高い成果を上げるために必要なのは、計算ロジックの設計力と、体調管理能力


―アクチュアリーを知ったきっかけは何でしたか。

数学者を目指して大学、大学院で数学科を専攻しましたが、数学で食べていけるのはほんの一握りの人たちだと気づき、就職活動に切り替えました。監査法人のアクチュアリーチームから採用されたことで初めて、「そんな職種があるのか」と知りましたね。

―アクチュアリーの勉強はいつから始めましたか。

在学中に内定が決まってからです。監査法人で内定者アルバイトとして、責任準備金の算式チェックなど計算のサポート業務をしていたので、仕事と学業の合間に勉強していました。入社して働き始めると、デューデリジェンス(不動産投資やM&Aの際、企業の資産価値を評価する手続き)をはじめさまざまなプロジェクトが飛び込んでくるので、勉強時間の確保はとたんに難しくなりました。当時、監査法人でアクチュアリー正会員になった人はほかにおらず「物理的に勉強を続けるのは大変」と言われていましたが、確かに業務量は非常に多かった。なんとか平日夜に2時間、土日どちらかで10時間ほど時間を確保し、6年かけて正会員になりました。

―監査法人ではどのような業務を担当していましたか。

会計とリスク管理を専門に行ってきました。責任準備金の計算などでは、アクチュアリー試験で勉強する保険数理の知識が生きるので、勉強と実務は直結していましたね。
当時はアクチュアリーチームの人数も少なく、入った最初の月にデューデリジェンスの大きなプロジェクトに関わるなどとても刺激的な環境でした。買収される企業の会議室で、持ち出し禁止の資料を全部パソコンに手入力していったことも。投資する側は、何百億円ものお金が動くので目の色が違うんです。入社して数カ月の自分が、企業の経営陣の前で数字の進捗報告をしたりと、キャリアの早いうちからさまざまな現場経験をさせてもらいました。

―6年間、監査法人に在籍したのち、転職して現在の会社へ。きっかけは何でしたか。

監査法人にいると、生保・損保など元受会社では当たり前の実務の部分が見えづらいという点がありました。データ収集からどう計算ロジックを作り、社内でどのように報告していくのか、商品開発ではどういう商品が作られ料率がどうなるのか、といったことをほとんど知りませんでした。アクチュアリーとして、元受会社で実務をきちんと知りたいと思ったことが、転職のきっかけでした。
中でも損害保険は、アクチュアリーがかかわる比較的新しい分野なので、生保や年金ほど計算や実務が固まっているわけではありません。自由にやれる範囲が大きいかなと思い、現在の会社に決めました。

―転職してからの仕事内容とその面白さを教えてください。

入社した時点で正会員になっていたので、すぐに決算やリスク管理を任されました。転職してよかったと思うのは、腰を据えてじっくり計算に取り組めるところ。監査法人でコンサルティングをやっていると、案件ごとに計算ツールが変わるので、汎用的に使えるものが少ないんです。現在は、毎月、毎四半期に同じ計算が回ってくるので、作業時間と計算ミスを減らすために、エクセルをどうデザインし、どこを自動化するのか、計算様式をどんどんブラッシュアップしていけます。
入社5年目の今は、保険計理人業務をやりながら、ソルベンシーⅡ(ヨーロッパで導入を検討されているソルベンシー規制)の計算、ORSA(オルサ:リスクとソルベンシーの自己評価)業務を行っています。当社はフランスに本拠を置く保険会社で、ソルベンシーⅡは初算から本国への報告までをすべて日本で担当しています。このようにローカルで行うのは珍しく、また計算量が常に膨大。数学的な概念をビジネスに活かしていけることがとても面白く、勉強になりますが、消化していくのは大変ですね(苦笑)。

―アクチュアリーに必要な力とは何だと思いますか。

計算をデザインする力です。複雑な計算ができればいいのではなく、計算のロジックやプロセスを設計する力が大切だと思います。インプットデータはどういう様式で何の項目があるのか、どんな計算ロジックを作って何を自動化するのか、アウトプットデータにはどんな様式のものが必要なのか、その全体像をすべて把握し、設計した上でエクセルデータを作れれば、作業時間は大幅に短縮されますし、ミスも減ります。実際に私は、計算のデザイン設計にかなり長い時間をかけて、紙を前に「うーん」と考えています。アイデアを出すためにオフィスをふらふら歩き回っているので、周りには「仕事をしていないんじゃないか」と思われていそうです(笑)。
そして、仕事をする上でとても大切だと思っているのが、体を健康に保つことです。アクチュアリーはイスに座っている時間が長いので肩こりもひどいし、血行も悪い。適度な運動をしなければ、頭をフレッシュな状態に保つことはできません。実際に、1時間座っていると22分寿命が縮むという研究データもあるくらいですから、日々の体調管理は仕事にかなり大きな影響を与えていると思います。
私は、毎日のストレッチを欠かさず、2日に1回は水泳をします。2カ月に1回はハイキングに出かけ、キレイな空気の中で体を動かす時間を大切にしています。体も頭もスッキリすると、仕事は驚くほどはかどります。これは、体を動かさず頭を使う仕事をするすべての人に共通する、“長期間、仕事の成果を出し続ける”ために必要なことだと思っています。

**プロフィール**

中島宗一郎さん

カーディフ損害保険会社 保険計理人。
東京大学大学院数理科修了。BIG4監査法人のアクチュアリーチームに6年間在籍したのち、現職へ。

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