事業再生アドバイザリーで得られるスキルと仕事の魅力


FASの中でも事業再生アドバイザリーの仕事にはどんな面白さ、大変さがあるのだろう。PwCアドバイザリー合同会社でマネージャーとして事業再生業務を手掛ける山本至(やまもといたる)さんに伺った。

■事業再生案件の傾向

――最近の事業再生案件の傾向と今後の動向について教えてください。

従来の事業再生案件は、業績の悪化から私的再生を進めることが一般的でした。しかし、この数年は、不祥事などに端を発する危機対応を依頼されるケースが多くなっているように感じています。こういうケースでは、同部署内のフォレンジックチームと協働で対応することも多くあります。

また、グローバル関連の案件も増加傾向にあり、当社でも海外事業再生チームが立ち上がりました。日系企業から「海外にある子会社の立て直しをしたい」「オペレーションを改善したい」といったニーズをいただくことが多くなっています。これは、海外の子会社を買収したもののうまく機能していないというケースが少なくないためです。

■事業再生アドバイザリーの組織と業務内容

――事業再生アドバイザリーの道を選んだ経緯を教えてください。

2004年に当時の公認会計士2次試験に合格し、翌年から7年間、監査法人で会計監査を担当していました。マネージャーになるタイミングで、会計監査を極めていくのか、あるいはもっと広くビジネスを見渡せるようなポジションで仕事をしていくのかと悩み、後者の道に進もうと転職を考えました。事業再生を選んだのは、苦境に陥っている企業の支援をしたいという思いが強かったからです。そして、PwCアドバイザリー(以下PwC)を選んだのは、事業再生の分野におけるリーディングカンパニーだったからです。

――事業再生アドバイザーとして、PwCで働く魅力とは?

経営課題のあらゆる領域に対応できる点と、世の中的に注目度の高い大企業の再生案件に携わることができる点です。

事業再生部門には、金融機関、コンサル、会計士、ファンドといったさまざまなバックグラウンドのメンバーが100人超在籍しています。また、当社には、M&A、税務、コンサルティングと、それぞれの分野に専門的なチームがあり、そういったメンバーとも柔軟に連携して案件を推進するからこそさまざまな経営課題に対応することができます。実際に私がこれまで担当した案件は、事業再生部門以外の部門のメンバーと一緒になって、クライアントを支援することが多いです。

こういったことを約20年にわたり継続し多くの難しい案件も対応してきたからこそ、複雑な大企業の再生案件でもご依頼を頂けるということにつながっているのだと思います。

――具体的な業務内容について教えてください。

入社後、最初に携わったのはあるメーカーの事業再生案件でした。クライアントに常駐し、経営計画の策定やモニタリングに加え、コスト構造の可視化や営業管理手法の改善などを担当しました。当時は、監査法人時代とはまったく異なる業務内容についていくのに必死でした。事業部門の経営会議や実務的な部内会議など、重要な社内会議に同席させていただくことも多く、そこで見えた課題に、PwC Japanグループのコンサル部門と一緒に取り組むなど、業務の幅はどんどん広がっていきました。

2年半のプロジェクトを終えた後は、経営が危機的状況に陥ったメーカーでの再建計画の策定支援、資金繰りの見直しや経営管理手法の高度化など、数年ごとにさまざまなプロジェクトを担当しました。

どの案件でも、クライアントに常駐し現場深くにまで入り込んで、クライアントと一緒になってプロジェクト進めていくスタイルもPwCの特徴といえるかと思います。

――事業再生アドバイザリーとM&A業務の明確な違いとは?

事業再生担当はジェネラリスト、M&A担当はスペシャリストだなと感じます。PwCのM&A部門は、専門領域によって財務デューデリジェンス、バリュエーション、PMI、FAなどの専門性に応じてチーム分けされています。

一方、事業再生部門は専門性に応じたチーム分けはなく、経営全般の課題を広く解決していくジェネラリストとして、その都度必要領域に強みを持ったメンバーと一緒にチームを組み、プロジェクトを進めていきます。厳しい局面を一緒の乗り切ったクライアントと長く深い信頼関係を築けるのも、事業再生の魅力だと思います。

■事業再生アドバイザリーとして活躍する人材

――どんなバックグラウンドの人が活躍していますか?

事業再生部門のメンバーのバックグラウンドは、銀行などの金融機関、コンサル、そして会計士が多く、次に、ファンドや事業会社出身者が続きます。それぞれが強みを生かして、事業再生アドバイザーとして、正解がない中で切磋琢磨しながら活躍しています。

私のように会計士の場合、最初は、計画策定やモニタリング(予実管理や分析)など、数字周りに軸足をおいて取り組むことが多いです。そこから徐々に幅を広げてさまざまな案件に取り組んでいくことになります。

会計士ですから、数字に強いのはもちろんですが、クライアントのビジネスにも興味をもって案件に取り組んでいる方が活躍している印象です。弊社の案件では、クライアントの戦略やビジネスモデルを数字ベースで構造的に理解し、それを理路整然と説明・表現するスキルが必須なので、クライアントの事業そのものに強い関心があることが大前提となります。そういう方であれば、弊社の案件で数字を扱わないことはほとんどないので、活躍できるチャンスは多いと思います。

■得られたスキル

――事業再生アドバイザリーとして、得られたスキルは何でしたか?

転職して以来、この6年弱はとても濃密な時間だったので、何か特定のスキルに絞ることは難しいですが、チャンレンジ精神を持って取り組める方であれば、経営に関するあらゆるスキルを身に付けるチャンスは十分にあると思います。プロジェクトごとに立ち位置や求められるスキルが異なるため、いまだに毎日が勉強で、インプット量の多さに驚きながら業務を進めています。

私は、まだまだ得られたとはいえませんが、クライアントの経営陣の視点から課題を見いだし、それに対する施策を立案・実行するスキルを身に付け、クライアントの事業再生のために役立てるアドバイザーを目指していきたいと思っています。

――事業再生を目指す方へのメッセージをお願いします。

「事業再生をやりたい」という強い思いがなければ、長く続けられない仕事だと思います。難しい経営状況にいるお客さまからの厳しい要望や、債権者側からのプレッシャー、次々と降りかかる課題など、大変な要素はたくさんあります。特に会計士は、課題解決の思考法から変えていかないと対応できず、最初は相当苦労があると思います。しかし、「苦境に陥っている企業を支援したい」など、根っこの部分に強い思いがあれば、得られるものも非常に多いでしょう。何より、一生懸命やり遂げたあとに気持ちを込めて感謝を伝えられると、やってきてよかったと心から思えます。

<プロフィール>
山本至(やまもといたる)さん

2004年に大学卒業後、大手監査法人に入所。日米の会計基準に基づく、財務諸表監査や内部統制監査を担当。2012年にPwCアドバイザリーの事業再生部門に参画し、多用多彩な事業再生プロジェクトを担当し、現在に至る。

 

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