ESRルールの最終化


ご案内のとおり、いよいよ2026年3月末から、経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)が日本で導入されます。
幸い、昨年10月および今年1月に告示などの案が金融庁ホームページで公開されましたので、当該導入に向けた諸準備が各保険会社で進んでいたように思いますが、今年7月23日(水)に金融庁ホームページで、ESRルールの最終版が開示されました。
https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250723/20250723.html

そこで今回のコラムでは、当該最終版と初案との主な変更点について、気づいた順序で幾つかご紹介いたしましょう。

1.漢字 vs ひらがな

『保険会社向けの総合的な監督指針(以下、「監督指針」という。)』の新旧対比表(5ページ)にある、“地震・噴火又は津波”ですが、初案では、“地震・噴火または津波”となっていました。
“又は(または)”や“及び(および)”などは、プレゼン資料などでも非常に混在しやすい表現のため、監査法人在籍時には、特に念入りにチェックしていた記憶があります。
https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250723/16.pdf

2.告示の番号・日付

監督指針の新旧対比表(16ページ)にある、“令和7年7月23日金融庁告示第75号”ですが、初案では、“令和○○年○○月○○日金融庁告示第○○号”(←注:○○は空白)となっていました。

3.別紙様式の追加

監督指針の新旧対比表(19ページ)にある、“拘禁刑以上の刑”ですが、初案では、“禁錮以上の刑”となっていました。
令和7年6月から、懲役及び禁錮が廃止され、新たな刑として拘禁刑が創設されたことに伴う修正のようですが、思わぬ余波がESRルール制定に絡んできた模様です。
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00164.html#:~:text=%E7%9F%AF%E6%AD%A3%E5%B1%80%E3%83%A1%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC&text=%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%97%E5%B9%B4%EF%BC%96,%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%A7%E5%85%AC%E8%A1%A8%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=PDF%E5%BD%A2%E5%BC%8F%E3%81%AE%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%92,%E6%9C%88%E6%99%82%E7%82%B9%E3%81%AE%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

4.別紙様式の追加

幾つかの別紙様式も追加されています(例.別紙様式第一号の二など)。
恐らく、「控除合算手法」にかかる追加と想定されますが、余力があれば、次年度以降のアクチュアリー試験対策の一つとして、「控除合算手法」の概要を学習されても良いように思われます。
https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250723/08.pdf

5.その他の気づき

いわゆる“3つの柱”のうち、“第2の柱”に関する告示などは、まだ発出されておりません。
ひょっとすると、各社マターの範疇のため、敢えてルール化することは不要と判断されたのかもしれません。
https://www.fsa.go.jp/singi/keizaikachi/siryou/20191021/01.pdf#:~:text=*%20%E7%AC%AC1%E3%81%AE%E6%9F%B1%EF%BC%88%E5%AE%9A%E9%87%8F%E8%A6%8F%E5%88%B6%EF%BC%88%E6%9C%80%E4%BD%8E%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%89%EF%BC%89%20*%20%E7%AC%AC2%E3%81%AE%E6%9F%B1%EF%BC%88%E8%87%AA%E5%B7%B1%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%A8%E7%9B%A3%E7%9D%A3%E4%B8%8A%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BC%EF%BC%89%20*%20%E7%AC%AC3%E3%81%AE%E6%9F%B1%20*%20%EF%BC%88%E9%96%8B%E7%A4%BA%E3%81%A8%E5%B8%82%E5%A0%B4%E8%A6%8F%E5%BE%8B%EF%BC%89

いかがでしたか。ESRルールの最終化は、蓋を開けてみると初案からは大きく変わらず、“ほっと胸をなでおろしている”保険会社も少なくなかったかもしれません。
もちろん、ESRは(生命/損害)保険会社向けの規制としてグローバルスタンダードですが、ふと、素朴な疑問が沸いてきました。それは、同様の規制が「信託銀行業界」にも存在するのか?ということです。

日本では、アクチュアリーと言えば、保険会社に従事している方々が圧倒的に多いのですが、一方、信託銀行の「年金アクチュアリー、年金数理人」も一定存在(注:会員比率6%!)されています。
某アクチュアリー大先輩曰く、“保険会社だけに酷な規制を適用するのは、信託銀行との比較で極めて不公平では?”と言われてしまいまして、残念ながら当方の拙い知識では、“銀行もBIS規制がある”、“CET1比率など、銀行業界においても新規性が順次導入されているはず”という感じで“やんわりと”返すのが限界でした。

(ペンネーム:活用算方)

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