生保2のテクニック(配当可能利益)


2019年度のアクチュアリー資格試験要領が7月2日に公開されましたので、これから本格的に試験勉強に取り組む方々も多いと思います。

そこで、今回のコラムでは、第2次試験(生保2)のうち、『配当可能利益』について、特に、初学者の方が混乱し易いポイントを過去問および法令等を交えながら、ご紹介して参りましょう。

ポイントは、『配当可能利益』は(少なくとも)2つの概念があるということです。

1.教科書における『配当可能財源』の定義
まず、教科書(保険2(生命保険)第3章契約者配当)には、『配当可能財源』の定義として2種類ある点に注意しましょう。実際、
《定義1》6ページの『契約者配当財源』
《定義2》24ページ以降の『配当可能財源』
 となります。これらについて、過去問との対応では、
《定義1》過去問H21生保2問題1(3)
《定義2》過去問H13の1(2)
がそれぞれ対応しています。早速、これらの過去問を見ていきましょう。

2.平成21年度(生保2)問題1(3)
決算期に「その他有価証券」の時価が下落した場合、
・ 剰余金分配の限度となる償却等限度額(相互会社)
・ 株主配当の分配可能額(株式会社)
 が、それぞれどのような影響を受けるかを問う問題です。
特に、本問の場合、その他有価証券評価差額金(以下「評価差額金」)がマイナスとなる場合ですので、上記限度額等も下がります。(逆に、評価差額金がプラスの場合、上記限度額等から当該差額金が控除されます。)
以下、相互会社の場合で説明しましょう。まず、保険業法(以下「法」)第55条の2第2項で、剰余金処分の対象金額が内閣府令(保険業法施行規則(以下「規則」)第30条の4)で定められ、当該規則で、『剰余金処分の対象金額』=『当期未処分剰余金の額』-『次に掲げるものの合計額(例.前期繰越剰余金の額など)』となります。
つまり、『剰余金処分の対象金額』は『当期未処分剰余金の額』が出発点ですので、基本的には『損益計算書』を経由した単年度の事業成果がベースになります。
一方、評価差額金の『損益計算書』上での取り扱いは、
・ 計上しない(←全部純資産直入法、原則)
・ 評価損のみ計上(←部分純資産直入法、継続適用が条件)
 となりますので、会計上の取り扱いと(剰余金処分の対象金額に関する)業法上の取り扱いが整合しているとも考えられます。
なお、法第55条第2項で、剰余金の分配は、貸借対照表上の『純資産額』から『次に掲げる金額の合計額』を控除した額を限度として行うこととされ、『次に掲げる金額の合計額』には『五その他内閣府令(規則第30条)で定める額』が含まれます。同規則第2項では、『四その他有価証券評価差額金の科目に計上した額(零以上である場合に限る。)』が『五その他内閣府令(規則第30条)で定める額』に含まれます。つまり、法第55条第2項によれば、

《ケース1》評価差額金がマイナス:貸借対照表上の『純資産額』には(マイナス値として)当該差額金が含まれるものの、『次に掲げる金額の合計額』には当該差額金は含まれず(∵ 規則第30条第2項:零以上である場合に限る)、結果的に、当該差額金のマイナス値は、(純資産額をマイナスにするという意味で)剰余金の分配の限度額から控除される。

《ケース2》評価差額金がプラスの場合:貸借対照表上の『純資産額』、および、『次に掲げる金額の合計額』の両方に、当該差額金が含まれるため、剰余金の分配の限度額に当該差額金は含まれない。

ややこしいルールに思えるかもしれませんが、評価差額金がマイナスの場合のみ、上記限度額等から当該マイナス(の絶対値)を控除することで、保険会社の健全性を確保するという目的を果たしていると考えれば、理解しやすいかもしれませんね。

2.平成13年度(生保2)問題1(2)④
生命保険会社の保険計理人の実務基準(以下「実務基準」)に関する○×問題です。具体的には、

“全件消滅べ一スの配当所要額の配当可能財源の確認において、「その他有価証券」については含み損益を配当可能財源に算入するが、「満期保有債券」および「責任準備金対応債券」の含み損益は算入しないは、○×どちらか?”、という問題です。

実務基準&同解説書(第20条第3項①)に基づき、「有価証券のうち「金融商品に係る会計基準」において時価評価を適用しないもの(例.満期保有目的の債券、責任準備金対応債券など)について、

《ケース1》その含み損益の合計額がマイナス:当該マイナスの額が、『配当可能財源』のマイナス項目として算入

《ケース2》その含み損益の合計額がプラス:当該プラスの額は、『配当可能財源』に算入されない。(∵ 実務基準第20条では『含み損』のみを考慮)

と規定されています。
つまり、「満期保有債券」および「責任準備金対応債券」の含み損は算入しますので、正解は×となります。

いかがでしたか。相互会社と株式会社には様々な違いがありますが、試験合格のためには両社の違いをしっかりと理解する必要があります。特に、勤務先が保険会社の場合には、勤務先とは異なる会社形態についても理解しなければならないため、常日頃から、『相互会社の場合は。。。株式会社の場合は。。。』という“対の概念”での思考に心がけると良いでしょう。今回ご紹介した内容が受験生の一助となれば幸いです。

(ペンネーム:活用算方)

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