浅谷 輝雄 氏の思い出


先日、東京メトロの“トレイン・チャネル”で任天堂のCMを見かけましたが、女優の新垣結衣さんを起用した、『リングフィット アドベンチャー』というゲームソフトの紹介でした。ゲーム感覚でエクササイズができるため、保険会社から見れば、健康増進型保険を普及させる課題である“継続性”、つまり、日々の健康増進活動(例.毎日8,000歩以上歩くなど)をいかにして継続させるか?という問いに答える“ゲーミフィケーション”の1つと言えるかもしれません。

そして、上記CMの最後に登場する“10月18日”という発売日を目にしたとき、大昔に大変お世話になったアクチュアリーの大先輩である、故・浅谷輝雄氏の命日がその日であったことを思い出しました。(命日は以下のブログでも紹介されています。)
http://iwk.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-2ec4.html
http://www.hidetaka-kawakita.com/blog/2012/10/post-1083.html

特に、若いアクチュアリーの方々は、浅谷氏のことをご存知ない方も多いと思われますので、この機会にご紹介いたしましょう。(文中の事実は、筆者の記憶に基づいております。誤り等があれば筆者の責任であることを念のため添えておきます。)

1.保険課長時代と昭和50年答申
保井俊之氏の博士論文『保険規制監督行政の転換とシステムズ・アプローチ』
http://lab.sdm.keio.ac.jp/idc/yasui/papers/j6_2011doctor%20thesis_yasui.pdf
によれば、浅谷氏は昭和48年に保険第1課長に就任され、保険課には13年もの長きにわたって勤務された模様です。2年毎に異動を繰り返すことの多かった大蔵省の『キャリア事務官』としては異色の経歴の持ち主であったようです。

また、保険課長として保険業界のために尽力され、その集大成とも言うべき『昭和50年答申』が、浅谷氏の成果である旨を、筆者が新入職員時代にアクチュアリーの先輩から教わりました。昭和43年7月11日の蔵銀第1002号通達『責任準備金の充実について』に代表されるように、高度経済成長期を迎えた当時、チルメル式責任準備金から平準純保険料式責任準備金に速やかに移行し、保険会社の健全性を高める方策を長年にわたって検討された主務官庁のお考えに、改めて敬服いたします。

アクチュアリーが保険課長を務める時代は、もう現れないかもしれませんので、日本の保険業界の歴史においても、浅谷氏が稀有な存在であったことが後世に語り継がれていくことでしょう。

2.基本問題研究会
筆者が初めて浅谷氏にお目にかかったのは、日本アクチュアリー会での『生保計理に関する基本問題研究会』でしたが、当時、(三井生命のアクチュアリーである)田中淳三氏と業界の若手アクチュアリー・メンバーを交えながら、業界の行く末を案じておられた御姿がとても印象的でした。
特に、信託銀行と熾烈な競争をしている『団体年金』について、2年目の配当を3年目よりも高くするアイデアについて、『危険差益であれば選択効果のため、そのような配当は許容されるだろうが、利差益はなあ・・・』といった、貴重な昔話を披露されつつ、未来ある若い人々たちへの応援メッセージともとれるようなコメントをされていたのを良く覚えています。
残念ながら、同研究会は閉鎖されている模様ですが、会報別冊として刊行された『解約返戻金について』と『責任準備金について』は、アクチュアリー試験の補助教材としても、今なお、その存在は色褪せてはいません。

3.叙勲
浅谷氏は保険課長を退任された後、検査部長等を歴任され、最後は印刷局長に就任されて退職された模様です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E5%8D%B0%E5%88%B7%E5%B1%80
局長にまで登り詰めたことから、アクチュアリーとしてだけではなく、『キャリア事務官』としても極めて優秀な人物であったことを伺いしることができますね。この局長時代の功績により叙勲の対象となったようでして、実際、綱町三井倶楽部というところで開催された祝賀会で、本物の『勲章』を拝見させて頂きました。
その色や形など、国家レベルでの最高の品格と品質を兼ね備えた荘厳さは、今なお鮮明に目に焼き付いています。オリンピックのメダルも、そのような感じがするのかもしれませんが、残念ながら、オリンピックのメダルの実物は見たことがありません。
また、会場となった『綱町三井倶楽部』の優雅さにも感動しました。三井財閥の英知を結集した豪華な造りや広大な芝生などは、『勲章』とともに、今もなお心に深く刻まれたよき思い出です。

4.ブログ
上述の保井氏の論文にも登場しますが、浅谷氏はご自身のホームページ
http://www005.upp.so-net.ne.jp/asatani/
をお持ちでして、今で言う『ブログ』のようなものを週一回のペースで更新されておりました。今も内容を閲覧できますので、特に、若い方々に是非ご覧いただきたいです。

5.1800円のオムライス
上述の『研究会』で筆者が正会員に到達できたことを浅谷氏に報告した際、お祝いにランチを企画していただけました。

当時、浅谷氏がニッセイ基礎研究所にいらっしゃっておりましたので、銀座周辺のお店でご一緒させていただいたのですが、独身寮やファミレスなどでの食事が続く日々を送っており、そのような高級感あふれるお店とは全く縁がない生活をしていましたので、入店時にとても緊張した記憶があります。(もちろん、浅谷氏と二人きりの空間にも、とても緊張しましたが。)

値段もさることながら、その味も高級すぎたのか、正直あまり記憶にありません。ただただ、値段の高さだけが記憶に残っています。その後、当方の部下が、アクチュアリー試験に受かったとき、浅谷氏の真似をして、このオムライスをご馳走しようとしたのですが、(その方が女性であったこともあり)『ダイエット中なので』と丁寧にお断りされてしまいました。(今、振り替えると、私に余計な出費をさせたくなかったのかもしれませんが、厳しく家計簿をチェックする姿を見るたびに当時の記憶が蘇ります(笑))

いかがでしたか。浅谷氏には、もっともっと色々なことを、高所大所からお伺いしたかったのですが、残念ながら天寿を全うされてしまいました。インターネットによる保険販売や健康増進型保険、また、経済価値ベースの保険負債評価など、保険業界の革新的な話題に触れる都度、『心の中の』浅谷氏なら、どういう意見を述べられるのだろうか?と自問自答する日々が少なくありません。

ペンネーム:活用算方

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