「令和7年(2025年)年金制度改正 徹底解説 ― アクチュアリー受験者のための論点整理」第3回 【公的年金②】社会保険の加入対象の拡大(2) ― 企業規模要件の撤廃・個人事業所への拡大・支援措置


第3回 【公的年金②】社会保険の加入対象の拡大(2) ― 企業規模要件の撤廃・個人事業所への拡大・支援措置

令和7年改正法による「社会保険の加入対象の拡大」のうち、第2回では賃金要件の撤廃を取り上げました。本稿では、もう一つの大きな柱である「企業規模要件の段階的な撤廃」と、「個人事業所への適用拡大」、そして新たに対象となる企業への「支援措置」を、現行制度と対比して整理します。これらにより、最終的には企業の規模を問わず、要件を満たす短時間労働者が被用者保険の対象となります。

現行制度 ― 適用事業所と企業規模要件

そもそも厚生年金保険・健康保険が適用される「適用事業所」は、法人の事業所であれば規模や業種を問わず、すべて該当します。一方、個人の事業所は、常時5人以上を使用し、かつ法律で定める17業種に該当する場合に強制的に適用されます。農業や、飲食・宿泊・理美容などのサービス業といった業種はこの17業種に含まれず、現行では適用対象外(任意適用)とされています。

そのうえで短時間労働者については、勤務先が「被保険者の総数が常時51人以上の特定適用事業所」であることという企業規模要件が課されています(2024年10月以降)。この規模要件があるために、同じ「週20時間以上」という働き方をしていても、勤め先の規模によって被用者保険に加入できるかどうかが分かれ、将来の年金額にも差が生じる、という課題が指摘されてきました。

なお、短時間労働者でない通常の労働者は、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所の通常の労働者のそれぞれ4分の3以上であれば、企業規模にかかわらず被保険者となります(いわゆる4分の3基準)。今回の見直しの対象は、この4分の3基準を満たさない短時間労働者であり、これまで企業規模要件によって加入の可否が左右されてきた層です。

企業規模要件が設けられてきた背景

短時間労働者への適用拡大は、事業主の保険料負担や事務体制への影響が大きいことから、まず規模の大きい企業から段階的に導入されてきました。企業規模要件(特定適用事業所の基準)も、2016年10月の「500人超」を起点に、2022年10月に「100人超」、2024年10月に「50人超(51人以上)」と引き下げられてきています。今回の改正は、こうして縮小してきた規模要件を、いよいよ撤廃する段階に踏み込むものといえます。

改正後① ― 企業規模要件の段階的な撤廃

改正後は、この企業規模要件が段階的に引き下げられ、最終的に撤廃されます。新たに特定適用事業所となる被保険者数の基準は、現行の「51人以上」から、2027年10月に「36人以上」、2029年10月に「21人以上」、2032年10月に「11人以上」へと順次引き下げられ、2035年10月には規模要件そのものが撤廃されます。これにより、被保険者数が10人以下の事業所も含め、企業規模を問わず、要件を満たす短時間労働者が被用者保険の対象となります。

企業規模要件の段階的な撤廃(特定適用事業所の範囲)。厚生労働省「年金制度の改正(令和7年改正法)に関する説明資料」をもとに作成。

改正後② ― 個人事業所への適用拡大

個人事業所についても見直しが行われます。2029年10月から、現行では適用対象外とされてきた業種の要件が撤廃され、常時5人以上を使用する個人事業所は、原則としてすべての業種で適用事業所となります。これにより、これまで任意適用だった飲食・宿泊・サービス業などの個人事業所も、強制適用の対象に含まれることになります。

ただし、2029年9月までに存在している適用対象外の事業所については、当分の間、引き続き適用対象外とする経過措置が設けられます。また、建設業や士業など、もともと17業種に含まれていた業種は当初から適用対象であるため、今回の業種要件の撤廃による影響は原則ありません。

もともと個人事業所で業種による線引きがあったのは、制度創設時の事務処理体制などの事情によるものですが、法人で働く人と個人事業所で働く人とで保障に差が生じる一因にもなっていました。今回の業種要件の撤廃は、この差を解消し、雇われて働く人をできるだけ被用者保険の対象に含めていく方向性に沿った見直しです。

項目現行改正後
短時間労働者の企業規模要件被保険者51人以上の特定適用事業所段階的に引下げ、2035年10月に撤廃
個人事業所(常時5人以上)法律で定める17業種のみ適用2029年10月から原則すべての業種に適用

なぜ段階的に実施するのか

企業規模要件を一度に撤廃せず、約10年かけて段階的に進めるのは、新たに対象となる中小企業や個人事業所に、保険料負担や事務手続きへの準備期間を確保するためです。あわせて、勤め先の規模によって加入できる人とできない人が分かれている状態(規模による不公平)を、計画的に解消していく狙いがあります。

新たな適用対象への支援措置

新たに適用対象となる企業の負担に配慮し、時限的な支援措置も設けられます。具体的には、事業主が労使折半を超えて短時間労働者の保険料を多めに負担した場合に、その上乗せ分を国などが支援する仕組みで、2026年10月から開始される予定です。これにより、加入によって本人の手取りが減ることへの懸念を和らげつつ、円滑に適用拡大を進めることが目指されています。なお、支援措置の詳細な要件や手続きは、今後の政令等で定められる予定です。

適用拡大が目指すもの

企業規模要件の撤廃と個人事業所への拡大により、雇われて働く人は、勤め先の規模や業種にかかわらず、要件を満たせば被用者保険の対象となります。これは、被用者にふさわしい手厚い保障(報酬比例の年金や各種給付)を広く行き渡らせるとともに、結果として、保険料を負担せずに基礎年金を受けられる第3号被保険者を段階的に縮小し、働き方に対して中立的な制度に近づけていく流れの一環でもあります。

出典・参照元

  • 「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(令和7年法律第74号)
  • 厚生労働省「年金制度の改正(令和7年改正法)に関する説明資料」
    https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001653903.pdf
  • 厚生労働省 社会保障審議会年金部会資料「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方について」(企業規模要件・個人事業所の取扱い)

※本記事中の図表は、上記の厚生労働省資料をもとに作成しています(出典:厚生労働省ホームページ)。

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