経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されましたが、金融庁ホームページでは、これまでのソルベンシー・マージン規制に登場しなかった様々な専門用語が新設されました。
そこで、今回のコラムでは、当該用語のうち確率加重平均について関連情報をご紹介いたしましょう。
1.金融庁告示
金融庁告示第74号(保険業法施行規則第86条及び第87条等の規定に基づき保険金等の支払能力に相当する額及び通常の予測を超える危険に相当する額の計算方法等を定める件)において、確率加重平均は5か所登場します。
【第12条(現在推計の額の計算)】
現在推計の額は、次条に定めるところにより計算した保険契約に係る将来キャッシュ・フローを次款に規定する割引率のうち当該保険契約に係るもので割り引くことにより算出した現在価値の確率加重平均とする。
【第21条(ミドルバケットの適格性要件)】
次の各号に掲げる要件の全てを満たす保険契約ポートフォリオは、第十八条第一項第二号に掲げるミドルバケットに分類することができる。
三 当該保険契約ポートフォリオに関する第五章第二節第五款に規定する解約及び失効リスクの額が、当該保険契約ポートフォリオの将来キャッシュ・フローの現在価値の確率加重平均の5%を超えないこと。
四 特定された資産ポートフォリオの基準日時点における時価が、当該保険契約ポートフォリオの将来キャッシュ・フローの現在価値の確率加重平均よりも大きいこと。
【第33条(再保険回収額の計算)】
再保険回収額は、保険会社等が保険契約を再保険に付した場合において、当該再保険契約に係る将来キャッシュ・フローの現在価値の確率加重平均とする。
【第87条(支払備金におけるリスク係数の算出)】
地理的区分の日本に対応する支払備金リスクのリスク係数は、地域区分及び商品区分ごとに、第一号に掲げるデータを用いて、第二号に定める算式により算出するものとする。ただし、合理的な理由がある場合は当該データを調整することができる。
一 直近十年以上における各事業年度の次のイ及びロに掲げるデータの区分に応じ、当該イ及びロに定めるものとする。
イ 実績データ 次に掲げるもの
⑴ (略)
⑵ 各事業年度の前事業年度以前の発生事故に係る当該各事業年度末時点の支払備金の額(将来キャッシュ・フローの額の確率加重平均のうち既経過責任に係るものをいう。
https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250723/07.pdf
2.AIによる要約
GoogleのAIモードで『確率加重平均』を検索すると、以下の情報が出ます。
(1)確率加重平均とは、統計学や数学で「期待値」と呼ばれるものとほぼ同じ概念です。
(2)通常の平均(算術平均)はすべてのデータを平等に扱いますが、確率加重平均は「その事象が起こりやすさ(確率)」を重みとして考慮して平均を算出します。
(3)基本的な考え方
「起こりうる値」に、それぞれの「発生確率」を掛け合わせて、すべてを合計することで求められます。確率加重平均期待値=Σ(値×確率)
3.日本アクチュアリー会からの情報(その1)
平成22年度のアクチュアリー試験(生保数理)問題4で、確率加重平均という用語が登場します。
【問題4(2)】
夫婦とも生存の場合における(中略)責任準備金を過去法で表した場合の式を次のとおり求める。(中略)
また、夫婦とも生存の場合における(中略)責任準備金と保険料払込免除後における(中略)責任準備金の確率加重平均を契約時点まで割り引いた額は、契約時から第t保険年度末までの収支の契約時点における現価と等しくなる(以下略)
https://www.actuaries.jp/lib/collection/books/H22/H22B.pdf
4.日本アクチュアリー会からの情報(その2)
『経済価値ベースのソルベンシー規制に係る技術的検討(2013年3月)』で確率加重平均は15か所登場します。(長文のため該当箇所の表示省略)
https://www.actuaries.jp/lib/report/pdf/hoken-fusai-guidance/s7.pdf
5.実務上の課題
いわゆる現在価値を計算する際、死亡率(保険事故発生率)シナリオに加えて、少なくとも、金利シナリオ(割引率)について発生確率を考える必要があるように思います。
その際、各シナリオ単位で発生確率を考えれば良いのか、それとも、シナリオの元となる各パラメータ単位での発生確率も考える必要があるのかという点が課題の1つと思われます。
仮に、後者の場合、シナリオ数が一気に膨らむため、計算時間との兼ね合いで、ある程度の割り切りが必要となるかもしれません。
いかがでしたか。従来の『告示第50号』に比べて、経済価値ベースのソルベンシー規制にかかる告示では、アクチュアリーとしての相当の裁量余地があるように思います。実行可能性を有する、より精緻なシナリオ設定が、アクチュアリー業務としての重要な役割であるように思います。
(ペンネーム:活用算方)