【2019年(令和元年)の公的年金の財政検証について】


昨年は、5年に一度の公的年金の財政検証の年でした。

8月に厚生労働省から、「財政検証の結果」、および「オプション試算の結果」が公表されています。

この結果を受けて、社会保障審議会の年金部会で課題が論議され、年金の法改正に進んでいくという流れです。

この財政検証等の結果公表を受けて、昨年9月に開催された年金綜合研究所主催の「第17回 年金綜合研究所シンポジウム「2019年(令和元年)の財政検証を考える」」に参加し、厚生労働省年金局数理課長 山内孝一郎 氏の講演を聞いてきました。

こちらに講演の資料も掲載されているのでお時間のある方は、ご参考までご覧ください。

https://www.issopm.or.jp/symposium/16_1.html

山内課長曰く、「一言で言うと公的年金は大丈夫です」と端的に表現されていました。

5年に一度ということですので、前回対比ということでも過度に良くも悪くもなく、年金の財政はほぼ想定通りで推移していくであろう、ということだと思います。

もちろん手放しで問題ない、というわけではなく、課題は当然あるので、現状での問題点を整理し、必要な年金制度の改定策を講じていくというきっかけにもなっています。

もともとは「財政検証」ではなく、「財政再計算」でした。

「財政再計算」は文字通り、年金保険料を見直す、ということなので、毎回のように年金保険料が引きあがっていっていましたが、2004年(平成16年)年金制度改正に導入された年金財政のフレームワーク(以下単に「年金財政フレームワーク」という)によって、保険料の上限を固定し給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」を導入した今の仕組みになり、「財政検証」が行われるようになりました。保険料の上限を決めてしまったので、財政再計算をする必要なくなったものの、年金財政フレームワークを導入した以降も、人口や経済の動向により、年金財政が変動していきますので、財政のチェックが必要になってきます。

そこで、少なくとも5年ごとに、「財政見通しの作成」「給付水準の自動調整(マクロ経済スライド)の開始・終了年度の見通しの作成」を行い、年金財政の健全性を検証していこう、というのが「財政検証」となります。

この検証時に「次の(さらに5年後)財政検証までに、所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準調整の終了その他の措置を講ずるとともに、給付及び負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講じる」こととなっているので、5年後の所得代替率がどうなっているのか、を見込むのも重要な検証ポイントとなります。

さて、初めての方のために、年金財政フレームワークについて、簡単にご説明をしておきましょう。

(財政検証一つだけでも相当学びがあるのですが、終わらないので、個別のパーツについては、次回以降でまた詳しく説明をしていきたいと思います。)

<年金財政フレームワークの4つのポイント>

1.上限を固定した上での保険料の引き上げ

それまでの厚生年金保険料は13.58%⇒上限18.3%(労使折半2004年度価格)

国民年金保険料は上限17,000円。

上記まで、段階的に保険料を引き上げて、2017年に引き上げが完了しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000175945.html

要するに15年も前から計画的に保険料を引き上げてきた、ということです。

 

2.負担の範囲内で給付水準を自動調整する仕組み(マクロ経済スライド)の導入

負担の範囲内で何とか公的年金が持続するように、そして後世の皆さんの負担が過重なものにならないよう、給付水準を徐々に引き下げていく、ということです。

マクロ経済スライドは、また別テーマでも詳しく述べていきますが、「平均余命の伸び率を勘案して設定した一定率」、「公的年金の全被保険者数の変動率の実績」によりスライド調整率が決まり、一定のルールのもと調整(引き下げ)をしていきます。

つまり、こちらも基本的には決めた通りに、将来に向けて、少しずつ給付水準を引き下げていく、ということを進めているわけです。(実際にはうまく引き下げられていないのが課題になっていますが)

 

3.積立金の活用

概ね100年間で財政均衡を図る方式として、財政均衡期間の終了時には、給付費1年分程度の積立金を保有することとし、現状の積立金を活用して、後世代の給付に充てようというものです。

現状では公的年金の資産額はざっくり164兆円ありますが、こちらについて長期的に取り崩していき、最終的には給付費の1年分くらいを残す程度でバランスすることを目指しています。公的年金は賦課方式といって、給付に必要な保険料を得ることでバランスさせています。積立金は最終的な給付水準に到達するまでの緩衝材的なものとも言えます。

 

4.基礎年金国庫負担の2分の1への引き上げ

基礎年金給付費に対する国庫負担=国の負担を2分の1とするよう、負担割合を引き上げています。

 

ここで財政検証の給付水準のキーとなる指標「所得代替率」について少し触れたいと思います。

給付水準を調整すると言っても、所得代替率50%を確保しよう(=現役世代の収入の半分くらいは年金としてもらいたいね)、といのが大枠です。

ちなみに2019年度の所得代替率は61.7%となっています。

 

この所得代替率は、下記の算式で計算されます。

2019年所得代替率61.7%=(夫婦二人の基礎年金13万円+夫の厚生年金9.0万円)/現役男子の平均手取収入35.7万円)

ただ、あくまでも上記の夫婦世帯モデルだけでしか見ていないので、単身世帯や、高所得者の場合などによって所得代替率は変わってくると思っておいてください。この話題もまた別途していきたいと思います。

 

前述の「次の(さらに5年後)財政検証までに、所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準調整の終了その他の措置を講ずるとともに、給付及び負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講じる」とは、マクロ経済スライドなどで、どんどん給付水準を下げていくことを決めてはいますが、人口の動向や経済の状況などにより、過度に給付水準が引き下がり、所得代替率50%を下回るようなことが見込まれるのであれば、年金財政フレームワークを止めて、改めて見直そう(=必要なら保険料を引き上げしましょう)ということなのです。

 

だいぶ前置きは長くなりましたが、財政検証の結果を読み解く上での最低限の情報はお伝えできましたので、本題を今回は簡潔に述べていきたいと思います。

まだまだ良くわからない!という部分もあるかと思いますが、追って理解できるように今後どんどん発信していきたいと思います。

 

<2019年財政検証結果のポイント1>

全部で6つのパターン(ケースI~VI)について試算

1.経済成長と労働参加が進むケース(ケースI~III)(実質経済成長率が0.4%~0.9%)

・2046年~2047年頃に、給付水準の調整が終了。終了時点の所得代替率は50.8%~51.9%となる。

要するに、水準調整が早めに進むことで、所得代替率が50%を下回ることが無く、水準が落ち着き、収入保険料(+国庫負担)で給付金支払いを賄える状態に移行できる、ということです。

ちなみに、早めに給付水準を減らせば減らすほど、水準調整終了時の所得代替率が上昇します。つまり、今の受給世代の給付水準をへらすことで、将来の受給世代の給付水準を引き上げることになりますし、逆に今年金給付の水準を削減が進まない場合は、将来世代の給付水準が下がってしまう、という表裏の関係とも言えます。

 

2.経済成長と労働参加が一定程度進むケース(ケースIV・V)(実質経済成長率が0.0%~0.2%)

・2040年代半ばに所得代替率が50%に到達する。その後も機械的に水準調整を進めた場合、マクロ経済スライド終了時の所得代替率は45%程度。

「機械的に水準調整を進める」とは、保険料を今の上限以上に引き上げることなく、放置する、ということを意味します。まあそれでも所得代替率は45%程度になるということです。

・ちなみに、その45%の状態であったとしても、新規裁定時の夫婦のモデル年金給付額(月額)は21万円程度。現状の22万円に比して微減という程度となっています。

 

3.経済成長と労働参加が進まないケース(ケースVI)(実質経済成長率が▲0.5%)

・2052年に国民年金の積立金がなくなり完全賦課方式に移行することとなります。この場合の給付水準は所得代替率35%~37%程度。

ただ、数十年、ずーっとマイナス成長という仮定なので、もしそうであれば日本の経済・社会システム自体に幅広い悪影響が生じているので年金だけの問題ではなく、国全体として回避努力が必要な状態を仮定しています。

 

公的年金の予測を示すものではなく、あくまで複数の前提を設定した「見通し」でしかないことも理解しておきましょう。

今回は6パターンの前提を置いて財政検証を行ったということです。

 

次回も財政検証の話題に触れたいと思います。

以上

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