ネットチャネルの未来


いわゆる“Eコマース(=電子商取引)”は、Amazonなどのネットショッピングを中心に世界中で拡大を続けるビジネスモデルですが、2000年頃には、ネット上で株取引を行う松井証券の登場を契機として、金融分野におけるEコマースも普及し続けています。
また、銀行業においてもインターネット・バンキングとして「●●ダイレクト」などの名称でネット上での電子決済も急速に普及しており、保険業においても、損害保険(例.自動車保険など)を中心にネット上で見積もりから申し込みまで、コールセンターなどと組み合わせて簡単に手続きできるようになり、大変便利な保全環境が整備されています。

そこで、今回のコラムでは、筆者のこれまでの経験および知人からの情報などに基づき、生命保険におけるEコマースにおける特徴を中心について、今後の見通しなども含めて幾つかご紹介して参りましょう。
なお、内容はすべて単なる個人的な見解であり、特定の人物や団体等を誹謗・中傷する意図は全くないことを、念のため申し添えます。

1.印刷費

多くの保険会社、特に、生命保険会社では未だに紙媒体としての普通保険約款などが準備されていますが、白黒印刷をカラー印刷(例.3色刷りなど)にするだけで驚くほど費用が跳ね上がるのが特徴的です。
一方、Web上の募集資料では、色をどれだけ増やしても費用は(あまり)変わらないことが多く、紙媒体と異なり低コストで資料提供が可能となる点が大きな特徴と言えるかもしれませんね。

2.トレインチャネルの認知度

JRや地下鉄などの車内で広告やニュースなどを見かけることが多くなりましたが、首都圏のJRの協力を得て、山手線と中央線の車内広告に対する認知度の差異を調査した経験があります。
具体的には、同じ日時で同じ内容を流した後、無作為に認知度アンケートを行ったのですが、山手線に比べて郊外電車の認知度が圧倒的に少ない結果に驚きました。というのも、山手線の方が短い区間で乗り降りすることが多いため、認知度は郊外電車の方が高い仮説を立てていたからです。

なお、調査会社と結果を分析した際、先方の担当者から、“中央線などの郊外電車の方が着席率が高くなり、かえって画面を見る機会が乏しいため認知度が低いのでは?”とコメントされた時に仮説の誤りを認めざるを得ませんでした。
帰社後に上司に結果報告を行った際、“統計学における検定と同様、(帰無)仮説は棄却されてこそ意味があるしなあ。。。”と慰めていただいたことは今でも記憶に深く刻まれています。

3.第1次選択

第1次選択(営業職員による選択)は伝統的な生命保険会社の危険選択としては基本中の基本と言われますが、ネットチャネルでは非対面であるが故に当該選択が難しいのが実情でしょう。
実際、加入して短期間での死亡事故が起こった場合でも、保険募集人が媒介しないため、いわゆるモラルリスク有無を調査することも困難であり、ましてや、当該保険事故が死亡の場合には、被保険者への聞き取りも行えないことから、やむなく数千万円の保険金を支払った事例もあります。

登山中の滑落事故によるものでしたが、たまたま、災害割増特約が付加されておらず、死亡保険金の倍額支払がなかったことがせめてもの救いでしたが。

4.広告宣伝費

いわゆる“直販ルート”の活用で中間マージンが省けて低価格で商品・サービスが提供できることをウリにする業者もありますが、ネットチャネルも“募集手数料”が生じないことから安い保険料が提供できると“大きな誤解”を抱く業界関係者も少なくありません。
実際には、リスティングなどのSEO対策で莫大な広告宣伝費がかかることも多く、検索サイトで特定の単語(例.生命保険、オススメなど)を検索した場合、自社の商品が検索上位にくるために、それなりの費用を負担する必要があるためです。

恐らく、多くの消費者にとっては、他者からの評判が良いほど閲覧数が多くなり、結果的に上位に位置づけされているのだろうと勝手に解釈している可能性が十分ありますが、その裏で莫大なお金が動いている点にも留意したいですね。
いずれにせよ、単なる検索サービスに留まることなく、しっかりとしたビジネスにつなげる点が凡人には思いつかない成功の秘訣と言えるのでしょう。

5.テレビCM

ネットチャネルでもテレビCMをじゃんじゃん流す会社もあります。
あくまでも噂に過ぎませんが、大昔、ネットチャネルの会社2社がほぼ同じくらいのペースで新契約を獲得していたのですが、『カンブリア宮殿』という有名なテレビ番組に片方の会社が出演されたことを契機として、一気に格差が進んだという結果もあるようです。

ネット広告などがテレビ・新聞などの広告出稿量を抜いて久しいですが、未だに、“テレビCMをやれる会社=健全な会社”というイメージが根強いのかもしれませんね。全くテレビCMも流さないSTARBUCKSもあるのですが。

6.銀行窓販での書類不備防止

金融機関代理店、特に、銀行カウンターでの保険加入も増えつつありますが、以前、地方銀行にお邪魔した際、“紙の申込書の場合、記入漏れがあっても見つからないケースが多いが、WEB申込み(=カウンター上で画面入力)”の場合、入力不備があるとそもそも次ページに画面展開できないため、記入漏れ防止につながるのがありがたい“という趣旨のコメントを頂けたのがとても印象的でした。

銀行業務においては、何よりも信用第一であるため、行員側のミスで書類の書き直しを後日お客様にお願いすることは本当に恥ずべき事態だという点は、銀行以外の業種や業態においても大いに見習うべき事項と言えるでしょう。

7.Web約款

能登半島地震や羽田空港衝突事故で始まった2024年ですが、このような大震災に見舞われた際に自宅などで保険証券や約款などを保管していた場合、遺族などが捜索するのに相当の手間がかかる可能性があります。

このような事態に備えるためには、やはり、Web上で保険証券などを保管しておくと安心でしょう。災害持出用の非常用リュックに当該WebのログインID&パスワードを記したメモなどを入れておけば、いざというとき威力を発揮することでしょう。

8.先進医療特約の付加

『生保商品の変遷《改訂版》保険毎日新聞社』165ページによれば、平成4年4月に『高度先進医療特約』が千代田生命と富国生命によって開発された模様ですが、最近では、『先進医療特約』などと呼称が変わったものの、依然として医療保険やがん保険の付帯特約としては、保険料の安さもあり常に上位にくるものとなっています。
一方、当該特約は“一人一契約”という原則があり、いわゆる“オーバーインすランス(=過剰保障)”にならないような配慮が必要であるため、特に、Web上での申し込み手続きの際には契約者自らが過剰付加にならない点を確認しなければなりません。

この点は、営業職員や保険代理店の方がスムーズに手続きできそうですが、現在のIT技術を駆使すれば、比較的簡単に当該特約の着脱ができるようにも思います。

いかがでしたか。2008年に開業したインターネット専業の生命保険会社が2社誕生しましたが、残念ながら昨年度末でそのうち1社が消滅(=親会社に吸収)されました。GNP(=義理、人情、プレゼント)が加入動機になると揶揄された生命保険については、令和時代になっても相変わらず“Face to Face”や“ウェット”なビジネスモデルが成功の秘訣であることに変わりないかもしれませんね。

(ペンネーム:活用算方)

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