アクチュアリー二次試験テキスト改訂


2021年2月12日付で、日本アクチュアリー会のテキスト部会から、第2次試験(専門科目)のうち、『保険1(生命保険)』および『保険2(生命保険)』のテキスト改訂が発表されました。http://www.actuaries.jp/info/T20210212.html

そこで今回のコラムでは、市販されている書籍を含めて、テキスト改訂に併せて是非、知っておきたい情報源を幾つかご紹介いたしましょう。

1.直近の改定状況と出題状況

生命保険に限定すれば、『保険1(生命保険)』のテキストのうち、『第4章 生命保険の商品開発』が平成30年2月に新設されましたが、第Ⅰ部(知識問題)での出題がメインであり、第Ⅱ部(論述問題)において、商品開発に関する出題(例.商品開発プロセスなど)が出題されてはいないように見られます。
次回の試験まで既に1年をきっていることを勘案すれば、今回改訂されるテキストからの出題は、やはり、第Ⅰ部(知識問題)での出題がメインになるものと思われます。

2.生保1:医療保険

改訂前のテキスト『第7章 医療保険』7-27ページに、標準正規分布のグラフが掲載されているのですが、実は、第三分野保険のストレステストが規定されている『大蔵省告示第231号』には、具体的な確率分布の規定は明記されていません。
このため、例えば、同告示別表において、“危険発生率Aは、一定の確率を99%として設定”と規定されているのですが、具体的に、標準偏差の2.33倍として信頼区間を設定することは、標準正規分布を仮定する必要があります。

保険会社の決算部門に在籍している方であれば、社内規定(規程)などで、“μ+2.33σ”というような数式を目にされる機会も多いと思いますが、是非、当該規定の作成者に、“何故、標準正規分布を仮定できるのか?”、“(例えば)過去10年間のデータであれば、(正規分布ではなく)t分布ではないのか?”というような質問攻めを、“やんわりと”仕掛けてみるのも良いかもしれません。

いずれにせよ、当該テキストが、標準正規分布を仮定することの貴重な根拠資料であることは間違いなさそうですので、改訂後も当該グラフを残して欲しいと思います。
ちなみに、試験対策としては、やはり、同ストレステストを導入する際の“パブコメ”
https://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/hoken/20060331-5/01.pdf
 は外せませんし、例えば、“データが少ない場合にどうする?”といったQ&Aは実務にも役立つことでしょう。

3.生保2:生命保険会計

「経済価値ベースの責任準備金評価」が追加されるようですので、最低でも、以下の資料には目を通しておきたいところです。

1)「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」報告書
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200626.html

2)KPMG/あずさ監査法人の解説記事:「経済価値ベースのソルベンシー規制(導入に向けた検討事項)」保険毎日新聞
https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2020/10/insurance-news-20201016.html

3)ニッセイ基礎研究所 中村亮一氏「ソルベンシー規制の国際動向 保険会社の資本規制を中心に」保険毎日新聞社
https://xn--ruqx54cset6urxsx7j532b.jp/mokuroku/13-050.htm

4.生保2:リスク管理

『第4章 リスク管理』が新設されます。ERMおよびALMといった内容ですので、最低でも、以下の資料には目を通しておきたいところです。

1)「損保」テキスト:リスク管理
平成30年度に「損保」テキストが改訂され、『第10章 リスク管理』では、ERM、ソルベンシー規制に関する記載が充実されました。また、余力があれば、『付録A リスクモデル』および『付録C 確率論的アプローチによる保険負債の時価評価』当たりのテキストも読まれると良いでしょう。
http://www.actuaries.jp/info/T20180209-2.html

2)キャピタスコンサルティング 森本祐司氏、松平直之氏、植村信保氏「経済価値ベースの保険ERMの本質」金融財政事情研究会

3)キャピタスコンサルティング 森本祐司氏、祖父江正氏、松平直之氏「“全体最適”の保険ALM」金融財政事情研究会

5.来年度(2021年度)の試験対策

これまでのテキスト改訂とその後の出題傾向を勘案すれば、改定後の数年間は、第Ⅰ部(知識問題)での『穴埋め問題』や『語句説明問題』が多く、逆に、『第Ⅱ部(論述問題)(いわゆる所見問題)』での出題は数年後になるという感じにみえます。

受験生の試験対策としては、まず、テキスト(特に改訂された部分)の理解に注力されるのが良いかもしれません。

いかがでしたか。このコラムを執筆中に、ふと、“「改定」と「改訂」の違いって何だろう?”という疑問が沸いてきましたので、早速、ネット検索してみると、以下のサイトに辿り着きました。流石、ネットの力ですね!https://www.goodcross.com/words/22534-2020

(ペンネーム:活用算方)

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