監査法人に入ったことで、ビジネスの成り立ち、企業の全体像を俯瞰できるようになった


―皆さんがアクチュアリーになろうと思ったきっかけとは。

髙橋:
在学中にアクチュアリーの短期集中講座があり、自分がやってきた数学の勉強を生かせる仕事だと興味を持ちました。当時、教職資格も持っていたのですが、学校の先生になるよりも民間企業に勤めたいと思っていたんです。生命保険会社のOB訪問を重ね、卒業後は大手保険会社に入社しました。

浅海:
私は大学3年時に生命保険会社に勤務していたクラブの先輩に話を聞き、アクチュアリーの存在を知りました。数学しかできない自分の強みを、この職種なら生かせるかもしれない、最適な仕事だと思いましたね。当時、三大疾病保険商品が注目されており、そのテレビCMを見て「自分もこんな商品を作る側になりたい」と思っていたのを覚えています。

島本:
私は大学院に進学するまで、就職のことはほとんど考えていませんでした。好きな数学を追究したい一心で、九州大学理学部数学科から大学院に進んだのですが、統計を専攻する中でアカデミックな探求心よりも実務で活かしたいと思うようになり金融系を中心に就職活動を始めました。学生時代からアクチュアリーのことは知っていましたが、非常に難しい試験で社会人になっても勉強からは逃れられないということも知っていましたのでノンアクチュアリーの道もちょっと探っていました(笑)。大学院修了後に損害保険会社に入ったのは、社員訪問で会う方の多くが損保勤務で、複雑かつ多岐に渡るリスクを扱う損害保険商品に面白みを感じたからでした。

―これまでの経歴と、現在の仕事内容を教えてください。

髙橋:
私はアクチュアリー採用としては少し変わった経歴かもしれません。(生命保険会社に)入社して配属されたのは資産運用部門でした。その後、経理部門に異動し帳簿や開示資料の作成などを担当。社会人になって6年目でようやくアクチュアリー業務となる計理部門に配属され、5年間実務経験を積みました。
あずさ監査法人に入ったのは2003年です。私はアクチュアリーとしての専門的なスキルをより幅広く活かせる場を求めていました。当法人では監査業務を担っておりますが、クライアントの財務諸表についての自分の意見が、そのままあずさ監査法人の意見として尊重され、個人が負う責任は非常に重い。クライアントに関する正確な理解と豊富な知識が求められ、プロフェショナルとして信頼され、任されているなと感じます。

浅海:
私は大学卒業後、アドバイスをいただいた先輩の勤務していた大手生命保険会社で11年間勤務したのち、外資系人事コンサルティング会社に転職。その後、2006年にあずさ監査法人に入りました。
社会人1年目で企業年金の年金数理部門に配属されて以来、一貫して企業年金数理を担当。保険商品を作りたい、と思っていたはずなのですが、長くやっているうちに企業年金業務の魅力もだんだんわかってきて、気づけばこの分野のスペシャリストになっていました(笑)。
入社当初は厚生年金基金や適格退職年金などの数理計算業務をしていましたが、2000年から退職給付会計が導入されたことで、制度移行のためのコンサルティング業務が発生するように。それまで“計算屋”だった仕事内容が、お客様先で、現状の課題整理や分析など新制度導入に向けたコンサルティングを担うことになったのです。それがとても面白く、もっとお客様と直接コミュニケーションをとる仕事をしていきたいと思うようになりました。そんな理由から外資系コンサルティング会社への転職。さらにもっと仕事の全体像が見える仕事をしていきたいとあずさ監査法人に入りました。
あずさ監査法人では、さまざまな会社の監査の仕事をさせていただくので、企業のビジネスモデルの全体像が見えてきます。それまでは局所的なところしか見えてこなかった仕事やビジネスの動きを、経営に近い視点で俯瞰して見ることができる。それが非常に面白いですね。

島本:
私は卒業後、損害保険会社に入社し、リスク管理部の保険数理グループに配属されました。とはいっても、当時社内に少なかったアクチュアリーを増やすべく新設された部署で、私は初期メンバー。2年目になると新人が入ってくるので、はやくも“教育担当”のようなポジションで働いていました。保険計理人のもと、計理部が作成した決算資料を確認したり、商品の改定があれば商品部の作成した根拠資料をチェックしたり。4年目には商品開発をやりたいという希望がかない、商品部に異動になりました。
商品部では商品改定に関する資料作成やシステムの仕様作成などを担当していました。その仕事をしながら、アクチュアリーとしての活躍の場を探す道ももちろんありましたが、思い切って環境を変えてみた方が、アクチュアリーとしての専門性を高めることができるかもしれない、とも考えるように。そうして、社会人5年目であずさ監査法人への転職を決めました。
監査法人では、それぞれ会社がどんなビジネスをしているのか全体が見えてきます。私は損保会社のお客様が多いのですが、ほかにも生保や共済、独立行政法人などいろいろな業態を担当させていただき、視野はとても広がりましたね。

―アクチュアリーにはどんな力が求められると思いますか。

髙橋:
視野の広さ、分析力でしょうか。アクチュアリーの仕事において、正しく計算するのは絶対条件ですが、どうしてそういう計算になるのか、この数字が何を表しているのか、その背景まで考えられるセンスこそ重要だと思います。
そして、アクチュアリーのミッションは、ノンアクチュアリーが正しく理解できるよう、計算結果とその背景を分かりやすく伝えることにあります。専門用語が分かる者同士でコミュニケーションを重ねていてもはじまらない。相手の理解度を的確に読み取り、コミュニケーションをとっていく力が大切だと思います。

浅海:
現在所属している金融アドバイザリー部では、監査だけではなく、企業へのアドバイザリー業務の提供も行います。
私が思う理想的なアドバイザリーとは、クライアントと共に解決策を作っていくことです。優秀なコンサルタントは素晴らしい解決策を提示してくれる、と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にそれを実行するのはクライアントですので、クライアント自身がその解決策に対して「腑に落ちた」状態でなければなりません。そういった意味でいきなり解決策を提示するのではなく、「ああだ、こうだ」とやりながらクライアントと共に解決策を探すことによって「腑に落ちた」状態になると思うのです。
で、こういった「ああだ、こうだ」というやり取りをするには、クライアントがコンサルタントのことを信用していなければ、正直ベースで議論はできません。
このようにコンサルトが信用されるためには、究極的には非常に月並みな言葉になりますが、やはり日頃の「コミュニケーション」だと思っています。

島本:
髙橋、浅海に付け加えるならば英語力。これはぜひ身につけるべきですね。英語が得意なアクチュアリーは非常に少ないので市場価値はかなり上がりますし、現在、多いときで1日の半分は英語を使った仕事をしていることもあり、社内外のメンバーと英語を使ってコミュニケーションをとる必要もあるので切実です。また、アクチュアリーの技術は欧米の方が進歩しており、英語で書かれた資料は膨大にあります。手に入れられる情報量にも差が出てきますので、その蓄積がアクチュアリーとしてのキャリアに影響を与えると思います。
私は、社会人3年目でアクチュアリー正会員になれたのですが、早く試験に合格することで、英語をはじめ他の勉強にあてる時間も増えたのはよかったですね。3年間はひたすら勉強に明け暮れて大変ですし、仕事の忙しさやライフイベントなど人それぞれ事情はありますが、社外のアクチュアリーと出会う機会が増えるなど、早く正会員になることで広がる世界もあると思っています。

**プロフィール

写真左から

浅海 路史(みちふみ)さん
有限責任あずさ監査法人 金融事業部 金融アドバイザリー部ディレクター。京都大学工学部数理工学科卒業。大手生命保険会社、外資系コンサルティング会社を経て、現職へ。年金数理人/日本アクチュアリー会正会員。

髙橋 隆司さん
有限責任あずさ監査法人 金融事業部 金融アドバイザリー部パートナー。東北大学理学部数学科卒業。大手生命保険会社を経て、現職へ。日本アクチュアリー会正会員/年金数理人/日本証券アナリスト協会検定会員。

島本 大輔さん
有限責任あずさ監査法人 金融事業部 金融アドバイザリー部マネジャー。九州大学院数理学府修了。大手損害保険会社を経て、現職へ。日本アクチュアリー会正会員/日本証券アナリスト協会検定会員。

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