【連載企画3】令和6年財政検証を読み解く―アクチュアリー試験対策―


第3回:人口動態と被保険者数の将来推計

― 少子高齢化の中で年金財政を支える構造

はじめに

年金財政の持続可能性を考える上で、最も重要な要素の一つが被保険者数の将来推計です。保険料収入は被保険者の数と賃金水準に直結するため、人口減少と高齢化がどの程度進行するのかを正確に見通すことが財政検証の出発点となります。

第3回では、令和6年財政検証における人口動態の前提(出生率・死亡率・国際人口移動)と、それに基づく被保険者数の将来推計を解説します。


1. 人口推計の3つの前提

財政検証における人口の将来見通しは、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が令和5年4月に公表した「日本の将来推計人口」を使用しています。将来人口に影響を与える要素として、以下の3つの前提が設定されています。

【人口推計の3要素】

  • 出生率:将来の合計特殊出生率の仮定
  • 死亡率:平均寿命の伸びの仮定
  • 国際人口移動:外国人の入国超過数の仮定

それぞれについて、中位・高位・低位の3通りの前提が設定されており、これらを組み合わせることで複数のシナリオが構築されています。今回の財政検証では、特に外国人の入国超過数についても幅を持たせた設定がなされています(25万人、16.4万人、6.9万人の3パターン)。


2. 総人口と高齢化率の推移

社人研の将来推計人口(中位推計)によれば、我が国の総人口は長期の減少過程に入っています。

【総人口の推移】

  • 2024年:約1億2,615万人
  • 2031年:1億2,000万人を下回る
  • 2056年:1億人を割り込み9,965万人
  • 2070年:8,700万人

高齢化率(65歳以上人口の割合)も上昇を続け、2037年には33.3%(3人に1人が高齢者)2070年には38.7%に達すると推計されています。

【図1】総人口と高齢化率の推移(2024-2070年) (出典:厚生労働省「令和6年財政検証結果レポート」第1-1-7図、17ページを基に作成)

一方で、生産年齢人口(15~64歳)の割合は2024年の59.5%から2070年には52.1%へ低下します。この変化は、年金制度を支える現役世代の減少を意味しており、財政検証における給付水準調整(マクロ経済スライド)の必要性の根拠となっています。


3. 合計特殊出生率の将来見通し

合計特殊出生率は、1人の女性が生涯に産む子どもの数の平均を示す指標です。人口維持水準は約2.07とされていますが、我が国の実績は長期にわたりこれを大きく下回っています。

【合計特殊出生率の推移】

  • 1950年:3.65(第一次ベビーブーム期)
  • 1966年:1.58(ひのえうま)
  • 2005年:1.26(過去最低を更新)
  • 2024年:1.15(現在の最低水準)

将来推計(令和5年推計)では、2024年の1.15を底として、その後緩やかに上昇し、2070年には中位で1.36に達すると仮定されています。ただし、高位推計では1.64、低位推計では1.13と、幅を持った設定がなされています。

【図2】合計特殊出生率の推移と将来推計(1950-2070年) (出典:厚生労働省「令和6年財政検証結果レポート」第3-5-3図、230ページを基に作成)

人口維持水準との乖離 人口を長期的に維持するためには、合計特殊出生率が約2.07必要とされています。しかし、中位推計の2070年の値1.36でもこれを大きく下回っており、人口減少は今後も継続する見通しです。


4. 平均寿命の将来推計

平均寿命の伸びは、年金給付期間の長期化を意味します。このため、マクロ経済スライドにおける「平均余命の伸び率0.3%」という調整要素の根拠となっています。

【平均寿命の推移と将来推計(中位)】

  • 2024年:男性 81.09年、女性 87.13年
  • 2070年:男性 85.89年、女性 91.94年

高位推計(余命の伸びが小さい)では2070年時点で男性84.56年・女性90.59年、低位推計(余命の伸びが大きい)では男性87.22年・女性93.27年と設定されています。

マクロ経済スライドへの影響 スライド調整率 = 被保険者数減少率(3年平均)+ 平均余命の伸び率0.3% → 平均寿命が伸びるほど、給付水準の調整が必要になる仕組みです。


5. 外国人入国超過数の設定

今回の財政検証では、近年水準が大きくなっている外国人の入国超過数について、初めて幅を持った3通りの設定がなされました。

【外国人入国超過数の3パターン】

  • 高位:25万人(近年の実績を上回る水準)
  • 中位:16.4万人(2016~2019年の平均実績)
  • 低位:6.9万人(前回(平成29年)推計時の仮定水準)

外国人労働者の増加は、生産年齢人口の減少を一部緩和する効果があります。ただし、この前提は政策的な要素が強く、入国管理制度や労働市場の状況に依存するため、不確実性の高い要素でもあります。


6. 被保険者数の推計方法

被保険者数の将来見通しは、社人研の人口推計に加えて、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)による「労働力需給の推計」(令和6年3月)を使用しています。

【推計手順】

  1. 性・年齢別の将来推計人口を基礎とする
  2. 有配偶割合を乗じる
  3. 労働力率を乗じる(JILPTの労働力推計に基づく)
  4. 雇用者比率を乗じる
  5. 厚生年金被保険者割合を乗じる
  6. マクロ試算との整合性を確認・調整

労働力率については、以下の3つのシナリオが設定されています。

【労働力率の3シナリオ】

  • 労働参加進展シナリオ:女性や高齢者の労働参加が大きく進展するケース
  • 労働参加漸進シナリオ:緩やかに進展するケース
  • 労働参加現状シナリオ:現状の労働参加水準が継続するケース

最も楽観的な「労働参加進展シナリオ」では、2040年に向けて女性20~50代の労働力率が90%前後に達すると想定されています。また、男性60~69歳の労働力率も大幅に上昇し、高齢者の就業が進む前提となっています。


7. 第1号・第2号・第3号被保険者の将来推計

公的年金被保険者は、以下の3つのカテゴリーに分類されます。

【被保険者の分類】

  • 第1号被保険者:自営業者、学生、無職者など(国民年金のみ加入)
  • 第2号被保険者:会社員、公務員など(厚生年金に加入)
  • 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養される配偶者

労働参加進展シナリオ・人口中位推計に基づく将来見通しは以下の通りです。

【被保険者数の将来推計(労働参加進展・中位)】

年度第1号第2号
(厚生年金)
第3号合計
2024年1,330万人4,740万人670万人6,740万人
2040年860万人4,710万人370万人5,940万人
2060年710万人3,770万人300万人4,790万人
2070年630万人3,410万人270万人4,310万人

【図3】被保険者数の将来推計(2024-2070年) 被保険者数の推計 出典:厚生労働省「令和6年財政検証結果レポート」第1-2-19表、47ページを基に作成)

推計の特徴

  • 第1号被保険者は、自営業者の減少や学生人口の減少により、大幅に減少します(2024年1,330万人→2070年630万人)。
  • 第2号被保険者は、生産年齢人口の減少に伴い減少しますが、労働参加の進展により減少幅は抑えられます(2024年4,740万人→2070年3,410万人)。
  • 第3号被保険者は、女性の就業率上昇により大幅に減少します(2024年670万人→2070年270万人、約60%減)。

8. 年金財政への影響

被保険者数の減少は、年金財政に以下のような影響を及ぼします。

【保険料収入への影響】 保険料収入 = 被保険者数 × 平均標準報酬 × 保険料率 → 被保険者数が減少すれば、保険料収入も減少します。

【マクロ経済スライドへの影響】 スライド調整率 = 被保険者数減少率(3年平均) + 平均余命の伸び率0.3% → 被保険者数の減少が大きいほど、給付水準の調整も大きくなります。

このため、労働参加の進展(特に女性や高齢者の就業促進)は、年金財政の持続可能性を高める重要な政策課題となっています。


まとめ

人口動態と被保険者数の将来推計は、財政検証の根幹をなす重要な前提条件です。社人研の人口推計とJILPTの労働力推計を組み合わせることで、精緻な被保険者数の見通しが作成されています。

少子高齢化が進む中、労働参加の進展が年金財政を支える鍵となることが明確に示されています。特に、女性や高齢者の就業促進は、被保険者数の減少を抑制し、保険料収入を確保するために不可欠です。

💡 重要な数値

  • 総人口:2024年 約1億2,615万人 → 2070年 8,700万人
  • 高齢化率:2024年 29.1% → 2037年 33.3% → 2070年 38.7%
  • 合計特殊出生率(中位):2024年 1.15 → 2070年 1.36
  • 平均寿命(中位・2070年):男性 85.89年、女性 91.94年
  • 外国人入国超過数(中位):16.4万人
  • 被保険者数:2024年 6,740万人 → 2070年 4,310万人

参考資料

ペンネーム:Mah

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