アクチュアリー試験講評(2020年度 生保1 編)


2020年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。

合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。

早速、生保1について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

1.問題数など
問題3の配点が多少異なりましたが、問題数および問題3以外の配点は昨年度と同じでしたので、受験生にとって、特段大きな混乱はなかったと思われます。
また、今年度のトピックであった、
・新型コロナウイルス感染症の影響
 につきましても、基礎率変更権、非対面チャネル(インターネット・チャネル)といった出題がありましたので、事前準備をしっかり行った受験生にとっては、取り組みやすかったのではと考えられます。

2.各問題のポイント
問題1(1)
解法:商品開発部門の在籍するアクチュアリーであっても、具体的な認可申請書類を作成する業務に従事している方は、それほど多くないように思えます。特に、数理概要書については、認可申請の場面くらいしか直接目にする機会も少ないと思いますので、資格試験要領にある“生保商品の実務”には、主務官庁との認可折衝業務を含まれるよ、という試験委員からの貴重なメッセージとも読み取れます。

問題1(2)
解法:多くの受験生から、“生保1に実務基準などの決算資料は含まれるの?”という質問を毎年いただくのですが、教科書『第3章 アセットシェア』が生保1に指定されていますので、アセットシェア計算はもちろん、実務基準等でアセットシェアに関する部分は生保1の出題範囲となるのでしょう。商品開発部門にいらっしゃる方でも、プライシング業務の一環として、解約返戻金の水準の妥当性を検証するためにアセットシェア計算を行う場面も少なくないと思われますので、実務基準も併せて学習するとよいでしょう。

問題1(3)
解法:第1次試験(基礎科目)と同様に、第2次試験(専門科目)でも“一応”教科書が指定されていますが、教科書の1ページ目からの出題は、なかなかお目にかかれないでしょう。実際、教科書『第6章 団体生命保険』1ページからの穴埋め問題ですが、例えば、“画一性”という単語を穴埋め対象にするといった視点は、かなり特殊な着眼点に思えます。

問題1(4)
解法:教科書『第5章 変額年金保険』5-38ページ〈ノート3〉からの出題です。資格試験要領を詳しく見る必要があるかもしれませんが、巻末の別表や資料等は出題範囲外と思い込んでしまうと、思わぬ“しっぺ返し”を食らうことになりかねません。やはり、教科書はスミズミまで徹底的に学習しましょうというメッセージかもしれませんね。

問題1(5)
解法:新型コロナウイルス感染症も「カタストロフィー・リスク」だと思えば、時事問題の一種といえるかもしれません。教科書『第8章 再保険』教科書8-24ページ付近からの出題です。

問題1(6)
解法:新型コロナウイルス感染症は「災害死亡保険金」などの給付対象とみなされていますが、教科書的には、過去想定していなかった新たなリスクを給付対象とする場合には、営業保険料率の引き上げが、最も基本的な対応と言えるかもしれません。幸い、日本においては、同ウイルスによる支払が多くない(←あくまでも、現時点の状況に過ぎません!)ことから、営業保険料率の引き上げに至っていないようですし、むしろ、同ウイルスによる入院等のリスクを積極的にカバーする商品が発売されるなど、一種の“コロナ特需”とも思える状況がみられます。なお、基礎率変更権については、少なくとも2つの視点(普通保険約款に導入する場合の生命保険会社の視点、当該約款を認可する場合の主務官庁の視点)がありますので、監督指針等を参考にしながら、両方の視点で答案がかけるようになるとよいでしょう。

問題2(1)
解法:以前、α-β-γ体系の(メリットではなく)デメリットを書かせる問題が出て、正直、試験委員もかなり踏み込んだなあと感じました。今回は、さらに踏み込んで、α-β-γ体系(特に、α部分)と予定利率の関係について、α-β-γ体系のデメリットともいえるテーマを問うたのは、正直、驚きです。なお、よろしければ、過去のコラム(https://www.vrp-p.jp/acpedia/298/)もご覧ください。個人的には生保数理での出題があるかもと考えておりました。

問題2(2)
解法:業界にとって“更新型”の最大のネックは、“更新時に保険料が上がること”ですね。某大手生命保険会社では、終身型の医療保険やがん保険などで、“保険料は一生上がりません”というフレーズで商品アピールをしています。知人の著名FP曰く、“保険料は一生上がりません=保険料は死ぬまで払ってね”という意味を消費者は理解しているのだろうか。。。と自問自答していました。一方、某大手生命保険会社の“優績者”は、“保全活動の一環として、保障見直しを(少なくとも10年以内に)行うことが通常なので、全期型よりも更新型の方が見直しまでの保険料負担は軽いのだ!”とアピールしていました。いずれにせよ、お客様としっかりとした信頼関係を構築した上で、全期型・更新型のメリデメをキチンと説明して納得いただく、という“当たり前の”プロセスで活動することが大切ですね。解答の本質とそれてしまい、申し訳ございません。

問題3(1)
解法:最近、公式解答でも、“危険選択”という単語をよく見かけるような気がしますが、恐らく、試験委員は、“プライシングする以上、自社の査定基準(例.血圧は上がXXまで、下がYYまでなど)を踏まえなければならない。つまり、アクチュアリーは引受査定部門にも配属される必要があるのでは?”という課題認識を持たれているのかなと思います。実際、大手生命保険会社では、医務・査定部門にアクチュアリー(正会員)を積極的に配属しているようですので、アクチュアリーの活動領域はマスマス広がるばかりです。その一方で、アクチュアリーの活動領域が広がることを好まない文科系総合職がいらっしゃるのも、残念ながら事実のようです。ソルベンシーⅡやERM推進などの浸透で経営陣も保険数理への造形が不可避となる状態は、アクチュアリーにとって仕事量が増える効果以上に、社内におけるプレゼンス向上に大いに寄与するかもしれません。なお、インターネット・チャネルについては、過去問で登場していないように見えますが、例えば、平成20年問題4(1)の通販チャネルの問題が参考になるかもしれません。もちろん、監督指針等で、“インターネット”、“電磁的方法”などの単語で検索してみてもよいでしょう。

問題3(2)
解法:商品毎収益検証については、第Ⅰ部(知識問題)ではありますが、2018年に出題されましたので、正直、出題が早いなあという感じです。広い意味では、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、今後ますます、収益性の検証がアクチュアリー業務として重要となることを示唆しているようにも思えます。その意味で、敢えて、更新型を出題したのも、商品毎収益検証の一環として、“適正な利潤を付すとともに過度なリスクは(更新型で)回避する”というポリシーを表しているのかもしれません。なお、第Ⅱ部(論述問題)で商品毎収益検証が出題されたのは、直近では、平成28年問題3(1)事業費シナリオですね。

3.次回以降に向けて
いかがでしたか。第Ⅰ部対策としては、やはり、教科書を中心として、監督指針が実務基準などの理解が重要ですね。特に、監督指針については、別紙様式も含めてスミズミマでチェックする必要がありそうです。また、第Ⅱ部対策としては、常日頃から問題式を持ちながら、自分自身の意見や考え方を自分自身の言葉で分かりやすく相手に伝える練習をしておくことが重要ですね。当たり前のことを当たり前に実行できることは、決して当たり前ではありません。

(ペンネーム:活用算方)

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