所見とは何か、何であるべきか


数学者R.デデキントの名著『Was sind und was sollen die Zahlen?(邦題:数とは何か、何であるべきか?)』は、岩波書店や筑摩書房から邦訳も出版され、数学科出身の方にとって馴染み深いものと思われます。

幸い筆者も大学時代にこの書籍と出会い、社会人になってからも、アクチュアリー試験や日常業務などにおいて、常に『●●とは何か?(⇒定義の明確化)』や『●●とは何であるべきか?(⇒望ましい性質、具備すべき性質)』という命題を念頭に置いて行動するように心がけています。

そこで、今回のコラムでは、この『数』を『所見』に置き換えた場合、つまり、『所見とは何か、何であるべきか?』について、筆者の知識と経験を交えながら、幾つかご紹介いたしましょう。

なお、筆者はアクチュアリー試験委員の経験がなく、内容はすべて個人的見解であり、日本アクチュアリー会資格試験の採点基準などとは全く無関係であることを、念のため申し添えます。

1.所見とは何か?

広辞苑無料検索(https://sakura-paris.org/dict/)によれば、所見とは、
①見たところのもの。見た事柄。観察・診断などの結果。
②考え。意見。「―の一端を述べる」
とあります。
アクチュアリー試験の『所見』は、➁の意味に近いかもしれませんね。

2.所見と留意点とはどう違うのか?

これまでの出題傾向としては、『●●について、アクチュアリーとしての留意点を列挙して、所見を述べなさい。』というパターンが多いように思えます。
したがって、少なくとも、試験委員の目線では、所見と留意点とは異なるものといえそうですね。

3.所見に正解はあるのか?

公式解答によれば、所見について『聞かれたことを適切に織り交ぜつつ、自身の所見を述べるようにしていただきたい。(例.平成28年生保1問題3(2)の公式解答)』とあるように、恐らく『正解』がないように見えます。
ただし、以下のように、所見に至る答案の流れと所見の内容が矛盾していないなど、何らかの満たすべき条件はありそうですが。

4.所見は採点対象か?

おそらく採点対象外と思われます。理由は、
1)公式解答に所見の例が書かれていないものがあること。
2)上述のように『自身の所見を述べるように』とのコメントに留まっていること。
という状況から判断されると思われます。

ただし、以下のような答案の場合は、減点される可能性があると思われますので、注意されると良いでしょう。
1)そもそも所見が書かれていない。(←問題文を正しく理解していない、と判断される。)
2)解答者は所見を書いたつもりでも採点者が所見を見つけられない。(←答案を整理して作成できていない?)
3)所見に至る答案の流れ・結論(例.予定利率を引き下げるべき)と所見の内容が矛盾している。(例.予定利率を引き下げるべきではない)

5.所見はどの程度書けば良いのか?

例えば、平成24年度の生保1問題3(2)の公式解答【解答例】で、文字数をカウントしてみると、2782文字のうち、379文字が所見となっています。
したがって、所見のボリュームとしては、答案全体の10%~15%くらいが1つの目安であり、答案用紙が4枚の場合、4枚目の下半分くらいが所見を書くスペースと考えてよいかもしれませんね。

6.公式解答に所見はあるのか?

例えば、平成8年度の保険1問題3(1)の公式解答では、“所見として論述される項目は、解答者の主体的な意見を中心に展開されることを望んでいる。商品開発の必要性を論じ、その開発に際しての問題点を列記したのであれば、所見は問題点を解決するための手法とその効果が中心となるべき”とのコメントがありますので、課題の解決策も所見の一部とのご見解を試験委員としてはお持ちのようです。

一方、平成24年度の保険1問題3(2)の公式解答では、課題解決策というよりも、解答者自身の意見や考えなどを記すに留まっている感じです。
いずれにせよ、“受験生自身の言葉で書かれていること”は両者の共通点のようにも思えます。

なお、アクチュアリー第2次試験(専門科目)は3つのコース(生保、損保、年金)に区分されていますが、特に、生保または損保を受験される場合、お互いの公式解答もチェックしておくのが有効です。実際、第3分野保険は両社とも取り扱えますし、適用される法律も保険業法などで一本化されていますので。

7.所見を書くときの注意点は?

解答用紙の中で、どこが所見なのかを明確にされることをお勧めします。
というのも、恐らく、試験委員としては限られた時間内で大量の答案を採点する必要があるため、一目で所見の場所が分かったほうが採点しやすく、また、試験委員の心証(例.この受験生はきちんと問題文を読んでいる等)もよいと考えられます。

ただし、以下のような所見は減点の可能性がありますので注意しておきましょう。
1)所見が書かれていない。
2)所見の場所が不明確である。
3)所見に至る内容と矛盾する所見になっている。

8.所見を事前に準備しよう

試験対策・試験テクニックとしては、例えば、事前に所見を準備しておくことが考えられます。
具体的には、「商品開発」や「経済価値ベースによるソルベンシー評価」など、時事ネタについて、事前に汎用的な所見を準備しておき、出題文に合わせて適宜補足の所見を書くように心がけることが有効と思われます。

また、答案作成の際、所見の場所が採点者に分かりやすいように、あらかじめ【所見】というような見出しを付ける方法や、最初に所見を書いてしまうといったテクニックが考えられます。

いかがでしたか。アクチュアリー試験まであと3ヶ月程度となりましたが、コロナ禍に負けず、ご自身のペースで受験勉強を進められることを応援しております。今回のコラムが受験生の一助となれば幸いです。

(ペンネーム:活用算方)

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