数学は自然科学か?



アクチュアリー試験に登場する「生保数理」、「損保数理」および「年金数理」は、世の中に存在するデータ(例.人口分布、保険事故発生率、金利、為替レート、株価など)を用いて、様々な価値を計算することが多く、保険料や責任準備金の計算は、その代表的な事例の1つです。

このことから「生保数理」などは、社会的現象を科学的に分析する「社会科学」と言えるかもしれません。

一方、数学は「自然科学」と言われることがあります。

これは、自然界に存在する様々な現象を科学的に分析するツールとして、数学が活用されるためなのかもしれません。

しかし、実は、数学そのものが「自然科学」なのです。

そこで、今回のコラムでは、数学が「自然科学」であること、つまり、数学そのものが自然界に存在する様々な現象の一つであるということについて、あえて、アクチュアリーにとって馴染みの少ない「代数学(整数論)」からの解釈を与えてみましょう。

代数学では「多項式」と呼ばれるものを研究対象にすることが多いのですが、例えば、簡単な多項式「\(X^2\)+1」の\(X\)に1~30までの数字を入れて、素因数分解してみると下表のようになります。

\(X\) \(X^2\)+1 素因数
分解
1 2 2
2 5 5
3 10 2×5
4 17 17
5 26 2×13
6 37 37
7 50 2×5×5
8 65 5×13
9 82 2×41
10 101 101
\(X\) \(X^2\)+1 素因数
分解
11 122 2×61
12 145 5×29
13 170 2×5×17
14 197 197
15 226 2×113
16 257 257
17 290 2×5×29
18 325 5×5×13
19 362 2×181
20 401 401
\(X\) \(X^2\)+1 素因数
分解
21 442 2×13×17
22 485 5×97
23 530 2×5×53
24 577 577
25 626 2×313
26 677 257
27 730 2×5×73
28 785 5×157
29 842 2×421
30 901 17×53

ここで、素因数分解に登場する「素数」を眺めてみると、1000以下の素数168個のうち、下表の黄色部分の素数が、上の表に登場していることがお分かりいただけると思います。

2 79 191 311 439 577 709 857
3 83 193 313 443 587 719 859
5 89 197 317 449 593 727 863
7 97 199 331 457 599 733 877
11 101 211 337 461 601 739 881
13 103 223 347 463 607 743 883
17 107 227 349 467 613 751 887
19 109 229 353 479 617 757 907
23 113 233 359 487 619 761 911
29 127 239 367 491 631 769 919
31 131 241 373 499 641 773 929
37 137 251 379 503 643 787 937
41 139 257 383 509 647 797 941
43 149 263 389 521 653 809 947
47 151 269 397 523 659 811 953
53 157 271 401 541 661 821 967
59 163 277 409 547 673 823 971
61 167 281 419 557 677 827 977
67 173 283 421 563 683 829 983
71 179 293 431 569 691 839 991
73 181 307 433 571 701 853 997

実は、\(X\)に入れる値を30よりも大きくしてみると、下表の素数たちが、素因数分解に登場することが分かります。

2 577 709 857
193 313
5 89 197 317 449 593
97 457 733 877
101 337 461 601 881
13
17 349 613
109 229 353 617 757
113 233 761
29 769
241 373 641 773 929
37 137 937
41 257 509 797 941
149 389 521 653 809
269 397 953
53 157 401 541 661 821
277 409 673
61 281 557 677 977
173 421 829
293 569
73 181 433 701 853 997

逆に、3や7などの素数は登場しません。
実際、\(X\)に、1、2および3を入れてみて、いずれの結果も3の倍数にならないことから、3が登場しないことが証明されます。(\(X\)に4を入れて3の倍数になるかどうかは、4を3で割った余り1を\(X\)に代入することと同じだからです)

では、素因数分解で「登場する素数」と「登場しない素数」は、どのようにして判別されるのでしょうか?

中学生くらいで、二次方程式の「判別式」というのを習いますが、「判別式」の符号(0より大きい、0より小さい、0に等しい)で、方程式の実数解の個数が判別できるというものです。

実は、代数学、特に、整数論と呼ばれる世界では、この「判別式」に別の意味づけをすることが可能となります。

多項式「\(X^2\)+1」に「=0」を付けると、二次方程式「\(X^2\)+1=0」が得られますが、この方程式の「判別式」は、「-4」となります。そして、すこしズルいのですが、マイナスを無視すると、この方程式の判別式の絶対値は「4」となります。

すると、素因数分解で「登場する素数」のうち、4を割る素数2を例外と考えれば、それ以外の素数はすべて、「4で割ると1余る素数」となっていることが分かります。(5や13は「4で割ると1余る素数」ですね?)

逆に、「4で割ると3余る素数」は登場しません。(3や7は「4で割ると3余る素数」ですね?)

なお、2以外の素数はすべて「奇数」ですので、2より大きな素数は、必ず、「4で割ると1余る素数」か「4で割ると3余る素数」のいずれかに分類されます。

数字そのものは、人間が人工的に産み出した概念にもかかわらず、このような不思議な現象が起こり、しかも、小学生で習う約数が理解できれば、誰にでも分かる現象が起こるところが、まさに、数学の魅力かもしれません。

数学は自然科学です!

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