数学を使って事業のストーリーを描く力を、医療の世界で生かしたい


プロフィール

齋藤 知輝(さいとう・ともき)さん

株式会社JMDC データイノベーションラボ
日本アクチュアリー会正会員
Kaggle Competitions Expert (3 solo silver medals)
小学生から将棋に没頭。中学ではプロ棋士を目指してプロ棋士養成機関である奨励会に入会していた。東京大学工学部計数工学科を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。入社1年目で正会員、理事長特別賞受賞。商品開発業務等を担当した後、2018年より現職。日本最大級のリアル医療データをもとに生活習慣病の疾病リスク予測モデルの開発等に従事している

【What‘s 株式会社JMDC】

「データとICTの力で、持続可能なヘルスケアシステムを実現する」をミッションに医療ビッグデータ業界のパイオニアとして 2002 年に設立。独自の匿名化処理技術とデータ 分析集計技術を有しています。8 億 1,000 万件以上のレセプトデータと 3,700 万件以上の健 診データ(2022 年 3 月時点)の分析に基づく保険者向け保健事業支援、医薬品の安全性評 価や医療経済分析などの情報サービスを展開しています。また、健康度の単一指標(健康年 齢)や健康増進を目的とした Web サービス(Pep Up)など、医療データと解析力で健康社 会の実現に取り組んでいます。

―まずは、JMDCの事業内容、強みや特徴について教えてください。

1,000万人分を超える医療ビッグデータは、健常人を含む一般ポピュレーション下での有病割合や発生等の検討、転院や複数施設受診があっても追跡が可能なデータベースであることが特徴となっています。これらを活用することで、「生活者個々のヘルスリテラシー向上(PHR/パーソナル・ヘルス・レコード実現)」「医師の貴重な医療スキル・リソースの最適配分」に繋げるプロダクト・サービス開発を行っています。さらに、製薬や生命保険領域では、マーケティング精緻化/ R&Dオペレーション改善/データベース研究/新サービス企画など、データを活用した新しい側面からのビジネスインパクトの創出をしています。

―JMDCがお客様に信頼されている理由とは何ですか?

データが使いやすく整理されていて質が高いことだと思います。
当社の大きな特徴は、データをキレイにする専門部署があるところでしょう。生の医療データは、病名などの表記が完全には統一されていません。「風邪」一つとっても、漢字・カタカナ・ひらがなで書かれたり、「感冒」と表現が異なったりするため、ラベルを振り直すための対応表が必要です。当社ではデータクレンジングのプロフェッショナルたちが、豊富な疾患・医薬品等の知識をもとに長年かけて整備した高品質の対応表があり、これは今もブラッシュアップされ続けています。
欲しい情報を正確に取り出せるようにデータが整えられているからこそ、データをどう活用してどんなサービスにつなげるか、具体的な提案につなげることができるのです。

―齋藤様の仕事内容を教えてください。

医療ビッグデータの新たな価値を生み出していくことです。
JMDCのアクチュアリーは「保険会社のデータ利活用を専門で扱うコンサルチーム」と「業界問わず医療ビッグデータの新たな活用方法を探るR&Dチーム」の2つに大きく分かれており、私は後者に所属しています。
たとえば、最近のR&Dの取り組みとしては、医療データと生活データが紐づいたデータベースの利活用があります。医療データは単体でもさまざまな活用ができますが、別のデータとつながることでさらなる価値が生まれます。特にウェアラブルで測定された睡眠・運動等の生活データは、データ数もかなり蓄積されてきており、新しい活用可能性がどんどん見えてきています。
年1回の健康診断結果以外に、日々の睡眠や運動のデータと結びつくことで、健康と疾病の相関性の解像度はより高くなります。ウェアラブルデータを保険業界でどう活用できるのかは、私がアクチュアリー会の年次大会で2020年12月に発表し、実際にウェアラブルデータを用いた保険会社とのプロジェクトも進んでいます。また、2022年4月には、ウェアラブルを活用したメンタル疾患予測モデルについて海外のジャーナルに査読付き論文を発表しており、保険業界以外でもデータのバリューは広く認めていただけている状況です。
データは量や種類が多くなるほど扱うのが難しくなりますが、アクチュアリーがデータサイエンスの知識を生かすことで、データの価値向上につながっていると考えています。

―齋藤様がJMDCに転職した理由とは? どんなところを魅力に感じましたか。

前職は保険会社でしたが、データサイエンスの勉強をしていたらどんどん面白くなっていきました。データサイエンスの領域で知識を深め、活躍するには、「素材となるデータが強い」ことが重要です。医療データを扱うリーディングカンパニーの当社に「この環境なら、いろんなチャレンジができるのでは」と可能性を感じました。
クレンジング済みのデータを使えることも大きな魅力でした。データサイエンティストの多くは、データをキレイに整備することに多くの時間がとられるため、そのデータをどう活用するかまでじっくり考えることがなかなかできません。当社には、クレンジングの専門部隊がいるので、新しい事業アイデアや価値向上を考えることが好きな自分にとっては最適な環境だと感じました。

―実際に仕事をしていて感じる面白さ、やりがいはどこにありますか。

“未病・予防”にかかわれる社会貢献性の高さと、データの新しい使い方をどんどん発信できるところです。
医療領域のデータ利活用はブルーオーシャンです。医療現場だけではなく、幅広くみんなが健康になるための大きな枠組みでは、データはまだまだ活用できているとはいえない。つまり、データサイエンティストがアイデアを生み出せる余地がたくさん残っているということです。データ利活用の価値が伝わるように発信していくのは難しいけれど、だからこそやりがいがあります。

―JMDCで活躍しているアクチュアリーの特徴とは?

真っ新なキャンパスに、自分で絵を描くことが好きな人が多いと思います。
当社には、決まった計算業務はあまりなく、新商品企画など新しく価値を生み出すことを求められます。「このデータを使って、こんなことができたらいいのでは」と考えることが好きな人には刺激的な環境でしょう。
案件としては、1か月程度のクイックなものから、プロジェクトチームを組成して比較的長期に亘るものまで様々です。R&Dチームの携わる案件はクイックなものが多く、私の場合は年間10本ほどの分析を行っています。各案件は基本的に1~2人が担当し、新たなデータ活用方法のアイデアが数多く試されています。
データサイエンスの世界では常に新しい情報が更新されていくので、知識のキャッチアップが好きな人、学ぶことが好きな人も多いですね。

現在9人いるアクチュアリーは、入社後に医療領域の知識を勉強している人ばかりです。医療やヘルスケアに触れてこなかったものの「数学で社会を良くしていきたい」という思いで、未開拓の領域にチャレンジしています。

―今後挑戦したいこと、実現したいことは何ですか。

これまでのヘルスケアの枠組みではタッチできなかった人達の疾病予防・健康維持のためのデータ利活用をもっと進めていきたいです。
例えば、今年論文掲載されたたアルゴリズムを活用し、ウェアラブルでメンタル疾患を予測できれば、従業員のメンタルヘルスケアに力を入れる企業にとって重要な情報になります。健康経営に意欲的な企業と組んで、メンタル疾患の予防につなげられたらうれしいです。
さらに将来的には介入と行動変容・健康改善のデータを蓄積・分析し、一人ひとりに本当に合ったヘルスケアサービスを届け、すべての人が健康に暮らせる社会になればいいなと思っています。

―最後に、アクチュアリーやアクチュアリーを目指す方に向けて、メッセージをいただけますか。

データサイエンティストの仕事をする上で、アクチュアリーのプロフェッショナリズムの精神は非常に役立つと考えています。
既存モデルの改善でとにかく予測精度を追求するような場面では、そのための技術領域に長く関わってきた人が強いでしょう。ただ、分析結果を実際にサービスに使ったり、事業判断に適した形で提示したりするには、また別の能力が必要になります。
アクチュアリーという専門職には、「数学を使って事業に貢献する」ことの100年以上の歴史があります。単に正しく計算するのではなく、事業をうまく回していくために専門家として適切に発信し、数字を「事業に生かすストーリー」として見せることができる。そうしたかかわり方ができることが、アクチュアリーの強みだと思います。

データサイエンスの領域でも、医療のような慎重な介入が求められる未開拓な分野では、多くの人の納得を経て事業を動かしていかなければいけません。ただ数字をはじくだけではなく、その意義を見せていくアクチュアリーの力が必要です。
数学を使って「健康で豊かな人生をすべての人に」届けることに興味がありましたら、その“ストーリーを描く力”を、ぜひヘルスケアの世界で使ってみませんか。JMDCで一緒に働けることを楽しみにしています。

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