生命保険会社の決算業務


毎年5月はゴールデンウィークもあり、新型コロナウイルス感染症の影響がなければ、旅行などで楽しめる機会も多いことと存じます。

一方、保険会社で決算部門に配属されている方々で、特に、相互会社にお勤めの場合は、ゴールデンウィーク中に出勤される機会が少なくないかもしれません。(←相互会社の場合、決算役員会がゴールデンウィーク明けだったように思えます。)

そこで、今回のコラムでは、決算部門に配属されていない方々や、アクチュアリー第2次試験(専門科目)の「生保2」にも役立つような内容を、古い記憶をたどりながらご紹介いたしましょう。

なお、内容はすべて個人的見解であり、実際の生命保険会社での決算実務をすべて網羅するものではなく、かつ、内容の正確性を保証するものではないことを、念のため申し添えます。

1.保有契約高

アクチュアリー試験の教科書では、「収入保険料」「保有契約」「責任準備金」の3者は相互に完全に対応していなければなりません。(←保険2(生命保険)『第1章 生命保険会計(2021年3月作成)』1‐12ページ)

したがって、事業年度末時点における保有契約の確定、つまり、契約の有失効判定は、生命保険会社の決算実務における基本中の基本と言えます。
一方、3月31日という日付は「平日」とは限らず、また、本店に到着していなくても、支店および営業所などにお客様からの契約異動にかかる申し出があれば、営業時間外であっても契約の異動を追い込む必要があります。

このため、例えば、4月の第1週くらいを目処に、当該追込みのための期間を設けて、より正確な保有契約を算定するよう工夫がなされることが多いようです。

2.限度積立

大蔵省時代の通達で、“責任準備金(保険料積立金)の積み立ては保険料の入金を限度として行う”というルールが導入されましたが、今でも当該ルールに基づき、責任準備金を計算することが一般的と思われます。
この場合、いわゆる“未収契約”をいかに正確に迅速に測定するかが、決算業務の早期化のために不可欠といえるでしょう。

3.第三分野保険のストレステスト

危険準備金の1項目として当該テストに基づく結果が反映されます。特に、当該テストに基づく結果が芳しくない場合、負債十分性テストを実施して、場合によっては、追加責任準備金の積み立てが必要になります。
もっとも、決算本番中にいきなり追加責任準備金の積み立てを決定することは難しいかもしれませんので、四半期決算や見込み決算など、常日頃から、本決算を意識した事前準備をしっかりと行うことが重要といえるでしょう。

4.IBNR備金

いわゆる、“既発生既報告”の保険金等未払債務は、支払備金の1項目ですが、同様に、“既発生未報告(IBNR:Incurred But Not Reported)”の未払債務も支払備金の1項目です。
法令では、保険業法施行規則第73条で、“まだ支払事由の発生の報告を受けていないが保険契約に規定する支払事由が既に発生したと認める保険金等”として、当該備金が規定されています。

また、支払備金に関する告示第234号に登場する“既発生未報告支払備金積立所要額”については、具体的な算定方法が各社に委ねられているため、生命保険会社にお勤めの場合でも、自社の実務をご存じない方が多いように感じます。この機会に、自社の実務を調査してみるのもよいかもしれませんね。

なお、アクチュアリー試験の生保2の過去問(平成27年問題1(6))では、『IBNR備金積立所要額』と『IBNR備金積立額』が表で与えられましたので、混乱された受験生も多かったように思えます。

5.全期チルメル式責任準備金

ソルベンシー・マージン比率を計算する場合に用いる、負債の下限という位置づけです。実際には、解約返戻金と全期チルメル式責任準備金限の大きい方を下限とすることが多いようです。

6.5年チルメル式責任準備金

利源分析を行う場合に用いる責任準備金です。通常、責任準備金の計算基礎率ではなく、保険料計算基礎率を用いて計算しますが、標準責任準備金との差分を「諸積増部分」として認識する点も、利源分析独特の考え方となります。

7.継続率

決算状況表では、13回目および25回目(保険料月払の場合)を主務官庁へ報告していますが、内部管理用に、より短いものや、より長いものを計算することもあります。
また、継続率を公表している生命保険会社もあります。
新契約費の回収のためには、この継続率をいかにして高めていくかがカギとなりますので、経営指標としても極めて重要な指標の1つといえるでしょう。

なお、どれだけ継続したのかは、契約日から起算しますので、事業年度末の保有契約だけを把握しても正確な計算ができず、毎月(より厳密には毎日)の保有契約データを決算用に保存しておく必要があります。

8.2種類の新契約高

一般的に、生命保険会社の「新契約高」は「新契約」および「転換純増」で計算されます。ここで、「転換純増」とは、転換前後での保険金額の正味増加額でして、例えば、転換前の保険金額が500万円で、転換後の保険金額が2000万円の場合、「転換純増」は1500万円となります。

なお、一部の共済事業では、「転換純増」ではなく「転換後の保険金額」を新契約高に計上する場合もあるようですので、特に、保険と共済のデータを比較する場合には、注意が必要です。

9.翌月1日問題

標準責任準備金に関する告示第48号では、標準利率などの責任準備金の計算基礎率は事業年度単位(4月1日~3月31日)で制定されています。
一方、生命保険会社からみれば、契約管理業務や保険料収納業務などの効率化を図るため、口座料率や団体料率が適用される契約では、契約応当日を責任開始日の翌月1日とすることも多いようです。

したがって、料率改定時には契約応当日が4月2日以降のものから適用することもあり、逆に、保険料払込方法が年払の場合など、責任開始日と契約応当日が同一日である契約の場合には、料率改定前の契約が(翌事業年度の)4月1日まで存在するという、決算担当者泣かせの例外契約が残ることとなります。

10.保険料一時払で失効?

「失効」とは文字通り、保険契約の効力が失われてしまうことですが、通常、猶予期間中に保険料が払い込まれず「失効」するパターンが多いと思われます。

逆に、保険料払込方法が一時払の場合には、保険契約に必要となる保険料が全て払い込まれているので、そもそも、「猶予期間」という概念は消えて、「失効」は永遠に生じないと思い込んでも不思議ではありません。

しかし、ある日突然、保険料一時払で失効データが登場し、しかも決算という切羽詰まった状況でそのような事態に遭遇すると、平常心を維持することは難しいかもしれません。

実は、契約者貸付を受けた契約で、オーバーローン(=貸付金の元利合計が解約返戻金等の持ち分を超えること)となった場合には、異動項目として「失効」を使用するというシステム仕様になっていることが原因でした。

11.転換契約と非転換契約の区別ができない?

これも、実際に決算業務で遭遇した「苦い」経験ですが、保有契約高を転換契約と非転換契約に区分する際、昨年度末は「転換契約」であったにもかかわらず、今年度末は「非転換契約」に区分されてしまい、異動と棚卸が不整合という事象が発生しました。

実は、転換価格(=責任準備金+積立配当金)を転換後契約に「持ち込み」した後で、当該持込み部分のみを(解約返戻金を得るために)部分解約してしまったため、システム上、「転換価格が持込まれていない契約」と判定され、非転換契約に区分されました。

いかがでしたか。5月病という言葉は現代人特有の「社会的病(やまい)」かもしれませんが、新型コロナウイルスによる在宅勤務は、コロナ鬱といわれる、新たな「社会的病(やまい)」を生み出しているかもしれません。

アクチュアリー試験対策も含めて、今回のコラムが決算実務に従事されていない方々にとっても役立つことをお祈りしております。

(ペンネーム:活用算方)

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