大手中堅生保の子会社として第三分野保険を中心に展開する保険子会社を、植村先生は、『第二ブランド』と呼称されていました。
ただし、いわゆる“協会長会社”という意味では、明治安田生命に当該子会社がないように見えますので、イオン・アリアンツ生命を傘下に置かれた立場で、今後の展開がとても楽しみですね。
5.実質的な「利回り」
いわゆる“政策株”の売却で、空前絶後の高基礎利益を叩き出した昨年度決算でしたが、当該売却分を除いた“実質的な「利回り」”は、それほど多くありませんでした。
植村先生ご指摘の通り、キャピタルゲインを当てにせず、利息及び配当金等収入を中心とした“実質的な「利回り」”が、本来、保険会社に求められる修正指標と言えるかもしれません。
6.企業価値向上は、保険会社の使命か?
残念ながら、唯一、この点だけは、植村先生と意見が異なります。
実際、先生のご主張は、“企業価値を上げることが重要”でして、いつぞやの『村上ファンド事件』を彷彿とさせるような、村上世彰氏の名台詞である“企業価値を上げてくれ!”というコメントを思い出しました。
少なくとも、保険相互会社の場合、別に企業価値が上がらなくとも、安定した「インカムゲイン(≒利息及び配当金等収入)」が得られれば、相互会社としての使命は十二分に果たせたように感じます。
7.金融財政事情
7月22日号の『金融財政事情』の記事中、“大手損保グループの2025年3月期決算分析”として、植村先生が寄稿されておりますので、ご興味のある方は、是非ご一読いただければ幸いです。
https://kinzai-online.jp/node/13254
いかがでしたか。筆者は幸い、某保険シンクタンクに2000年頃に勤務する機会に恵まれましたが、当時、保険会計に関する会合で、植村先生と名刺交換させていただきました。あれから四半世紀が経過しましたが、これほど保険業界の大変革期を迎えることは、(筆者を含めて)当時は誰も想像していなかったように思います。
(ペンネーム:活用算方)
2025年07月28日 (月)
植村先生ご講義
