DB導入のデメリットはあるのか


前回の記事(なぜDBを導入するのか)で、
DB(確定給付企業年金)のメリットを解説しました。

復習しておきますと、
DBを導入するメリットとして以下の6点を挙げました。

①キャッシュアウトを平準化できる
②掛金は全額損金算入できる
③運用収益を見込むことができる
④受給権が確保される
⑤一時金と年金を選択できる
⑥他の企業年金制度の資金を持ち込むことができる
(詳細は前回の記事をご覧ください。)

一方で、絶対にDBを導入した方が良いかと言えば、当然そんなことはありません。
メリットがあればデメリットも存在します

ということで、
今回は、DBのデメリットを解説していきたいと思います。

 

メリットは、企業目線のメリットと従業員目線のメリット両方ありましたが、
デメリットは、ほとんどが企業目線のデメリットです。

従業員目線では、DBを導入することで退職金全体の仕組みが複雑になり
従業員が理解しにくいという場合もあるかもしれませんが、
それ以外にDBを導入することに関するデメリットはほとんどありません。

企業目線のデメリットはいろいろありますが、主なデメリットとして以下の5点を挙げたいと思います。

①資金がロックされる
②給付減額や制度終了のハードルが非常に高い
③運営コストが発生する
④運用リスクが生じる
⑤特別法人税が課税される(現在は凍結中)

今回も1つずつ詳しく見ていきましょう。

デメリット①:資金がロックされる

DBの積立金は、原則としてDBの給付に充てることしかできません
つまり、当分の間ある程度まとまった資金を寝かせておくことになります。
(資産運用をすることは可能です。)
もし、本業で大きなチャンスが訪れ、大きな資金をつぎ込みたい場合でも、
DBに積み立てられた資金に手を出すことはできません。
何らかの理由により積立剰余になっている状況でも例外ではありません
従って、場合によっては、本業の機会損失につながってしまうこともあるでしょう。
これはDB導入の大きなデメリットです。

デメリット②:給付減額や制度終了のハードルが非常に高い

一度DBを導入してしまうと、給付額を減らしたり、DBを廃止することは非常に困難です。

給付減額は、減額が認められる場合が法令で定められているため、
会社の勝手な都合で減らすことはできません。
法令が減額を認めている場合でも、
給付減額するためには従業員3分の2以上の同意が必要な場合があるなど、
簡単に実施できることではありません。

また、制度終了も労働組合の同意が必要であったり、
積立金はその時点で従業員に分配されてしまったりなど、
多くのハードルがあります。

DBを導入する際は、今後も安定してDBを運営できるのかを慎重に判断した上で決定する必要があります。
最初から退職金の全部をDBに移行するのではなく、少し少なめに一部移行する方法も考えられます。

デメリット③:運営コストが発生する

DBを導入すると、各種の運営コストがかかります。
DBを運営していくにあたり、信託銀行や生命保険会社に業務委託することがほとんどですが、
これにより業務委託手数料等が一定程度発生します。
また、業務委託するにしても、企業側でも事務処理等を行うために運営体制を整える必要はあるため、
一定の事務負担も発生します。
企業側の事務もある程度の専門知識が必要となりますので、
DB事務を担当する従業員は、専業でなければ結構な負担がかかると想像できます。
従業員数が少ない中小企業では、少なくない負担となることも多くあります。

デメリット④:運用リスクが生じる

これは「メリット③:運用収益を見込むことができる」の裏返しです。

メリット③:運用収益を見込むことができる
DBに拠出した掛金は、ただ現金のまま積み立てておくわけではなく、
資産運用を行って運用収益を確保します。

運用収益がどの程度得られるのかは運用成績次第ですが、
運用収益を確保できた分だけ退職金制度よりもトータルで必要なお金は少なくなります。
(あくまで金額ベースですが。)

退職金制度では、一般的には資産運用は行いませんので、
運用収益分がDBのメリットとなります。

(「なぜDBを導入するのか」より引用)

資産運用ですので、リターンを望めばリスクが発生する、というごく当然のことです。
運用がうまくいかず想定よりも利回りが低いと、積立金が不足する恐れがあります。
積立不足になれば追加の掛金拠出が必要となり、
当初の想定よりもコストがかかってしまうことになります。
もちろん、運用方法次第で運用リスクは高くも低くもなりますので、
企業のリスク許容度に合わせて運用方法を選択する必要があります。

デメリット⑤:特別法人税が課税される(現在は凍結中)

忘れがちなのが特別法人税です。
現在は、凍結されているのであまり気にならないかもしれませんが、
凍結が解除されると無視できないデメリットとなります。

特別法人税とは、積立金に課税されます。
現在の税率は1.000%(地方税を含めると1.173%)であり、
毎年積立金の1.173%が税金として徴収されます。
これはつまり、運用利回りが実質マイナス1.173%されることに等しくなります。

特別法人税は、平成11年4月から凍結されているため、税率はそれ以前に設定されたものです。
現在の運用環境では、万が一凍結が解除されたとしても、さすがに税率は見直されると思いますが、
解除されてしまうと特別法人税の分だけ余分に運用収益を確保しなければならず、
デメリット④の運用リスクも高まることになります。
このような税金が発生する可能性を認識しておき、凍結が解除されないかどうか、
注視しておく必要があります。

執筆時点では、令和5年3月31日までの凍結が決まっています。
これまでも、凍結期限が迫るたびに2〜3年ずつ延長されてきているので、
これ以降も凍結が続くことが期待されますが、100%凍結が継続される保証はありません。

 

以上、主な5つのデメリットを解説しました。
メリットとデメリット、どちらが大きいと感じたでしょうか。

実際には、メリットを最大限に活かし、デメリットを最小限に抑えるように、
制度設計や運営を行っていくのですが、
これらに対する助言は年金アクチュアリーの役割の一つでもあります。

メリットもデメリットも正しく理解して、DBを導入・運営していくことがなによりも大切です。

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