いまさら聞けない、アクチュアリーとは


アクチュアリーとはどんな仕事をする人か?

アクチュアリーとは、データを用いてリスクや不確実性の評価を行う専門職のこと。2023年3月末時点の日本アクチュアリー会正会員数は2056人で、弁護士や公認会計士と比べると希少な専門職です。正会員の内、45%は生命保険会社、15%は損害保険会社、10%は信託銀行で働いています。

(出典:日本アクチュアリー会のウェブサイト)

1.保険会社で働くアクチュアリー

保険会社では、保険の料率計算や決算などにかかわるアクチュアリー、企業年金の数理計算やコンサルティングを行うアクチュアリー、会社のリスクを統合的に管理するアクチュアリー、データ分析に特化したアクチュアリーなど、多方面で活躍しています。

実際の業務の紹介を、ドキュメンタリー形式で行ってみよう。

赤井さんは保険会社の商品部に所属している。多くの保険会社では、商品開発のとりまとめを行う部門を設置しており、赤井さんのように商品部で働くアクチュアリーも多い。

新しい保険商品を開発する際、販売部門はもとより、法務部、リスク管理部、契約審査部、保険金部という商品に関連するさまざまな部門との意見調整が必要であり、発売に至るまで、通常社内でプロジェクトチームが組成される。

赤井さんの会社では、高齢化を背景に最近注目を集めている認知症保険の開発を検討している。今日は、主計部のアクチュアリーから、依頼していた認知症保険の保険料について説明を受けたあと、プロジェクトチームに持ち帰り検討を行った。

認知症保険を開発するためには、多くの前提が必要となる。もちろん市場におけるニーズは大前提であるが、保険の公共的役割を前提としつつも、民間企業であることから、収益性の検討も必要である。

人の生存や死亡であれば、生命表を用いて保険料の大枠は計算できるが、認知症というニューリスクの発生率の算定において解決すべき課題は多い。例えば、認知症の場合、保険料の計算に利用可能なデータが極めて限られている。自社の経験データがない場合、公的統計を参照することがあるが、認知症については公的統計も少ない。認知症の発生率は、年齢と性別に応じて異なることが知られている。年齢別、性別の保険料の計算を行うための資料が入手できるかどうか。さらなる調査が必要だ。

主計部のアクチュアリーの説明では、特に高齢者のデータが少なく、85歳以上の認知症の発生率を合理的に算定するのが困難なようだ。そのような場合、認知症と関連性の強い要介護状態の発生率などを参照して超高齢の発生率の補外を行うこともある。

赤井さんは主計部と相談し、とりあえず、暫定的に得られた算定基礎により、概算保険料の計算を行うことにした。保険料の水準は、多面的に検討される。顧客目線で高すぎるかもしれない。すでに販売している他社の認知症保険の保険料と比べるとどうか。収益性とリスクのバランスはどうか。引受査定や保険金の支払事務のシステムにかかる追加開発コストは。

生命保険の場合、一般に保険期間が長期にわたる。実際の発生率が予定発生率よりも低ければその分を配当として支払うことにより調整できるが、実際の発生率が予定発生率よりも高い状況が恒常化した場合において、保険料を引き上げることは、きわめて例外的にしか認められていない。そのため、保険料の設定においては、さまざまなリスクを考慮したうえで安全割増などを見込む必要があるが、価格競争力を失うわけにもいかない点が苦労するところである。

(出典:「新版アクチュアリー」の152~154頁を参考に、ドキュメンタリーを作成)

2.信託銀行で働くアクチュアリー

信託銀行で働くアクチュアリーは、企業年金の数理計算・コンサルティングなどの分野で活躍しています。実際の年金アクチュアリーの業務を、ドキュメンタリー形式で紹介してみよう。

新太くんは信託銀行の年金コンサルティング部に所属している。信託銀行で働く年金アクチュアリーの多くは、企業年金の数理計算を行う年金数理部に所属しており、最初の数年間はそこで年金数理の実務を学ぶ。新太くんの最初の配属は年金数理部だったが、物怖じしない性格と持ち前のロジカルな説明力の高さが評価され、二年目にして年金コンサルティング部に異動となった。生命保険会社と比べると、信託銀行の法人顧客は大手企業が多い。そんな大手企業の部長クラスに対して、コンサルを行う立場にある新太くんは、年金数理人である上司からコンサルスキルを日々学んでいた。

ある朝、日経新聞を見ると、大阪の重要顧客であるA社がB社と合併するという記事が載っていた。B社の企業年金は、他の信託銀行が総幹事を行っている。企業が合併すると、企業年金も統合されることが多い。統合後の企業年金の総幹事を他の信託銀行に取られると、社内で由々しき事態となる。新太くんは、早速A社を担当している大阪の営業担当にコンタクトをとった。

営業担当者曰く、A社とB社の合併は昨日夕方にリリースが出ているが、水面下ではすでに人事制度の統合も決定されており、企業年金も統合される見込みである。しかしながら、財務面での統合の影響は不透明であり、A社の財務担当者はその影響を知りたがっているとのこと。

早速、新太くんは、上司と相談し、統合後の企業年金の制度設計の検討に着手した。A社の企業年金の水準は、B社よりも高い。A社に揃えると、B社の企業年金は給付増額となり退職給付債務は増える。一方、給付水準をB社に揃えると、退職給付債務へ減るものの、A社は給付減額となり、労働組合からの反発が予想される。また、単純に水準を揃えればよいという話ではなく、統合後の人事施策との整合性の考慮も必要だ。合併するのは1年後。労使合意に費やす時間は、あまり残されていない。

B社の人事データは手元にないので、退職率や昇給指数をどのように設定するのかも年金数理部と相談する必要がある。B社の信託銀行にも同様の話がいっているはずで、スピード感を持った対応が欠かせない。新太くんは、対応すべき課題を整理し、退職給付債務の計算に必要な情報を入手するために、A社の財務担当者との打ち合わせをセットした。幸い、初手の動きはB社幹事の信託銀行よりも早かったようだ。

信託銀行が受託する企業年金は、一般の企業が実施するものである。したがって、年金アクチュアリーが行う業務の受け手は一般の企業であり、保険アクチュアリーと比べると外向きの仕事が多い。若くして、企業の部長クラスにプレゼンする機会もある。企業年金に関する数理的な情報を平易な言葉でノン・アクチュアリーに説明するプレゼンスキルが求められる。

3.保険会社・信託銀行以外で働くアクチュアリー

正会員のうち、約3割は保険会社・信託銀行以外に所属しています。その代表格は、監査法人、コンサルティング会社、再保険会社です。新卒でこれらの会社に入るケースもゼロではありませんが、その大半は転職組です。保険会社や信託銀行で、基本的な数理業務のスキルを身につけたあと、これらの会社に転職するというケースをよくみかけます。

ほかにも、銀行、証券会社、監督当局、データプロバイダー、大学、ベンチャー企業などでも活躍している方がいます。保険や年金の分野だけではなく、リスク管理やデータサイエンスのスキルを用いて非伝統的な分野で活躍するアクチュアリーも登場しています。

👉 医療系データサイエンティスト

 

アクチュアリーの国際交流

アクチュアリーの仕事で用いる技術は世界共通なので、国際性が高いことで知られています。現在でも、国際アクチュアリー会を通じて、国際的な意見交換や技術交流が行われています。国際アクチュアリー会に正会員(Full membership)として加盟している団体数は74(2022年9月17日時点)。日本からも、日本アクチュアリー会と日本年金数理人会が正会員になっています。個人としても、国際アクチュアリー会のセクション(AFIR-ERM、ASTIN、PBSSなど)に加入することができます。

また、海外のアクチュアリー会と国際交流を行う機会もあります。ASEAと呼ばれる、アジア諸国のアクチュアリーを日本に招致し、様々なセミナーを実施するイベントが有名です。日本アクチュアリー会からも、海外のアクチュアリー会のイベントに若手を中心としたメンバーを派遣していました。残念ながら、いずれもコロナ禍で中断されていますが、早く再開されるとよいですね。

海外研修のなかでも有名なのが、1986年の海外研修。当時、スイス・アクチュアリー会の会長だったビュールマン教授が日本の若手に送った言葉は今でも胸に響きます。

私たちアクチュアリーは、専門職として、保険・年金に付随したリスクの不確実性のすべての側面を処理できる者であると理解しなければなりません。

このような理解のもとにおける広い意味でのアクチュアリーの役割はもちろん一人の個人の力では、達成することができません。しかし、私たちはそれをアクチュアリーという職業人全体としては達成できます。

以下にアクチュアリーの新しい研究分野のいくつかをスケッチしてみました。

  • 生保と損保のアクチュアリーの手法は、互いにもっと近寄るべきです。生保アクチュアリーは、長期にわたる一様なリスクの性格を研究し、損保アクチュアリーは短期間の異質のリスクのモデルを研究していますが、お互いに貢献しあえると思います。
  • 損保アクチュアリーは、責任準備金評価の分野で一般に認められる職務となるように会計との接点を含め、明確な技法を開発すべきです。
  • 生保アクチュアリーは、会社のバランス・シートの資産・負債の両側の変動に対応するスペシャリストになるべきです。生命保険はリスクのポートフォリオにより生じる投資活動を遂行するうえでも、より科学的な基礎が必要です。
  • 社会保障は非政治的なエキスパートの協力を必要とします。私たちアクチュアリーは、それを支援することができます。ある意味では、アクチュアリーは自国の社会保障に関する問題の解決を、援助する義務があるといってもよいでしょう。その過程ではアクチュアリーはインフレーションという現象に必ず遭遇します。これをどのように処理したらよいのでしょうか?これは科学的アドバイスが求められる数多くの問題のひとつです。

日本からはるばる来ていただいた、若いアクチュアリーの皆様の前で講演するというこの機会を借りて、私は次の提案をさせていただくのがもっとも適当であると思います。

いますぐ、これらの新しい問題に取り組む仕事を開始しましょう。

(出典:「新版アクチュアリー」の34~36頁)

ちなみに、このときビュールマン教授が行った講演のタイトルは「スイスにおける年金基金の構造」。損保数理のテキストに登場するビュールマン教授が、年金について語っているのも意外です。

海外研修を受けて、英語の勉強に励むアクチュアリーもいます。英語ができるようになると、アクチュアリーとしての活躍の場も広がります。でも、英語はちょっと・・・という人は、アニメでも見ながら英語を勉強するのはいかがでしょうか。ディズニーのアニメ「ズートピア」にアクチュアリーが登場しています(動画の1:20あたり)。子供が将来なりたい職種として、宇宙飛行士の次に登場するのがアクチュアリー。夢があるシーンですね。

 

 

アクチュアリーになるために

アクチュアリーになるには、日本アクチュアリー会が行う資格試験に合格する必要があります。
1次試験では、「数学」「生保数理」「損保数理」「年金数理」「会計・経済・投資理論」の5科目のうち1科目以上合格で研究会員、5科目合格で準会員になれます。正会員要件の一つにプロフェッショナリズム研修の受講もあるので、この研修の受講も必要です。2次試験は生保・損保・年金の3コースに分かれており、いずれかのコースで2科目合格することにより正会員になれます。

👉 アクチュアリー試験の合格率推移

アクチュアリー1次試験

1次試験は「2次試験を受けるに相当な基礎的知識を有するかどうかを判定すること」を目的としています。この基礎的知識には、アクチュアリアル・サイエンスの基礎をなす「数学」(確率・統計・モデリング)、保険・年金実務で用いる「生保数理」「損保数理」「年金数理」、そして保険・年金と関連性の強い「会計・経済・投資理論」が含まれます。受験する科目の順序は受験生が決めることができます。数学に強い学生であれば「数学」、生保実務の経験があれば「生保数理」というように、自分のスキルや業務内容に応じて決定するのがオススメです。

また、「数学」と「損保数理」、「生保数理」と「年金数理」は類似の技術をベースにしているので、一緒に勉強する際の相性が良い科目とされています。

アクチュアリー2次試験

2次試験は「アクチュアリーとしての実務を行う上で必要な専門的知識および問題解決能力を有するかどうかを判定すること」を目的としています。試験問題は、2部構成です。

  • 全体の5割程度が、アクチュアリー実務で必要な専門的知識を有するかどうかを判定する問題
  • 残りの5割程度が、アクチュアリー実務で必要な専門的知識に加え、問題解決能力を有するかどうかを判定する問題

問題解決の部分は、時事問題について論述形式で回答するなど、より広く専門職としての見識を問う問題が出題されることから、アクチュアリーの役割を考えながら日々の業務を行うことが受験対策にもつながります。

アクチュアリーの次なる一歩:CERA

アクチュアリーが次の一歩としてCERAを取得することで、キャリアの幅を広げ、多様な業界で活躍することができます。CERAは、現代の複雑なビジネス環境におけるリスクマネジメントの深い知識を証明するものです。リスクマネジメントを通じた新たなキャリアを切り開くなら、CERAは最高のコンパスとなるでしょう。

👉 アクチュアリーの次なる一歩:CERA

アクチュアリー試験の勉強方法

アクチュアリー数学シリーズ①「アクチュアリー数学入門」(第1版)にアクチュアリーの魅力を伝える座談会が載っています。この中で、大手保険会社所属の人が以下のような発言を行っています。

当社の場合、入社1年目にアクチュアリー会の講座に通えます。また、試験直前などには1週間程度休ませてもらえるなど、会社からそれなりの配慮はいただきました。試験勉強は「空いた時間を極力使う」ということで、電車の中、昼休み、細切れの時間等を有効活用しました。私の場合は、特に2次試験に苦労しました。休日は多いときで10時間くらい勉強していたと思います。

ここで登場する講座は「アクチュアリー講座」と呼ばれるもので、基礎講座では1次試験の5科目すべてをカバーする講義を受講することができます。特論講座では、2次試験やCERAとも関連する内容も学ぶことができます。対面開催の場合、他社のアクチュアリーとも知り合うことができ、アクチュアリー試験という目標を共有する同世代のアクチュアリーとの交流を深める場にもなっています。

👉 これからアクチュアリー試験を始める人へ

 

アクチュアリーの年収

アクチュアリーの約7割は保険会社・信託銀行で働いているので、給与水準はその会社の給与水準に依存します。会社によっては、正会員になると数万円程度の上乗せがある会社もあります。正会員になったタイミングで、一時金が支給される会社もあります。

👉 アクチュアリーの年収ってどれくらい?

 

アクチュアリーとして就職するために

再びアクチュアリー数学シリーズ①「アクチュアリー数学入門」(第1版)のアクチュアリーの魅力を伝える座談会から引用します。

私の場合は、アクチュアリーだけを対象にした採用試験を2社受験しました。両方とも、最初に数学の筆記試験が行われ、あとは一般的な面接という流れでした。筆記試験の内容は、年度によって異なると思いますが、私のときは微分積分や線形代数の初歩的なレベルです。大学院レベルの数学までは求められませんでした。大学入試のような問題が出題される場合もあります。

このように、アクチュアリーを対象にした採用試験を行う会社が一般的で、筆記試験を行う会社もあります。筆記試験を行う目的は、アクチュアリー試験に合格できる水準の数学的素養を持っているかを図るためです。面接では、ロジカルな思考力やコミュニケーション能力などが問われます。面接官の多くは「アクチュアリー試験を受けたことがありますか?」と聞くと思います。これは、全科目合格するために約8年要するというアクチュアリー試験に望む覚悟があるのかの反応を見るための質問です。

でも、アクチュアリー試験を受けたことがないんだけど…

ご安心ください。学生時代に試験を受けたことがなくても、アクチュアリー候補生として採用されている人はいます。未受験であっても、面接でアクチュアリーになりたいという明確な意思を熱く語ることができれば、そのやる気が面接官に伝わることでしょう。

 

(ペンネーム:ceraverse)

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