アクチュアリーのCV


先日、とあるクライアントとミーティングを行っていた際、投資銀行系から転職された若手管理職(33歳で執行役員本部長!)のプレゼンを拝聴する機会があったのですが、プレゼン資料には『これでもか!』と言わんばかりに(笑)、英語の略語のオンパレードで、流石に、昭和世代のロートルとしては、1つ1つの略語を確認するところから始めざるを得ないという悲惨な状況でした(泣?)。
そこで、今回のコラムでは、当該資料で最も多く登場した『CV』に焦点を当てて、アクチュアリーにとって関係の深い『CV』を幾つかご紹介いたしましょう。

1.コンバージョン(Conversion)
生命保険文化センターの『生命保険用語英和・和英辞典』では、『保険可能体の証明evidence of insurabilityなしに定期保険/団体保険等の定期部分を終身/養老等のpermanent insuranceへ転換できる権利をいう』と記載されており、weblio(ネット上の有名な英和辞典・和英辞典)でもこの表現が引用されています。
ただし、筆者の経験では、団体保険の定期部分を『転換』することはできなかったように記憶していますので、上記の表現は日本ではなく、欧米等の諸外国ではそのような取り扱いが可能なのかもしれません。
なお、いわゆる『解約・新契約』しか選択肢がなかった実務慣行を改善し、昭和51年頃に創設された『転換制度』ですが、バブル崩壊後は、平均予定利率を引き下げる方策として活用された、顧客に不利益をもたらす制度との疑念が生じてしまった点が何とも悲しい限りです。
なお、インターネット上での『e-commerce(電子取引)』では、顧客がウェブサイトにアクセスしてから購入する率も、『コンバージョン』と呼ぶそうですので、ネット系の保険会社では、こちらの使い方がメインかもしれません。

2.キャッシュ・バリュー(Cash Value)
生命保険契約における、責任準備金または解約払戻金(解約返戻金)を指します。会社によっては、Policy Valueと呼ぶかもしれません。
責任準備金等の計算は営業保険料の計算と並んで、アクチュアリーの業務としては、まさに、『基本中の基本』とも言うべきものですが、いわゆる、『責任準備金のサンプルチェック』を行ったとき、算出方法書等から営業保険料や責任準備金を再現することがとても難しかった経験があります。
実際、死亡・就業不能脱退残存表などの多重脱退表では、x歳加入の営業保険料等が(x-1)歳以前の生存者数等の影響を受けるという点(←養老保険等の単生命保険では影響を受けません。)に気づかなかったことが原因でした。
今となっては、アクチュアリーとして貴重な実務経験であったと感謝していますが、当時は、上司やクライアントに“こっぴどく”叱られて、相当凹みました。

3.コーポレート・バリュー(Corporate value)
日本語では『企業価値』のことで、エンタープライズ・バリュー(Enterprise value)とも言われます。株主の立場から経営陣に対して『企業価値を上げてくれ!』と迫った、村上ファンドの記事は今でも強く印象に残っていますが、保険会社の場合にも、エンベディッド・ヴァリュー(Embedded value)のように企業価値を測定する手法が開発されています。
特に、保険株式会社の場合、企業価値と株価が乖離しているかが常にマーケットでチェックされて、もし、企業価値に比べて株価が割安と判断されれば投資家から『買い』の対象となります。
一方、保険相互会社も企業価値に類似したものを開示することがありますが、これは、健全性に加えて収益性も併せて開示しているという解釈ができるかもしれません。
また、会社形態に係らず、企業価値に連動する賞与等を導入することで、役職員のモチベーションの維持・向上など、人事制度にも活用できる側面もあります。

4.カリキュラム ヴィータイ(Curriculum vitae)
筆者が長年、愛聴している『NHK実践ビジネス英語(杉田敏先生)』でこの単語を教わりました。転職の際に書くことのできない『履歴書』を指しますが、実際の転職時には通常の履歴書に加えて『職務経歴書』も必要になります。
以前、同番組で土曜日に放送されていた、新将命(アタラシ マサミ)先生からは、『Job Hopper ではなく、Career Builder を目指せ!』という貴重なメッセージを頂けました。
たとえ、転職する気持ちが皆無であったとしても、常に、自分自身の『市場価値』を確認することは社会人として重要な心構えですし、いつ何時、勤務先が吸収・合併等に見舞われるかもしれません。まさに、備えあれば憂いなしですね。

5.キャリア・ビジョン(Carrier vision)
上記の4.とも深く関係しますが、同じ勤務先でも3年くらいの周期で『社内異動』が、通常起こり得ますので、自らの将来の希望部署を常に具体的にイメージしながら日々の職務に邁進することが重要です。
特に、大企業の場合には、否が応でも『派閥』の柵(しがらみ)に巻き込まれるでしょうから、どの役員に追随するのかを慎重に見極める必要があります。最近は『派閥』はかなり色褪せた感があるかもしれませんが、以前として、保険会社の社長は前社長が選定するという旧態依然とした人事制度が蔓延していると思われるのも事実です。
ちなみに、自分はそのような『古い』制度が肌に合わず大企業を飛び出した1人です。

6.カスタマー・ボイス(Customer voice)
お客様の声は、あらゆるビジネスにとってもっとも重要な情報であり、恋愛において『好き』の反対が(嫌いではなく)『無関心』であるのと同様に、苦情を伝えてもらえるのは、その会社や商品・サービスに関心がある証拠です。さらに、苦情は、新たな商品やサービスの『タネ』となる可能性が高く、苦情の解決策を考えることが、そのまま、商品・サービスの向上に繋がることも少なくありません。
もちろん、なかには『ハードクレーマー』と呼ばれる方々もいらっしゃるかもしれませんが、クレーマーはクレーマーなりに、ある種の『美学』のような筋の通った理屈を持っていることもあり、その点を理解できれば、逆に、大きなファンになってもらえる可能性が高いと考えられます。
特に、アクチュアリーとしての業務は、ついつい『内向きなもの』になりがちですが、保険契約者や将来の見込み客などのために、商品開発やリスク管理等は如何にあるべきかを常日頃から深く真摯に考える姿勢が重要ですね。

7.キャラクター・バリュー(Character value)
以前、生命保険会社の立ち上げに参画させて頂けたのですが、担当役員飲み会ネタに方から、『アクチュアリーだけだとインパクトが弱いので、何らかのキャラを立てた方が良いよ。』と、優しくアドバイス頂けたことがありました。
お笑い芸人では『持ちネタ、ギャグ』が重要であり、特に、漫才コンビでは『ボケ』と『ツッコミ』がネタそのものに直結するなど、キャラクターを確立させることが『売れる』秘訣と言えるでしょう。
アクチュアリーとして、上手くキャラを確立できれば、社内はもちろんのこと、社外や業界内外でもその活躍の場は確実に広がりますし、そのことで自分自身のアクチュアリーとしての活動領域が格段に広がることは間違いありません。

いかがでしたか。私が新入社員の頃、いわゆる『転換制度』が真っ盛りの頃でして、純粋な新契約とほぼ同じ件数の『CV』契約を獲得していた記憶があります。その後、主計部門へ異動して会社の『CV』を計算し、経済価値ベースでの勤務先の『CV』を計算しました。さらに、某巨大掲示板でヘッドハンターと知り合い、自らの『CV』を用いて転職活動へとつながりました。まさに、『CV』は自分の人生にとって切り離すことのできない貴重な概念と言えるでしょう。

(ペンネーム:活用算方)

あわせて読みたい ―関連記事―