生命保険会社のキャリアが長いからこそ、再保険領域で強みを生かせる


*プロフィール

谷野達也さん

ハノーバー・リー・サービセス株式会社 生命再保険リーダー 日本アクチュアリー会正会員。
慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業後、1991年に千代田生命保険相互会社(現・ジブラルタ生命保険株式会社)に入社。2001年にハートフォード生命、2013年にメットライフ生命に転職。その後ミュンヘン再保険を経て、2019年1月より現職。

―アクチュアリーを目指したきっかけとは?

実は、キャリアのスタート時にはアクチュアリーには興味がありませんでした。
大学では数学を専攻していたので、その知識を仕事に生かしたかった。そこで当時興味を持ったのは「資産運用」でした。私が社会人になった90年代前半は、数学を投資判断や投資商品に役立てるような資産運用の仕事が国内ではまだあまり注目されておらず、欧米で先行していました。今まで誰も考えてこなかったような理系的な発想に基づく独自の資産運用方法を確立したい。そんな気持ちで、バブル絶頂期だった91年、運用資産が潤沢にある生命保険会社への入社を決めました。
入社すると、1年の集合研修期間を経て希望通り海外投資を手掛ける国際部に配属されることに。そこで3年間、欧米のマクロ経済の調査・分析等を主に担当し、当時の仕事内容にはとても満足していました。
転機は、入社5年目に訪れます。会社がそれまで海外投資に手を広げすぎた反動から国際部の事業縮小が決まり、企画部の数理グループに異動になったんです。

―そこからアクチュアリーとしてのキャリアがスタートしたんですね。

本当は資産運用の仕事を続けたかったんですけど、サラリーマンの宿命ですね(笑)。
ただ、アクチュアリー試験の勉強はそこから始めたわけではなく、国際部にいたときに1科目(会計経済)だけ合格していたんです。たまたま当時の上司がアクチュアリーで、「これからの時代、武器になるのは専門能力だ。数学を専攻していたのなら、アクチュアリーの勉強をしてみたらどうだ」とアドバイスしてくれました。当時、資産運用の知識を深めようと証券アナリスト試験を受けており、アクチュアリー試験の「会計経済」の内容が同試験とほとんど重なっていたので、試しにその科目だけ受験してみたんです。そんなわけで、数理グループに異動後は4年間、アクチュアリー正会員を目指しながら商品開発業務や決算業務を担当することになりました。

―アクチュアリー試験の勉強と仕事の両立は大変だったのでは?

まさに。数理グループにいた4年間は仕事が忙しく、その間1科目しか合格できませんでした。当時、千代田生命は財政的にもひっ迫していましたから、決算を見ている側も疲弊してきます(※2000年に経営破綻)。その後、やはりまた資産運用の仕事がしたいと希望し、子会社の千代田投資顧問に異動。ただし試験勉強は続けることにしました。すると時間的・気持ち的にも余裕ができたことで、投資顧問会社にいた2年間で2科目に合格することができました。
仕事の方も順調で、生命保険大手8社の投資顧問会社のポートフォリオ・マネージャーとして運用成績で1位になるなどの実績を残すこともできました。

―その後、外資系生命保険会社、再保険会社に進みます。その経緯とは?

日系企業から外資へ移ったのは、先にハートフォード生命に転職していた企画部数理グループ時代の上司から「うちに来ないか」と誘われたからです。
投資顧問会社での仕事は非常に面白かったのですが、資産運用業務に復帰し、一定の満足感や達成感を得られたことで、新たに将来のキャリアを冷静に考え始めていたタイミングで元上司から声をかけていただきました。100%外資の会社がゼロから日本のマーケットに変額年金保険に特化して参入する。そのチャレンジが面白そうだと思ったこと、さらには商品の特性上、資産運用業務の経験が生かせると考え、2001年にハートフォード生命に数理部のマネージャーとして転職しました。
そこでアクチュアリー正会員になり、数理決算や商品開発業務に携わり、さらには保険計理人も経験させていただきました。比較的小さい会社だからこそいろいろ挑戦させていただくことができたのだと思います。同社は2008年のリーマンショックを機に最終的に事業撤退となってしまいましたが、ハートフォードで再保険の窓口を担当させていただいたことで「再保険会社って面白そうだな」と思うようになったんです。

―再保険のどんな点に魅力を感じましたか?

それまでのキャリアの中で、数理決算や商品開発など、アクチュアリーが関与する分野を幅広く経験させてもらい、「今度は違う分野に挑戦したい」という思いがありました。再保険は伝統的な死亡リスク等の移転に加えてファイナンス目的等の様々な理由で保険会社からニーズがあります。また、私自身過去に会社の破綻を2度も経験しているからこそ、多くの知り合いが業界内外の様々な会社に転職している。自分の財産である幅広い人脈が、再保険なら絶対に生かせると思いましたね。

―現在の仕事内容と、その面白さとは?

現在は、日本の生命再保険チームのヘッドを務めてています。お客様のニーズを聞いて難しい再保険契約を苦労してまとめられたときは、目に見える成果として達成感がありますね。
また、仕事上での企画や提案を自由に行うことができ、ドイツ本社にいる上司に「こんなことをやりたい」といえばすぐに検討してくれます。小さい組織ゆえの動きやすさもあるからだと思いますが、例えば直近では、「日本アクチュアリー会が行っている海外研修に同行し、トロントオフィスと協働して日本からの同研修参加者に対してセミナーを行ってはどうか」と提案し、「それはいいアイデアだ」と二つ返事で承認を得ることができました。こうしたセミナーの提供は、今までは一部の大手再保険会社しかやっておらず、大きなコストもかかります。でも、若手のアクチュアリーに当社をアピールする絶好の機会を得たことで、将来、再保険を必要とするときに当社に相談してもらえる可能性が増えるんです。長期的な視点に立った提案にも、会社がきちんと応えて動いてくれるのがうれしいですね。

―外資系企業で活躍する上で、求められるものとは?

大前提として一定程度の語学力は当然必要になると思います。でもそれ以上に、自分の意見をしっかり発信し、すぐに行動に移す実行力が求められます。黙って周りの様子をうかがうことや、反対意見をなるべく控えること等は日本ではときに美徳とされますが、欧米系の組織ではなかなか評価されません。マインドチェンジが必要になりますね。

―アクチュアリーとして仕事をする上で必要なものとは?

他の多くのアクチュアリーの方々が指摘していますが、やはりコミュニケーション力です。アクチュアリーしかわからない言語を使って説明しても、アクチュアリー以外の方にとっては理解できません。特に生命保険会社で働いていた時は人事、法務、マーケティング、営業、システム等の方々と一緒に仕事をする機会も多く、どう説明したら一番伝わりやすいのかという視点は常に意識してきました。
仕事は一人ではできません。アクチュアリー以外の方とも協業してはじめて大きな仕事ができます。アクチュアリーとしての専門知識はきちんと身につけつつも専門バカにならず、相手の立場に立ったコミュニケーションを通してビジネスのバランス感覚を身につけることが大切だと思います。

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