書評『Excelで学ぶ生命保険―商品設計の数学―』


今月の別のコラムで記載しました通り、勤務先のレイアウト変更に伴いキャビネットの整理をしたのですが、標記の書籍が出てきました。

アクチュアリー試験はもちろん、実務にも役立つExcelファイルも出版社のホームページ(https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274219467/#tab3)から、ダウンロードできるようですので、当該ファイルに関する『気づき』をご紹介いたしましょう。

なお、上記ホームページでも注意されていますが、あくまでも、書籍購入者用のサービスですので、必ず、上記の書籍を購入した上で、ダウンロードをお願いいたします。

以下、小見出しは、該当のExcelファイルのシート名を表します。

1.シート一覧
F列のHYPERLINK関数が便利です。以前、Wordファイルの目次設定と格闘したことがあるのですが(笑)、見たいページやシートに即座に移動できるのは、本当に助かります。

2.死亡率 (簡易生命表60歳まで)/死亡率 (標準生命表60歳まで)
自動車事故等による死亡のため、男性は20歳前後で死亡率のグラフに『山』が出来ることが女性のグラフに見られない特徴です。しかし、以前に比べると、『山』が滑らかになっている感じです。若者の車離れが原因かもしれません。

3.生存数 (簡易生命表)
右下がりの滑らかなグラフですが、数学科出身としては、変曲点(=上に凸から下に凸に変わる点)の年齢が気になります。(余談ですが、最近、『電凸』という単語を目にする機会が多いです。「突撃」ではなく「凸撃」という表示がなんとも、攻撃的ですね。広辞苑に掲載される日も、そう遠くはないでしょう。)

4.生存数と死亡数
D列によれば、平成27年簡易生命表では、上記の『山』が消えた模様です。D列は、表示上は小数第5位までですが、セル内は小数第6位まであります。
なお、厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life15/)で開示されている平成27年簡易生命表では、小数第5位までです。
また、G列等にある平均余命のセル内の関数が生保数理の試験対策に有効かもしれません。
一方、非常に細かい点ではありますが、E列の生存数は、生保標準生命表2018(死亡保険用)と異なり、年齢ごとに5桁の数値となっていません。有効数値の桁数を揃えるかどうかも、生命表の作成時の注意点かもしれません。(もっとも、営業保険料等への影響は軽微でしょう。)

5.生命関数
C列は表示上では年齢表示となっていますが、セル内は数値となっていますので、表内の計算では数値としてそのまま使用できる工夫がされています。また、表内のセルは、VLOOKUP関数の練習に有効です。

6.基数 (死亡)
H列やI列にある基数同士の関係式は、最終年齢が決まっていない場合に特に有効です。『生命保険数学 二見隆著(日本アクチュアリー会)』には、明示的に登場しない公式ですが、Excelファイルで基数を計算する場合には非常に便利です。

7.基数 (特定疾病)
30歳以上のデータとなっているのは、若年齢層のデータが少ないことに起因しているかもしれません。

8.基数 (医療)
G列等にある「半年後の生存数」は、『生命保険数学 二見隆著(日本アクチュアリー会)』182ページの一番下にある記号に対応します。(←生存系の基数にも、頭にバーが付くことがあることを知らないまま、アクチュアリー試験を受験される方も少なくないようです。)
J列およびZ列にある「予定手術発生率」が男女別で異なるため、少なくとも、男女の区別がない「社会医療診療行為別統計」からのデータではないものと推測されます。(書籍の282ページに入院発生率などの設定方法が記載されておりまして、手術発生率は患者調査から作成されている模様です。このような情報は実務にも活用できて、かつ、これまであまり開示されていませんので、大いに役立つ内容ですね。)
D146セルにある「※5」は、手術給付金を入院給付金日額の20倍とすることを表しています。

9.基数 (がん)
『がん』に特化した、入院および手術発生率は実務でも大変役に立つでしょう。書籍の282ページに設定方法が詳しく記載されていますので、是非、熟読して再現してみると良いでしょう。

10.基数 (死亡・解約率あり)
予定解約率が3%になっていますが、以下の資料の16ページと同じ水準となっていますので、ひょっとすると、業界標準なのかもしれません。
『日本における生命保険契約の解約返戻金について(2009年5月22日)』
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/dai2/siryou/20090522/03.pdf
G列およびH列にあるセル内の数式は、絶対脱退率を用いて脱退者数を求める場合の標準的な算式であり、『生命保険数学 二見隆著(日本アクチュアリー会)』では、二重脱退残存表(死亡解約脱退残存表)のモデルとして当該公式が紹介されています。

いかがでしたか。今回ご紹介しましたExcelファイルには、まだまだ解説したい部分が数多くあるのですが、紙面の都合で、残りの部分は改めて別のコラムでご紹介できればと思います。
個人的には、『確率論的シミュレーション』についても、同じように、Excelファイル付きの書籍が登場することを切に願っています。

(ペンネーム:活用算方)

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