書評(守田氏の保険数学)


アクチュアリー試験の生保数理を学習・受験された方にとって、“守田常直”という御名前を聞いたことがあるかもしれません。
実際、昭和時代の同試験のうち、保険数学Ⅰ・Ⅱの教科書として長らく使用されていた「保険数学(上巻)(下巻)」(以下、「守田氏保険数学」という。)を著された方だからです。

さらに、例えば、生保数理の平成14年度問題2(3)は、当該書籍の練習問題と同一ですので、平成・令和時代においても、受験生必読の書といっても過言ではありません。
そこで、今回のコラムでは、「守田氏保険数学」にまつわる、幾つかの話題をご紹介いたしましょう。

1.「守田氏保険数学」の入手経緯

筆者が初めてアクチュアリー試験を受験したのは、平成6年(1994年)でしたが、当時の「保険数学1・2(平成時代はアラビア数字で科目名を表示)」の教科書は、現在の生保数理と同じく、『生命保険数学(上巻)(下巻)二見隆著』(以下、「二見氏保険数学」という。)でした。
その後、平成11年(1999年)に開催された“日本アクチュアリー会100周年記念大会”で懇意にさせていただいた(他社の)先輩アクチュアリーが、生保数理に関する勉強会を当方が開催していることをお聞きになり、ご自身が所有する「守田氏保険数学」を無償でお譲りいただけました。いまだに感謝いたしております!

2.「守田氏保険数学」と「二見氏保険数学」の共通点と相違点

両者の主な共通点は、以下の通りです。
(1)出版の動機:財団法人生命保険文化研究所(昭和27年(1952年)設立、平成13年(2001年)3月末に解散。同所の事業は財団法人生命保険文化センターに継承。)の設立記念事業(「守田氏保険数学」は10周年、「二見氏保険数学」は35周年)
(2)アクチュアリー試験の指定教科書
(3)上巻および下巻の二部構成

一方、両者の主な相違点は、以下の通りです。
(1)「守田氏保険数学」のみ掲載:アクチュアリーの任務、国際アクチュアリー統一新記号(注:上巻302ページに期始払を「トレマ」と呼称することが記載)、営業保険料式責任準備金、国民死亡表の作成
(2)「二見氏保険数学」のみ掲載:団体定期保険、退職年金保険

3.「守田氏保険数学」の入手方法

残念ながら、Amazonや古書店などでは品切れのようでして、さらに、後述の国立国会図書館オンラインでも、タイトル表示のみであり、内容は閲覧不可となっている模様です。
なお、日本での著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年(無名・変名・団体名義の場合は、公表後70年)のようですが、守田常直氏は、昭和31年(1956年)に御逝去されましたので、2026年頃には著作権が消滅するかもしれませんね。

ちなみに、2026年は、ICA(国際アクチュアリー会議)が東京で開催予定ですが、下図の通り、「守田氏保険数学」の上巻では、当時のICA開催履歴が掲載されています。
なんとも、不思議な御縁を感じますね。

4.オンラインで閲覧できる「保険数学」

2022年6月1日(水)の当コラム『気になるニュース(2022年5月)』でご案内の通り、国立国会図書館オンラインで、絶版書籍などが簡単に閲覧できます。

例えば、“保険数学”をキーワードにして検索すると、以下の書籍がヒットし、内容も閲覧可能です。
亀田豊次郎氏https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1280530
忍田又男氏https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1443023
杉浦徳次郎氏https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1452594
鈴木敏一氏https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1222932

5.余談(その1)

上記4.にある検索結果には、
『保険業法講義(生命保険数学会編)』
という書籍もヒットします。

ご案内の通り、昭和14年(1939年)に保険業法が改正され、保険計理人制度が導入( 29ページ参照)された模様ですが、当該資料が昭和17年(1942年)に刊行されたことを勘案すれば、当時の状況などを窺い知ることができる貴重な資料と言えるでしょう。

6.余談(その2)

上記5.と同じく、検索結果には、
『輓近高等數學講座. 續 [第7] 保險數學1』
という書籍もヒットします。
当該講座は、保険数学以外のテーマも含まれているのですが、例えば、類体論で有名な高木貞治先生の名著『近世数学史談』も、当該講座に含まれています。

なお、同書籍は、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能です。
また、高木貞治先生は、昭和35年(1960年)に逝去されておりますので、2030年に著作が全面解禁されるかもしれません。
https://www.meirinkanshoten.com/products/detail/551977

いかがでしたか。アクチュアリー試験のうち第1次試験(基礎科目)については、出題範囲が教科書に限定されることが資格試験要領に明記されておりますが、今回ご紹介しました「守田氏保険数学」のように古典的名著を正会員になった後、じっくりと読み解くこともまた、アクチュアリーとしての素養の充実に大いに効果がありますね。

また、国立国会図書館のオンライン検索など、デジタル化の波は、ある意味では生活を便利にする機能が期待される一方、著作権などの権利をいかにして保護していくのかが、今後の大きな課題の1つと言えそうです。

 

(ペンネーム:活用算方)