【公的年金の財政検証のオプション試算とは】


今回は、公的年金財政検証のオプション試算について、説明していきたいと思います。

法令で求められている財政検証とは別に、制度改正をするためのプラスアルファのシミュレーションがされています。これをオプション試算といいます。

オプション試算をするようになったのは、前回平成26年の財政検証からです。

そもそもなぜ、オプション試算をすることになったのか、このところの検討の流れ、法律の成立などをおってい行きたいと思います。

平成21年の財政検証あたりから、社会保障費の上昇を受けて、平成22年10月から「社会保障・税一体改革」が議論されてきました。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/

これは年金に限らず、子育て、医療・介護なども含めて、社会保障の充実・安定化と、そのための安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指すものです。

これによって、「社会保障制度改革推進法」(平成24 年法律第64号)が成立し、同法に基づき設置された社会保障制度改革国民会議において、社会保障制度改革に関する議論が行われ、平成25 年8月6日に報告書が取りまとめらました。

この報告書、「社会保障制度改革国民会議報告書」は、現在の社会保障の改革の方向性を示したものであり、これ以降の関連法案はこの報告書がベースになっています。

この中には、子育て、医療、介護なども含まれており、これまでの歴史も一通り学べ、良い勉強になりますので、ダウンロードして一読いただければと思います。
政府・厚労省の今後の改革の基本が詰まっています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/pdf/houkokusyo.pdf

年金部分について、どんなことが書いてあるのか、簡単に見ていきましょう。

まず、社会保障・税一体改革につながっていくアクションの起点となるのは、2008年(平成20年)に開催された「社会保障国民会議」です。
この中で、「社会保険方式」で運営されていた歴史をもつ年金制度を「税方式」に転換する際の、「移行問題」を可視化する定例的シミュレーションが行われ、政策のフィージビリティを考える材料が提供されています。

このころ「未納がふえると年金は破たんするのか」というテーマが話題となり議論が行われていましたが納付率低下の影響シミュレーションが行われ、

①納付率低下が原因で、現行制度が財政的に破たんすることはないこと
②未納問題はマクロの年金税制の問題というよりは、将来の低年金者、無年金者の増大によって、国民皆年金制度の本来機能である、「すべての国民の老後の所得保証」が十全に機能しなくなるという問題であるということ
③その観点から、非正規労働者への厚生年金適用拡大や免除制度の積極的活用などの未納対策の強化、基礎年金の最低保証機能の強化等が大きな課題になること

などの考え方が示されました。

②が重要で、要するに、未納がふえると、年金財政は破綻しないけれども、貧困者が増え、年金の防貧機能が低下する、ということが問題だ、ということなのです。

その後、政権交代を経て、社会保障・税一体改革の検討が進められ、社会保険か、税なのか、の議論については、「年金は社会保険方式を基本とする」ことが三党で合意されて今に至っています。

そのあとに続く、2012年(平成24年)の社会保障・税一体改革によって、年金関連4法が成立し、これによって、2004年(平成16年)年の改革で導入された年金財政のフレームが完成しました。

この年金関連4法案で実現したのが以下の点です。

①公的年金制度の財政基盤及び最低保証機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成24年8月22日公布)
→いわゆる「年金機能強化法」
 ・基礎年金国庫負担割合を2分の1に恒久化
 ・短時間労働者への社会保険の適用拡大等

②被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成24年8月22日公布)
→いわゆる「被用者年金一元化法」
  その名の通り、共済年金と厚生年金の一元化をする法律

③国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律(平成24年11月26日公布)
→いわゆる「国民年金法等改正法」
 ・平成24年度及び平成25年度の基礎年金国庫負担割合2分の1の維持
  (平成25年度までは、まだ特別対応だった)
 ・物価スライド特例分の解消等
  (物価スライド特例は、本来物価スライドにより年金給付水準を引き下げるはずなのに、引き下げなかったことによって、年金財政が悪化。これを解消するための法改正)

④年金生活者支援給付金の支給に関する法律(平成24年11月26日公布)
→低所得者に対して、老齢年金支援給付金を月5000円、年金給付と別に支給する法律。財源が消費税であるため、交付時には平成27年10月施行予定でしたが、消費税引き上げが延期となったため、施行時期が令和元年10月とずれ込みました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000143356_00002.html

そして、この国民会議では、具体的な改革のアプローチとして、以下を挙げています。
1. マクロ経済スライドの見直し
2. 短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大
3. 高齢期の就労と年金受給の在り方
4. 高所得者の年金給付の見直し
これらの課題が議論され、その上で報告書において、「少なくとも5年に1度実施することとされている年金制度の財政検証については、来年実施されることとなっているが、一体改革関連で行われた制度改正の影響を適切に反映することはもちろん、単に財政の現況と見通しを示すだけでなく、上記に示した課題の検討に資するような検証作業を行い、その結果を踏まえて遅滞なくその後の制度改正につなげていくべきである。」と指摘されました。
この報告書を受けて成立した持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律(平成25 年法律第112 号)においても、報告書で提示された課題が年金制度改革における検討課題として列挙されています。

こうしたことから、平成26年の財政検証においては、法律で要請されている現行制度に基づく財政検証に加えて、これらの課題の検討に資するよう、一定の制度改正を仮定した試算、すなわちオプション試算を実施することになったわけです。

前回の平成26年の財政検証では、以下の3つのオプション試算を行いました。

オプション試算I  マクロ経済スライドの見直し
オプション試算II  被用者保険のさらなる拡大
オプション試算III 保険料拠出期間と受給開始年齢の選択制

このうち、オプションIについては、マクロ経済スライドについて、「過去の未調整分も含めて調整する」(またどこかで詳しく説明します)という改定法案が成立したこともあり、令和元年の財政検証のオプション試算では次の2試算になりました。

オプション試算A 被用者保険のさらなる適用拡大
オプション試算B 保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択

次回は、このオプション試算Aについて掘り下げて説明していきたいと思います。

以上

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