2021年アクチュアリー試験の直前対策(生保1編)


今年もアクチュアリー試験が近付いてきましたが、受験生の皆さまにおかれましては、ラストスパートの時期に突入されていることと存じます。

そこで、今回のコラムでは、昨年10月のコラム(https://www.vrp-p.jp/acpedia/2369/)と同様、アクチュアリー試験の第2次試験(生保1)について、重要性が高いと思われる論点を幾つかご紹介いたします。

1.MVA

令和3年8月27日付で、金融庁から『「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について』が公開されました。
https://www.fsa.go.jp/news/r3/hoken/20210827.html

具体的には、MVA(注1)を利用した商品において、解約返戻金額の計算基礎を設定する時期と解約時期の間に生じる金利変動や、運用資産の売却に係る取引費用等に備えるために手数料を定める場合について、保険商品審査上の留意点を明示するなど、所要の改正を行うものです。

また、2019年度(生保1)問題2(1)では、MVAの算式を具体的な記号で表す問題が、2020年度(生保2)問題3(1)では、MVAを有する商品を新たに販売する問題がそれぞれ出題されました。
生保1および生保2の違いにも留意しながら熟読されると、MVAに対する理解が深まるでしょう。

なお、上記のパブリックコメント結果の資料中、タイムラグマージン(上記の過去問ではαに該当)に関する金融庁からのご説明(注2)もありますので、当該表現をそのままアクチュアリー試験の解答に活用されてもよいでしょう。

(注1)保険料積立金に契約時と解約時の金利差によって生じる運用対象資産の時価変動に基づく調整を加えたものを解約返戻金とする仕組み。外貨建保険の多くで導入。

(注2)統一的な定義はないものの、一般的には「解約返戻金額の計算基礎を設定する時期と解約時期の間に生じる金利変動」部分を指すものと考えられる。これに「運用資産の売却に係る取引費用等」をあわせて係数を設定する場合には、いずれも合理的かつ妥当な水準に設定する必要があり、商品審査の過程で確認される。

2.新型コロナウイルス感染症

2020年度のアクチュアリー試験(生保1)では、問題1(6)で「第三分野保険の基礎率変更権」が、また、問題3(1)で「インターネットチャネルでの保険販売」がそれぞれ出題されました。

これらの問題は、新型コロナウイルス感染症による「保険商品設計上の留意点」および「在宅勤務を含めた巣ごもり需要などによる新チャネル導入」など、生命保険会社が直面している課題に関する時事問題ともいえるでしょう。

なお、昨年度の出題以外の論点としては、
(1)プライシング(例.基礎データの取得方法、トレンドの織り込みなど)
(2)プライシング(例.料率改定の必要性など)
(3)新型コロナウイルス感染症に特化した商品開発
といったものも考えられますので、余力があれば、ご自身の言葉で論点整理などをされておくとよいでしょう。

3.告示48号の改正

2022年4月から、外貨建保険のうち米ドルおよび豪ドル契約が、標準責任準備金の対象に加わることとなりました。
内容的には、生命保険会計・決算に関するものですので、アクチュアリー試験としては(生保1ではなく)生保2の時事問題と考えられますが、標準責任準備金を意識した商品設計という観点からは、
(1)外貨建保険を新たに開発する際の留意点
(2)保険料計算基礎率と責任準備金の計算基礎率との関係
(3)一般勘定における外貨建保険の意義
(4)(金利リスクを除く)為替変動リスクのみをお客さまに転嫁する際の留意点
といった論点も考えられます。

このため、余力があれば、教科書『第5章 変額年金保険』および過去問(例.平成29年度(生保1)問題3(2)など)などを活用しながら、標準責任準備金を含めた会計周辺の知識についても、併せて論点整理をされるとよいでしょう。

4.経済価値ベース

2025年度の本格導入に向けて経済価値ベースのソルベンシー規制に関する議論がFT(フィールドテスト)を含めて鋭意検討されておりますが、2021年度においては、
(1)「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する検討状況について」(令和3年6月30日)
(2)FT(フィールドテスト)にかかる仕様書およびEXCELテンプレート(令和3年8月26日)
が、それぞれ金融庁から公開されました。
https://www.fsa.go.jp/news/r3/hoken/20210826.html

内容的には、「3.告示48号の改正」と同様に、生命保険会計・決算に関するものですので、アクチュアリー試験としては(生保1ではなく)生保2の時事問題と考えられますが、経済価値ベースによるソルベンシー評価を意識した商品設計という観点からは、
(1)イクエーション方式およびアキュムレーション方式の違い、メリデメなど
(2)アキュムレーション方式に関する計算問題
(3)ソルベンシー評価を意識したプライシング
といった論点も考えられます。

なお、教科書『第3章 アセット・シェア』21~24ページによれば、
(1)利益目標を反映する点は両方式とも共通
(2)イクエーション方式もアセット・シェア計算の原理による算式変形を行う
といった記述もあり、アクチュアリー試験(生保数理など)で学習された「収支相等の原則に基づくプライシング」と「イクエーション方式」とでは、必ずしも一致しない面がありますので注意されるとよいでしょう。

5.保険商品審査事例集

以前のコラム(https://www.vrp-p.jp/acpedia/2759/)でご紹介できませんでしたが、金融庁ホームページ(https://www.fsa.go.jp/status/hoken_sinsajireishu/index.html)の『保険商品審査事例集』では、商品開発担当者はもちろんのこと、生保1の試験対策としても大いに活用したいところです。

例えば、令和元年6月の同事例集
https://www.fsa.go.jp/status/hoken_sinsajireishu/1906shinsajireishu.pdf)1ページに「一時払終身介護年金保険」が登場しますが、翌年の2019年のアクチュアリー試験(生保1)問題3(1)では、「平準払の介護終身年金保険」が出題されました。

もちろん、単なる偶然かもしれませんが、少なくとも同事例集に掲載される論点は、保険業界共通の時事問題といえますので、第Ⅱ部(論述問題)の出題源として、同事例集をとらえることも試験対策としては有効であると考えられます。

いかがでしたか。昨年のコラムでも触れましたが、アクチュアリー試験は直前になればなるほど、緊張感からか、なかなか集中できない日々が続く可能性もあります。今回ご紹介した内容をしっかりと押さえ、良い結果につながることを祈念しております。

(ペンネーム:活用算方)

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