平準保険料の意義


生保数理を初めて学ぶ時、最初にぶつかる『壁』が『平準保険料』という概念です。

生命保険制度が福沢諭吉によって初めて日本に紹介されたのは明治時代の『西洋案内』でしたが、当時、ドイツの制度が紹介されましたので、『平準保険料』という概念は、既にドイツにおいて導入済であったものと推測されます。

そこで、今回のコラムでは、平準保険料を導入することで、生命保険事業にどのような影響が出てくるのかを、初心者向けに分かり易く解説してみましょう。

1.集金業務の効率化
明治時代には、当然、パソコンやクレジットカードはありませんでしたので、保険料の集金は手作業で行っていたであろうと思われます。保険料払込方法が一時払以外の場合、毎回集金する都度、保険料が変わってしまうと、事務ミス等を引き起こす原因になりますので、保険期間満了まで被保険者の(到達)年齢に係らず、常に同じ保険料とすることが望ましいと考えられます。
つまり、集金業務を効率化させるという実務上の要請から、平準保険料が誕生したと言えるかもしれません。

2.解約控除の不可避
生保数理の教科書(下巻、第7章)では、付加保険料(予定事業費)のうち予定新契約費が保険金額比例で、かつ、加入時のみ賦課することとなっています。
一方、平準保険料を採用しているため、毎回の保険料は常に同額となります。
したがって、契約時に募集手数料等で一時的に多額の支出が保険会社に発生しますが、その回収には、後日、継続的に払い込まれる保険料の一部として回収せざるを得ない構造となります。
このため、保険期間の途中で解約されてしまうと、新契約費の未回収分を解約契約から回収しなければならず、これが、解約控除と呼ばれるものになります。
つまり、平準保険料の導入は、解約控除を不可避的に発生させるとも言えます。

3.責任準備金(保険料積立金)の不可避
一般的に、死亡などの保険金支払率は経過年数とともに上昇しますが、平準保険料は経過年数に依らず常に一定です。このため、保険期間の前半では『剰余』が発生し、保険期間の後半では『不足』が発生します。
そこで、前半の『剰余』を社外流出させることなく、保険会社の内部にプールしておいて、その金額を元手に資産運用すれば、将来の利息及び配当金等収入が得られるため、その分、保険料を割り引くことも可能です。
このように、平準保険料の導入は、責任準備金(保険料積立金)を不可避的に発生させるとも言えます。
残念ながら、この責任準備金のおかげで、一時払養老保険などのように、生命保険商品と貯蓄型金融商品の区別が曖昧となり、挙句の果てに、逆ざやを誘導するという、何とも皮肉な結果につながります。
保険会社としては、やはり、(貯蓄性の低い)保障に徹すべし、という教訓かもしれません。

4.機関投資家としての役割
上述の責任準備金を元手に、機関投資家としての役割を果たすことも、保険会社にとっての重要な使命でしょう。実際、公共事業や公共性の強い分野に積極的に投資することで、我が国の繁栄に大いに資する役割を果たしてきたのも事実です。
バブル時代の、『ザ・セイホ』と呼ばれた時代は二度と来ないかもしれませんが、少なくとも、保険事業は極めて公共性の高い事業であることに変わりはないでしょう。

いかがでしたか。パソコンはもちろん電卓さえなかった時代に、如何にして事務ミスをなくし、そして、如何にして効率的に生命保険業を営むために、先人たちがひねり出した英知としての『平準保険料』は、100年以上経っても脈々と受け継かれています。
そして、未来永劫、この制度を守り抜くことこそが、我々に課された使命であるといっても過言ではないでしょう。

(ペンネーム:活用算方)

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