2020年の保険業界


2020年がスタートしました。今年は、東京(一部の競技は札幌)で2回目となるオリンピックが行われる記念すべき年ですので、多くの外国人観光客が来日する賑やかな1年となることが予想されます。

一方、保険業界に目を向けると、生命保険では標準利率の更なる低下、損害保険では自然災害の多発など、引き続き、予断を許さない環境下にあります。

そこで、今回のコラムでは、今年、保険業界に起こりそうなことを、独断と偏見を交えながら、思いつくままご紹介してみましょう。

1.標準利率ゼロの世界

『保険業界に起こりそうなこと』と書きましたが、保険料払込方法が一時払の契約については『標準利率ゼロ』が既に『起こっていること』です。

実際、2016年7月から第2号保険契約(一時払養老など)の標準利率が0%になりましたが、今年1月から第1号保険契約(一時払終身など)の標準利率も0%になりました。なお、保険料払込方法が平準払の保険契約の標準利率は0.25%です。(2020年1月1日現在)

そもそも、一時払契約を平準払契約と分離して標準利率を考えるための告示改正では、機動的に標準利率を見直せることや、(過去10年および過去3年という長期間の金利実績に拘束される平準払と比較して)短期間の金利実績(過去1年および過去3ヶ月)を反映でき、さらに、第1号保険契約では(終身保険など保険期間がより長期ということもあり)20年国債利回りが適用できるなど、平準払よりも一時払の方が、金利上昇時には高い金利が付与できる可能性もあるような印象を受けました。

しかし、実態としては金利低下が継続し、結果的に平準払よりも低い標準利率となっています。(基準利率が0.25%乖離すれば変更されるという点で、平準払に比べて一時払の方が変更されやすいという特徴も影響していると思われます。)

なお、『マイナス金利』を考慮し、対象利率0%以下の部分の安全率係数が1.0となっている点を踏まえて、平準払の標準利率が0%以下となる(∵ 基準金利が0.5%以上乖離しなければならない)ためには、どの程度のマイナス金利がいつまで継続する必要があるのかを計算してみれば、標準利率に対する理解が深まるでしょう。

2.インシュアテックの推進

いわゆる『健康増進型保険』の登場で、被保険者の健康改善の成果に応じて保険加入後に営業保険料の水準を引き下げることができるようになりました。腕時計などのデバイスを活用してバイオ情報(例.血圧、心拍数、歩数など)を手軽に計測しながら、健康管理と保険料を引き下げるという一石二鳥の効果が期待されます。

インシュアテックの技術は加速度的に進化しているようでして、例えば、『顔認証技術(※)』の向上で、年齢・性別はもちろん、BMIもかなりの確度で判定できるようになっていますし、顔色や眼球などの生体情報を用いれば、既往症まで判定できる時代がすぐそこまで来ている模様です。

なお、昨年のアクチュアリー第2次試験の生保1では、『顧客が「自身の余命」を、健康状態から高い精度で自ら推定できる技術の普及』という前提の問題が出題されるなど、業界全体の大きな課題として、インシュアテックの推進が強く認識されていると思われます。

※ 顔認証技術は人種による違いがまだ大きいようですので、欧米での普及後に日本を含むアジア全体に広がっていくものと予想されます。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019122100173&g=int

3.『5G』の導入

『2時間の映画が2秒でダウンロードできる世界に』。あるテレビ番組で『5G』の到来で生活がどのように変化するかを表す事例として紹介されたものですが、まさに、大量のデータを高速で移動させることができる技術として、便利な生活への様々な応用が期待されています。

保険業界への影響という意味では、例えば、生命保険であれば、保険募集人が常備する携帯端末を軽量化し、顧客データを持ち運ばなくても本社から必要に応じてデータを参照すれば端末の紛失・盗難等のリスクに対応できます。さらに、営業ルートを最適化することで、効率的な営業活動にも繋げることも可能になるでしょう。カーナビのリルート機能に似ていますね。

さらに、自動車で営業活動している営業職員に対して、日々の顔色等をチェックすることで、認知症等による危険運転が疑われる場合には、運転できないようにするなど、保険営業以外の面での応用も期待されます。

一方、損害保険では、既に始まっている『自動運転技術』の更なる向上で、損害保険の在り方は劇的に変化するでしょうし、自然災害の予兆や発生後の事故状況の確認など、従来は調査員が現地に乗り込まなければ把握が難しかった事象も遠隔地から瞬時に把握できるといった事務処理の効率化が大いに期待されます。

以前、ゴールド免許保有者に(損害保険料ではなく)生命保険料を割り引く保険商品が話題になりましたが、安全運転のレベルを細分化して、生命保険料も細分化した割引を導入する会社が登場する日も、そう遠くないかもしれません。その意味では、キャッシュレス(電子マネーなど)の導入がますます進むものと思われます。

4.業界再編の機運

低金利が継続しても、治安のよさや安定した死亡率低下トレンドを示す日本の生保マーケットは、諸外国から見ると、まだまだ魅力的に映るようです。このような海外投資家の思惑と、日本のビジネスを見直したい国内会社の思惑が一致すれば、大規模な業界再編の年になるかもしれません。

5.異業種の参入

中国を中心にネット系保険が急増しているようですが、日本への進出も視野に入れている模様です。一方、アマゾンやグーグルなどのIT企業も、次なる成長戦略の一つとして、保険業界に進出しようとする動きもあるようです。ただし、生命保険分野では利益回収が損害保険に比べると、一般的に遅れるため、顧客ニーズが顕在化しやすい面からも、損害保険で進出してくるものと思われます。

なお、自動運転の技術が応用できれば、物流面だけではなく、自動車保険はもちろん、損害査定の分野においても、マンパワーを介さない査定が可能になる日も、そう遠くないように思われます。

6.民法改正

今年4月に民法が約120年ぶりに大幅に改正されて、例えば、法定利率も変更されます。法定利率は、当事者同士で利息について取り決めをしていないときに使われますが、これまで年5%で固定されていました。しかし、低金利が続く実勢とかい離が生じていたため、法定利率を年3%に引き下げ、かつ、3年ごとに見直す変動制が導入されます。

生命保険に直接関係しないかもしれませんが、会社間で締結する契約書などで、遅延利息等を規程する場合には、当該改正が影響を与えるかもしれません。

7.命の値段

上述の「法定利率の変更」により「命の値段」も変わります。これは、「ライプニッツ係数」が変化するためです。「ライプニッツ係数」とは、微積分法で有名なドイツの数学者ライプニッツにちなんだものであり、具体的には、事故が起きた際、損害賠償などに利用される係数です。逸失利益(将来の給料などの利益)などの時間と関係する賠償金を一時金に換算する係数です。

現在、この一時金は法定利率5%を用いて運用できるものとして賠償金を算出していますが、最近の低金利を踏まえて、運用利回りが5%よりも減少するため、運用で稼げない利息相当額を賠償金に上乗せすることで、『利息を含めた総額が不公平とならない』ように調整されることになります。例えば、賠償金を支払う可能性が高い自動車保険では値上げの可能性も十分考えられます。

いかがでしたか。かなりラフなコメントとなってしまいましたが、保険業界を中心に、今年は大きな変革の年となるかもしれません。

(ペンネーム:活用算方)

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