アクチュアリーの処世術


『正しいことがやりたいか? だったら偉くなれ。』

約20年前、テレビドラマ『踊る大捜査線』で、老刑事が青年巡査に淡々と語りかける。警察という名の巨大な階級組織で、本庁と所轄(現場)の関係に悩みながら、それでも、警察官としての理想を追いかける一人の若者の葛藤を見事に描いた作品だ。映画化されて興業収入もトップに。最近では洋の東西を問わず、アニメ系の映画に人気が集まっているようだが、少なくとも、ドラマから映画化された実写版ものとしては、間違いなく日本を代表する映画であろう。

 

このコラムは、もちろん、映画評論ではないため、詳しい内容は専門誌に譲るとして、このセリフの意味をアクチュアリーの視点で考えてみたい。

 

なお、文中、保険会社を想定した表現が幾つか登場するが、特定の会社および個人等を指しているのではなく、あくまでも筆者の想像に過ぎない点にご留意いただきたい。

 

1.アクチュアリーとして正しいこと

 

何が正しいかは、一概には言い難い。というのも、立場によってその正しさが変わり得るからである。アンパンマンの作者であるやなせたかし氏によれば、『アンパンマンにはアンパンマンの、ばいきんまんにはばいきんまんの正義がある』とのこと。

 

保険会社でいえば、『保険料が安いことは消費者にとって正しいこと、保険料が高いことは(収益が高くなるので)アクチュアリーにとって正しいこと』とは言い切れない。実際、保険料を安くしすぎて逆ザヤとなり、結果的に保険会社が破たんすれば、そのツケは結局、消費者に転嫁される。一方、収益を獲得しようと保険料を高めに設定しても、価格競争に敗北して売り上げが伸びず、結果的に収益が上がらない。

 

したがって、『適正な保険料というものを探る必要があり、それがアクチュアリーの使命といっても過言ではない。』と書くと、やはり、経営陣や営業担当からは、『アクチュアリーだけでなく、自分たちも常に適正な保険料を考えている。』と反論される。

 

いずれにせよ、何が正しいかを一概に定義することは難しいのだが、少なくとも、保険会社の経営が保険料から成り立っていることを考慮すれば、少なくともその負担者である消費者にとって望ましいことが、最終的に正しいということだろう。

 

友人から聞いた話だが、ある生命保険会社で保険料払込免除の議論をしていた際、アクチュアリーから、『いま更こんなことを聞くのは野暮かもしれないが、保険料払込免除の対象者は(被保険者ではなく保険料負担者である)契約者のはず。そうならば、契約者と被保険者が異なる場合、契約者と被保険者の連生保険モデルとして扱うのが本筋では?』とのコメントをされたらしい。

 

確かに、アクチュアリー試験の『生保数理』の教科書にはそのような記述はないが、約款を熟読すれば、自ずと湧いてくる素朴な疑問点だろう。

 

流石、経営陣に仲間入りするアクチュアリーは品格が違う、と久々に感動した。

 

2.アクチュアリーとして偉くなる

 

日本アクチュアリー会ホームページ(http://www.actuaries.jp/actuary/fields.html)によれば、日本のアクチュアリー約5,000人のうち6割強は、生保、損保および信託に属している(昨年3月末時点)。

 

したがって、半数以上のアクチュアリーは、好むと好まざるとにかかわらず、所謂『出世競争』に巻き込まれており、出世して偉くなることを、ある種の生きがいにしているアクチュアリーもいるはず。もちろん、そのこと自体は何ら悪いものではなく、そもそも、人生をどう過ごすかは全くもって個人の裁量の範疇だ。が、偉くなることと出世することは、果たして同じこのだろうか?

 

仮に、冒頭の老刑事が正しいとすれば、少なくとも出世しなければ、正しいことは達成できないことの方が多いかもしれないが、たとえ出世しなくても、正しいことは十分できるはず。年齢・役職・経験年数・所属部署、そして、アクチュアリー会員資格(正、準、研究会員など)を問わず良心にしたがって正々堂々と正しいことを主張できるような社風作りが何よりも大切であり、それを達成した会社のみが、結果的にお客様から選んでいただけるような世の中であって欲しいと願う。

 

何かの本で読んだのだが、日本の会社員の夢は、「個室」、「秘書」、「社用車」の3つらしい。社長に上りつめれば、これらの『3種の神器』が手に入る(だろう)。

 

RPGでいえば、いよいよラスボスとの対決だ。エンディングは、そう遠くない。

 

 

3.アクチュアリーと経営者

最近、アクチュアリーが保険会社の社長になる例を目にする機会が増えたように思える。たまに、社長の学歴(出身大学、学部など)がニュースになったりもするが、一口に社長といっても業種や会社規模は区々であり、単純な比較は難しい。

 

10年前の情報だが、日経平均に採用されている225社の社長学歴のうち、学部別のランキングでは、経済学部、法学部に次いで工学部が第3位にランキング(アクチュアリーが多い理学部は第7位)している。また、誕生月では1位の『2月』と12位の『7月』では2倍以上の開きがある。※参照

 

これを機に、保険会社等のディスクロージャー資料等から、学部や誕生月をピックアップしてみるのも意外と面白い結果が得られるかもしれない。

 

なお、『超整理法』で有名な野口悠紀雄氏は、とあるインタビューで、『工学部出身なのに経済学者になったのは何故?』と聞かれ、たった数年間の大学生活でその後の人生を決めつけるような発言に大変驚いた、との感想を述べられた。

 

また、ある総理大臣経験者は、『政治家として総理大臣は誰もが憧れるが、なりたくてもなれるポジションではなく、努力や運も含めた様々な要因が複雑に絡み合った結果、初めて実現されるもの。それは、まるで満員電車で目の前の席が突然空いたときに座れるようなものだ。ただ、嫌がらずに満員電車に乗ってこそ、座ったときの感動が得られる。』とお孫さん達にコメントされた。

 

社長の器のない人が社長になることは、器のある人が社長になれないことよりも悲しい。

 

冒頭に登場した青年巡査は、警察という組織に悩んでいたが、ある事件をきっかけに、心から尊敬できる上司と出逢うことができた。その別れ際に青年巡査が発したセリフで、このコラムを締めくくりたい。

 

『リーダーが優秀なら、組織も悪くない。』

 

保険会社を含むすべての組織に当てはまる名言であろう。

(ペンネーム:活用算方)

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