2025年度のアクチュアリー試験(公益社団法人日本アクチュアリー会の行う資格試験)の当初日程が経過しましたが、「生保1」のPC不具合により、一部の会場で受験できない事態が生じた模様です。
そこで今回のコラムでは、CBTによる資格試験制度全般にかかる課題などについて、思うところを幾つかご紹介いたしましょう。
なお、当コラムは、日本アクチュアリー会の追試対応を何ら批判するものではないことを予め申し添えておきます。
1.事実関係
日本アクチュアリー会ホームページによれば、2025年12月8日実施の「生保1」について、一部の会場(例.池袋駅西口Aなど)において、PC不具合のため一部の受験生が受験できない事象が生じました。
その後、受験できなかった方のうち希望者を対象に「追試験」を実施される旨が、同月17日に同会ホームページで公開されました。
2.追試の要領
『「生保1」の追試験の実施について』と題した文書が同月17日に同会ホームページで公開されました。
具体的には、以下の内容です。
試験日時:1月 20 日(火)10:00~13:00(3 時間)
試験会場:日本アクチュアリー会 大会議室
試験の方式:試験問題を紙で配付し、解答は試験会場に備え付けの PC に入力(ただし、CBT 方式ではない)
試験内容:正規試験と同様
追試験問題の公表:一切せず
共通テストと同様に、一般的には「追試」は「本試」に比べて難化傾向にあるとも言われますが、もし、追試を受験された方とお話させていただける機会があれば、是非、問題内容が知りたいところです。
なお、追試については、CBTを運営するプロメトリック社のホームページにも情報が掲載されています。
3.責任の所在
今回のトラブルは、使用するPC機器の不具合とのことですが、そもそも、このような事態に備えるような取り決め(例.日本アクチュアリー会とプロメトリック社との間の業務委託契約書など)があったのか、仮に、あったとすれば、どのような対処方法がルール化されていたのかなど、リスク管理業務に従事しているアクチュアリーとして、様々な疑問が湧いてきます。
幸い、今回「追試」という決着方法の前例ができたようですので、試験委員の作問負荷は増大しましたが、受験生にとっては、ある種のセーフティーネットが構築された形になりましたので、一安心というところかもしれませんね。
4.対応策(その1)
僭越ながら、筆者が本件当事者であった場合の対応策を考えてみました。
1つ目は、やはり「追試」ですね。
今回の対応では、平日開催はやむを得ないとしても、社会人であれば、勤務先との調整(例.有給休暇で対応するか、勤務扱いとするかなど)が悩ましいところです。ひょっとすると、年末年始の有給休暇を当該試験に振り替えた受験生もいらっしゃったかもしれません。
5.対応策(その2)
いわゆる“金銭(賠償金)”による解決です。
もちろん、追試がないという前提ですが、場合によっては、正会員になる時期が1年遅れたことによる損害賠償金を受験生に支払う形となりますが、そもそも、当該賠償金を適正に算定できるのかという(追試以上の)難題があります。
また、試験が正常に実施されていれば、合格できたはずという客観的な証拠を示すことも、非常にハードルが高いように思います。
6.対応策(その3)
受験生にとっては厳しいルールですが、PC機器の不具合など、運営サイドにとってある種の「不可抗力」に伴う受験機会喪失は、救済措置の対象外とするものです。
今回の不具合の発生原因は当事者(特に、プロメトリック社)において、しっかり検証する必要はもちろんですが、大規模停電や自然災害(例.大地震など)による不具合であれば、異なる対応を余儀なくされるかもしれません。
少なくとも、同会の大会議室で収容できる人数が対象であったことが、せめてもの救いだったかもしれません。
7.今後に向けて
「追試」という対応策を見た第一印象としては、特に、第2次試験(専門科目)ということもあり、最初に浮かんだのは、“手書きに答案用紙でどうやって「文字数」をカウントするのだろう?”という点でした。幸い、解答はPC入力できるようですので、その心配は不要かもしれません。ただ、CBTと全く同じ環境(例.隣席との境界など)になるとは限りませんので、隣人のキーボード音などが気になるかもしれません。
いかがでしたか。筆者も立場上、アクチュアリー試験の受験生から受験相談や進路相談を頂く機会が少なくないのですが、その際、「CBT」と「CBT方式」という用語が混在していることが少し気になっていました。幸い、今回の件で「プロメトリック社のホームページ」を改めて注意深く拝見したところ、当該ホームページで「CBT方式」という用語を見て、無事に疑問点解消に至りました。
いずれにせよ、受験生の方々が安心して受験できる環境づくりの大切さを改めて痛感いたしました。
(ペンネーム:活用算方)