経営陣やIT担当者など、さまざまな立場を理解したコミュニケーションが大切


プロフィール

勢見賢人(せいみ・けんと)さん

ジブラルタ生命保険株式会社 米国会計数理チーム マネージャー。日本アクチュアリー会正会員、CERA。
東京大学工学部計数工学科を卒業後、東京大学大学院情報理工学研究科数理情報学専攻修士課程を修了。日系保険会社を経て2016年4月にジブラルタ生命保険入社。

―アクチュアリーを目指したきっかけとは?

アクチュアリーという職業を知ったのは大学2年生のときです。計数工学科への進学を決めた際に、「数学で社会に貢献できる仕事」があると知り興味を抱きました。ただ計算をするのではなく、ビジネスの世界で役立てられるところが面白そうだなと。その後、修士に進み、研究者の道も選択肢にはありましたが、自分が学んできたことをより直接的に社会に還元したいという思いが強かった。修士1年のときに初めてアクチュアリー試験を受け、本格的に正会員を目指そうと思いました。

―アクチュアリー試験の勉強はどのように進めましたか?

大学院を修了後、日系の保険会社に入り、業務と勉強を両立させながら社会人3年目で正会員になりました。毎朝、会社近くのカフェに開店と同時に入り、始業時間までの2時間を試験勉強に充てました。
修士2年生のときに2科目目まで合格していたので、社会人になったとき1次試験は残り3科目でした。院生時代に勉強していたこともあり、社会人1年目ですべて合格できたのですが、2次試験対策となると話は別です。毎朝の勉強だけでは追いつかず、2年目は不合格に。時間を捻出するために会社の近くに引っ越して、始業前と終業後の勉強時間を確保。3年目で2次試験の2科目に合格することができました。

―日系の保険会社を経て、社会人4年目にジブラルタ生命に転職。その理由とは?

前職では生命保険と損害保険両方に携わっていましたが、生命保険の方が計算の対象期間も長く数学的に難しいシミュレーションが必要になります。金利の将来予測など時間的な不確実性が高い中、数字を出さなければいけない奥深さがある。そこに面白さを感じ、より規模の大きな組織で生命保険の知識を深めたいと思ったんです。ジブラルタ生命には個性豊かなアクチュアリーが多く、その点も入社の決め手の一つになりました。

―入社して感じたジブラルタ生命の面白さとは?

ジブラルタ生命は、AIGエジソン生命保険およびエーアイジー・スター生命保険と合併した会社です。だからこそ、いろいろなバックグラウンドを持ったアクチュアリーが活躍している。アクチュアリー会で発表している方やCERA資格を持っている優秀な方もいて、「自分もCERAを受けてみよう」とチャレンジ精神を刺激されました。日常的に英語力が求められるのも刺激的で、勉強すべきことの多さに日々わくわくしています。

―現在の仕事内容を教えてください。

米国会計数理チームに所属し、米国会計基準での保険負債を算出して報告する業務を担当しています。米国会計基準は現在、大きな改正に向けた議論が進行中なので、常に最新情報に接して知識をインプットしなくてはいけません。
現在はマネージャーとして、会議に出ることも多いです。例えば、プルデンシャル生命保険、PGF生命保険、プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパンの同じグループの3社との会議に参加し、最適な計算方法について情報交換をすることも。それぞれの計算のノウハウを共有し合うことで、優れている部分、取り入れた方がいい視点がわかってきます。また、プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパンから「こういう計算をしている商品があるけれど、ほかの計算方法や改良の余地はないのか」といったヒアリングも入るので、内容をチームメンバーにフィードバックし、効率的な集計方法・分析の検討に役立てています。

―ジブラルタ生命に入って、どんな力がついたと思いますか?

今までの方法では時間がかかっていた計算業務にメスを入れプロセスを改善する力かなと思います。
あるデータを作成するために、従来はAとBのデータを使っていたとします。でも多様な視点を持つアクチュアリーと日常的に接しているので、Cのデータを使った方が簡単に計算できるのではないかなど、慣習にとらわれず効率化を検討する力が鍛えられています。業務短縮につなげることで、より高度な計算に時間をさけるようになり、より経営に役立つような分析ができると思っています。

―優秀なアクチュアリーが多くいる中で、勢見さんご自身の強みはどこだと思いますか?

CERA試験の勉強で身に付いたものなのですが、「物事をいろんな角度から見て意見を出す」ところです。CERA試験では、業務上生じうる事例に対してどれだけ多様な論点を書き出せるかという“考える問題”が多く、いろいろな立場に立った発想が必要です。
現在の業務は経営陣やIT部門の人へ計算手法を説明する場面が多いのですが、相手によって求めている情報は異なります。経営陣は将来の経営戦略に役立つ情報をより必要としていますし、IT部門の方はプログラムを正確に作成するためのより詳細な情報がほしい。相手の立場になれば、「経営視点からこういうデータが必要だろう」「ITにはこういう資料も用意しておこう」などと事前に動くことができ、コミュニケーションもスムーズになります。
まだまだできていないところも多いのですが、相手のニーズによって、出すべき情報や説明の仕方を変えられるような多角的な視点は、これからも大切にしていきたいです。

―これからアクチュアリーを目指す方に伝えたい、アクチュアリーに求められる要素とは?

まずは、相手の立場に立ったコミュニケーション力です。アクチュアリーは難しい計算を手掛ける専門職ですが、それを難しいまま伝えても意味がありません。どうしたら伝わるだろうという視点で考えることが大切だと思います。
コミュニケーション力の一つとして、英語も欠かせません。外資はレポーティングもすべて英語ですし、そもそもアクチュアリー業界の新しい情報はまず英語で入ってきます。そこにアクセスできる語学力の有無は、キャリアを大きく左右すると思います。
あとは、興味の幅を広く持っておくこと。数学を勉強することももちろん大切ですが、時事問題、経済動向、ITの先進技術など、世の中を取り巻く事象にアンテナを張り巡らせておくのも大事です。とくに保険会社はいろいろな社会情勢に影響を受けるので、不確実な未来を予測する上で、計算以外の情報も必ず役に立つと思います。

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