アクチュアリー試験講評(平成29年度 生保数理 編)



明けましておめでとうございます。

平成29年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。

合格発表まであと1ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。

早速、生保数理について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

1.問題数
平成28年度と同じ問題数および配点でしたので、受験生にとって、特段大きな混乱はなかったと思われます。
昨年同様、2時間で8問、つまり15分1問のペースで解ければ、2時間で40点以上は獲得できますので、残り1時間で20点弱という理想的な時間配分になるでしょう。

2.各問題のポイント
問題1(1)
解法:現価および終価の公式を用いて\(v^n\)に関する3次方程式を導き、\(\left(v^t-1\right)\)を因数に持つことに注意すれば2次方程式に帰着される。
類題:平成18年度問題1(1)

問題1(2)
解法:据置完全平均余命の公式から定数\(a\)の値を求め、『生存者の平均年齢』の公式を用いる。なお、教科書(上巻)76ページ(2.6.14)に、『死亡者の平均年齢』の公式はあるものの、『生存者の平均年齢の公式』は教科書にないため、過去問等から習得しなければならない。
類題:平成19年度問題1(1)

問題1(3)
解法:平準払養老保険と平準払定期保険の年払純保険料の差が、平準払生存保険の年払純保険料に等しいことを用いて、平準払累加定期保険および収支相等の原則から、初年度死亡保険金額\(S\)を求める。

問題1(4)
解法:\(n\)年満期養老保険の第\(n-1\)年度末の責任準備金は、第\(n\)年度の責任準備金の再帰式における期始の責任準備金に等しいため、年払純保険料が\(v-0.1\)となる。
これを、初年度の再帰式に代入すれば、一時払純保険料\(vp_x\)が求められる。
類題:平成13年度問題3(2)

問題1(5)
解法:収支相等の原則を用いて営業保険料を計算する。なお、通常、保険金額比例の予定維持費が、本問の場合は、契約1件当たりで設定されるため、保険金額に応じた収支相等の算式を作成しなければならない。

問題1(6)
解法:\(t=0\)とすれば、保険期間\(n+1\)年の養老保険の第1保険年度末の全期チルメル式責任準備金がゼロ、つまり、初年度定期式責任準備金となる。
したがって、1年増法(\(x+1\) method)を用いてチルメル割合\(\alpha\)が求められる。
類題:平成25年度問題1(9)

問題1(7)
解法:収支相等の原則を用いて、\(S_1\)および\(S_2\)に関する等式を2つ作成。なお、\(S_2\)に関する等式を作成する際、『変更時点の解約返戻金から貸付金を差し引き、死亡保険金額から(も)貸付金を差し引いた額』とする点に注意。これは、教科書(下巻)38ページ上から5行目以降にある計算方法であるが、両者から貸付金を差し引いても『二重取り』には当たらない。
類題:平成26年度問題1(6)

問題1(8)
解法:復帰年金における分割払年金を求めるのだが、終身年金であるため、与えられた近似式で\({}_nP_x\)がゼロとなり計算量は軽減。また、予定利率\(i\)から利力\(\delta\)を求めるためには、\(\delta = \log{\left( 1+i \right)}\)を用いる必要があるが、本問の場合、復帰年金であるため、単生年金から連生年金を差し引けばよく、その際、利力に関する項が消去されるため、結果的に利力は計算不要。

問題2(1)
解法:主集団および副集団における期始から期末にかけた人の流れに関する公式(教科書(下巻)154ページ(13.1.1)および(13.1.2))2つと、与えられた条件5つから、計7つの等式が得られる。登場する記号は8つであるため、記号間の比率が求められる。一方、求める絶対発生率は比率が分かれば良い。
副集団から主集団への移動は教科書(下巻)第13章では登場しないが、教科書(上巻)第3章の97ページ下から3行目の式から類推せざるを得ない。
なお、問題文で、『中央死亡率』と『C2脱退の中央発生率』を使い分けている点に注意。前者は単生命表の概念であり、後者は多重脱退表の概念。
類題:平成16年度問題1(5)

問題2(2)
解法:生命年金現価に関する隣接二項間の公式『\(\ddot{a}_{x\ :\ \overline{\ n\ |}} = 1 + v \times p_x \times \ddot{a}_{x+1\ :\ \overline{\ n-1\ |}}\)』を2回用いて得られる、『\(\ddot{a}_{x\ :\ \overline{\ n\ |}} = 1 + v \times p_x + v^2 \times {}_2p_x \times \ddot{a}_{x+2\ :\ \overline{\ n-2\ |}}\)』を利用。

問題2(3)
解法:昭和48年度(保険数学1)問題6の結果から、『保険期間 10年の生存保険において年払純保険料が変化しないように予定利率も変更』すれば、『\(i’=1.005 \times i+0.005\)』が導かれることを示す。なお、保険期間を1年としても結果は変わらないため、最初から保険期間1年で考えれば、計算量が少なくなる。
類題:昭和48年度(保険数学1)問題6

問題2(4)
解法:問題文にしたがって、収支相等の原則を用いて等式を作成。なお、同一年度の問題中、延長保険と払済保険が別々の問題で出題されることは珍しい。

問題2(5)
解法:人数を表す式に現価率\(v\)が含まれる点が最大のヒント。一時払純保険料に関する収支相等の原則から等式を作成し、隣接する年齢の等式同士を引けば良いことを暗示している。ただし、本問の解法は教科書に明示的には登場しないため、平成20年度の過去問を記憶していることが前提。
類題:平成20年度問題1(9)

問題2(6)
解法:災害死力と災害以外の死力の和が全体の死力に等しいという性質を利用。
類題:平成9年度(保険数学2)問題1(1)

問題3(1)
解法:保証期間付き収入保障保険の問題。問題文の指示に沿って空欄を埋めていけば良い。なお、確定年金から生命年金を差し引いたものが『死亡後に支払う確定年金』となるという、教科書(上巻)134ページ問題(12)を予備知識として押さえておきたい。これは、教科書(下巻)第12章に登場する復帰年金の単生命版とも考えられる。

問題3(2)
解法:Thiele(ティーレ)の微分方程式を導く問題。穴埋め問題であるため問題3(1)と同様に、問題文の指示に沿って空欄を埋めていく。なお、後半の穴埋めで登場する\(\displaystyle \lim_{k \to \infty} \frac{l_{x+t} – l_{x+t+\frac{1}{k}}}{\frac{1}{k} \times l_{x+t}} = u_{x+t}\)は、教科書(上巻)286ページ下から7行目に登場。
類題:教科書(上巻)201ページ問題(8)、平成22年度問題3(1)

3.次回以降に向けて
最近の傾向として、過去問(特に、平成1桁台)のリメイク版が多いように思われますが、昭和48年度の問題を事前チェックしていた受験生は多くないと思われます。

しかし、今年4月からの標準生命表の改定や、昨年4月の標準利率改定など、『計算基礎率の変更』が時事問題の1つであることは明らかですので、『第1次試験のときから時事問題を注視しておくべし』という試験委員からの貴重なメッセージとも考えられます。

さらに、日本アクチュアリーホームページで、昭和37年度以降の過去問が公開されていることを勘案すれば、(資格試験要領で第1次試験の出題範囲は教科書に限定されていると明示されてはいるものの)受験生の『善管注意義務(笑)』として過去問を一通りチェックしておくことも早期合格の秘訣の1つと言えるでしょう。

(ペンネーム:活用算方)

あわせて読みたい ―関連記事―