原価率、レシピ、保険会社の開示


古い情報で恐縮ですが、2024年2月7日(水)の日本テレビ系列の情報番組で紹介された、“鮨大将かきだ(以下、「かきだ」という。)”は、日本古来の伝統的な“寿司業界のオキテ”を破る様々な取り組みをされております。

そこで、今回のコラムでは、当該すし店の取り組みを保険会社に当てはめた場合、どのような効果や課題があるのかを、独断と偏見で考察してみます。

1.原価率

後述の通り、生命保険会社では唯一、ライフネット生命が付加保険料割合を開示されていますが、「かきだ」でも、売り上げ額や原価をオープンにされています。
店主にその理由を尋ねてみると、
1)口コミなどで食材(原材料)に関して色々言われるので、いっそのこと、原価率をオープンにしたほうが店主としても「気持ちがいい」。ちなみに、原価率は、2月から6月までで平均して53〜54%。お客さんのコスパはかなりいい。
2)通常の飲食店の原価は約3割と言われているので、原価率5割超えは通常あり得
ない。半分が原価であれば、お客さんも「しょうがない」と思うだろう。
3)また、儲けに走らないよう自制するためでもある。正直、原価率を30%くらいに抑えればボロ儲けだが、自分のポリシーから外れる。オゴラナイために精進するためにオープンにしただけ。
ここまで“正直に”経営できる飲食店は、果たして、今の日本にどれくらい存在するのか、非常に興味があるところですね。

なお、仮に、生命保険契約で“原価率=付加保険料率=50%”と言われた場合、荻原博子先生を始めとする著名FPの方々からは強い反発(=保険料の引き下げ)を余儀なくされるようにも感じます。(←荻原博子先生の名著『保険会社では絶対に教えてくれない生命保険の原価(ダイヤモンド社 (2000/6/1)』は筆者のバイブルです!!)
https://one-news.jp/article/1142401

2.レシピ(しゃり)

飲食店にとって『レシピ』は門外不出であり、商売の根幹を成す大変重要な機密事項であることは論を待たないと思いますが、「かきだ」では、まさに寿司屋の命とでも言うべき『しゃりのレシピ】を惜しげもなく公開されています!

具体的には、“硬めに炊いた白米1合に対して、山吹20g/美濃12g/塩5g/三温糖12gをよく混ぜて、お米が熱々の内に切りながら混ぜるのがコツ”という感じで、X(旧Twitter)で公開されています。“手巻き寿司パーティーの人気者になってください!”という店主の“粋な計らいのお言葉”がとても心に染みわたりますね。

ちなみに、生命保険会社の“レシピ”とは、例えば、新商品(特に、業界初!)に対する以下の情報を指すように思いますので、流石に、これらの情報をライバル会社にオープンにすることは、考えられないですね。
1)基礎データの入手元、加工方法
2)安全割増の設定方法
3)基礎書類の作成方法
4)主務官庁への認可折衝資料(例.理論武装の方法など)

3.修行0日

すし職人の世界では、通常、「飯炊き3年、握り8年」といわれており、最低でも10年の修業が必要とされるようです。
しかし、「かきだ」の店主は下積み修業歴が0日で、いきなり「大将」からスタートして140席の繁盛店を経営される優れたビジネス感覚の持ち主と言えるでしょう。
実は、店主の前職は「転職会社の社長」を務められており、職場でふるまった「手巻き寿司」が大好評であったことが寿司業界入りのきっかけのようです。

特に、一般的な飲食店と異なり、カウンター越しにお客さんの顔をみながら接客する能力も要求されるため、恐らくこの「転職会社の社長」時代の経験が活かされているように感じます。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC067DY0W3A101C2000000/

4.海外進出

最近、円安の影響もあり、海外で働く日本人のニュースが多いように感じます。
特に、東南アジア方面でも和食文化が流行っているようでして、例えば、“シンガポールで需要高まる。アルバイト30万円、経験あり50万円、店長経験あり100万円。”という見出しが躍っているのも実情です。

また、外国語は不問であり、嬉しいことに、“日本人の寿司職人がいるだけで店の価値が上がる!”とまで言われているようですので、まさに、和の食文化を海外に輸出するというビジネスモデルの稀有な成功例の1つと言えるかもしれません。

ちなみに、インフルエンサーとして名高い「ひろゆき氏」も、X(旧Twitter)で、
“修業ゼロの寿司職人・かきださん。立ち居振る舞いの清潔感や営業上手そうな話し方とか、寿司を握る以外の人間力の総合点が高すぎる。高級なネタの値段を言ってしまう客対応も含めて、そりゃ繁盛するよな、、と。かきださんがやるならフランス料理店でも成功してそう。”とコメントされ、フランス在住者として、和食ブームを体感されている模様です。
https://getnews.jp/archives/3414405

5.保険会社における情報開示への教訓

上述の通り、最近の「情報開示」という点では、やはり、ライフネット生命およびマニュライフ生命の動向が大いに注目されるところですね。
具体的には、まず、ライフネット生命では付加保険料割合が開示されており、例えば、定期死亡保険、終身医療保険の付加保険料は、次の3つの合計額となっています。
1)契約1件あたり250円(月あたり)
2)(営業)保険料(月額 250 円の定額部分控除後)の15%
3)予定支払保険金・給付金の3%

特に、3点目の“予定支払保険金・給付金”に比例した付加保険料の徴収方法については、米英などにおける同保険料設定に通じる面もあり、設立当時の出口治明氏の欧米視察ご経験などが大いに活かされている一例と言えるかもしれませんね。

なお、1点目の“件数比例の付加保険料”は、いわゆる“保険料の逆転現象”を防ぐことと“ナメラカナ高額割引を導入”する観点から、最近、業界で普及しつつある付加保険料体系と伺った記憶もあります。
いずれにせよ、後発会社として、このような海外事例を取り入れながら、新たな保険ビジネスの在り方を市場に積極的に問う指定は、アクチュアリーとしても大いに見習うべき行動の1つと言えるでしょう。
https://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/2008-1304.pdf

次に、マニュライフ生命では、健康診断書扱いの引受基準が開示されており、生命保険加入を検討されている方々にとっては非常に有益な情報と言えるでしょう。
https://www.manulife.co.jp/content/dam/insurance/jp/documents/press/2015/news_20151027.pdf
ちなみに、大昔の「保険検査マニュアル」では、自社の引受基準を保険募集人が把握しているか?という趣旨の記述があったようにも記憶しておりますが、某大手社のコンプライアンス部門の方曰く、“自社の引受基準を保険募集人に開示すると、かえって、不適正行為(例.告知妨害など)が蔓延する可能性が懸念されるため、敢えて開示していない。”とのコメントが印象的です。

なお、付加保険料の開示については、非常に印象的な出来事に遭遇した記憶があります。具体的には、元NHKアナウンサーの岩城みずほ氏が主宰されている「FIWAサムライズ勉強会」において、金融庁、生命保険会社、経済評論家、日経新聞編集委員など、錚々たるメンバーが“変額年金保険 vs 定期保険 +投資信託”や“手数料開示(付加保険料開示)”について白熱した議論が交わされました。

幸い、岩城氏のホームページで当時の模様がアップされておりますので、是非ご覧ください。

ステージ上、山崎元氏(左から2人目)のお元気な姿がとても印象的です。合掌。

いかがでしたか。いよいよ新年度がスタートしましたが、マイナス金利解除や株高など一部の資産運用では景気の良い話題が蔓延している雰囲気はありますが、一方で“格差社会”がますます進んでいるようにも思います。情報開示を含めて、引き続き、より一層の環境改善を推し進めることが、まさに“企業の社会的責任(CSR)”ですね。

 

(ペンネーム:活用算方)

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