Thiele(ティーレ)の微分方程式


『生保数理』を勉強する際、教科書の本文を読み進めることが一般的と思われますが、教科書の本文にはなく、練習問題で初めて登場する論点や記号があります。

例えば、教科書(上巻)184ページ問題(9)では、生命年金終価(現価ではありません)が登場しますが、本文には生命年金現価しか登場しません。保険料は通常、現価で計算しますので、保険料計算に直接関係しない『終価』は、本文では不要という判断がなされたものと思われます。一方、確定年金は現価・終価とも教科書(上巻)第1章の本文で登場します。

また、教科書(下巻)11ページ問題(3)では、年金原資が初めて登場しますが、(生命年金終価とは異なり)ゴシック体で強調されているので気付かれる方も多いと思います。

最近、個人年金保険に関する出題が比較的多くなっています(例. H28問題2(4), H27問題2(4) , H25問題1(8)など)ので、『教科書の(本文だけでなく)練習問題にもしっかり目を通してください』という試験委員からのメッセージかもしれませんね。

そこで、今回のコラムでは、教科書(上巻)202ページ問題(9)で初めて登場する、『Thiele(ティーレ)の微分方程式』について、試験に使える解答テクニックも交えながらご紹介したいと思います。

1.Thiele(ティーレ)とは何者?
昭和時代の保険数学(現在の『生保数理』に相当)の教科書であった『保険数学(守田常直著)』上巻289ページ(注2)に、“この微分方程式はデンマークの天文学者T.N.Thieleの得たものといわれ、これをThieleの微分方程式と名づける。”との記述があります。
また、ウィキペディアでは、『トルバルド・ティエレ』の名前で紹介されており、“デンマークの数学者、天文学者。保険数学の分野でHafnia保険会社を設立し、数学部長を務め、デンマーク保険統計協会を設立した。”とあります。(記者注:「数学部長」は「数理部長」の翻訳誤りと思われる。)
なお、現在の教科書(下巻)312ページの目次ではThieleを『ティーレ』と翻訳していますので、発音の違い等が影響しているのかもしれません。

2.アクチュアリー試験での出題
上述の守田氏の教科書は、上巻が昭和38年、下巻が昭和39年にそれぞれ刊行されていますが、アクチュアリー試験でThiele(ティーレ)の微分方程式が出題されたのは、昭和42年の保険数学Ⅰ問題6が初出と思われます。
ただし、『一時払純保険料』を求めるのではなく、『端数期間の責任準備金(保険料積立金)』の不等式を証明する問題として出題されました。
その後、平成に入り、現在の教科書が導入された以後も、Thiele(ティーレ)の微分方程式に関する出題として、その証明(例. H10問題2, H22問題3(1), H29問題3(2)など)が出題されていますが、計算問題としては初めて平成14年問題1(6)に、一時払純保険料を求める問題が出題されました。

3.計算問題における3つの条件
Thiele(ティーレ)の微分方程式を用いて一時払純保険料を求める問題は、平成14年以降も複数回(例. H21問題1(6), H26問題1(5))出題されていますが、いずれの問題でも、以下の3つの条件が与えられています。
《条件1》保険料払込方法が一時払
《条件2》死亡保険金が即時払
《条件3》死亡保険金が責任準備金比例
これらの3つの条件は、Thiele(ティーレ)の微分方程式を、紙と鉛筆だけを用いて解けるようにするためのもので、実際、どの問題でも対数関数の微分の形に持ち込むように微分方程式を変形していきます。

4.微分方程式としての境界条件
平成14年問題1(6)の公式解答では、責任準備金に関する2つの境界条件(初期値および最終値)を前提にして解答を導いています。実際、
《初期値》加入時の責任準備金=一時払純保険料
《最終値》満期時の責任準備金=1(生存保険の場合)
を用いた解答になっていますが、特に、《初期値》である『加入時の責任準備金=一時払純保険料』という部分は断りなく使用されているため、受験対策としては、このまま暗記せざるを得ない状況です。
なお、Thiele(ティーレ)の微分方程式を解く場合、対数関数の真数が責任準備金となり、対数関数の性質から『真数≠0』という条件が存在します。このため、満期時の責任準備金=0となる保険種類(例.定期保険など)では計算ができなくなりますので、過去問に登場する保険種類はすべて生存保険となっています。

5.微分方程式の右辺の記号の意味
上述の、教科書(上巻)202ページ問題(9)に表示されている微分方程式について、右辺に登場する2つの記号(PとE)がかなりの『混乱要素』と思われます。
実際、Pは保険料でEは生存給付金を表すのですが、過去問ではすべて、P=E=0という設定になっています。これらのPおよびEについては、
P:(一時払)純保険料を求める問題にも係らず、P=0となるのは何故か?
E:生存保険としての生存保険金(=満期保険金)との違いは何か?
という点が受験生にとっての最大の混乱要素で、教科書にも詳しく説明されていません。(というより、教科書には、そもそも、Thiele(ティーレ)の微分方程式を用いて一時払純保険料を求める問題がありません!)
 したがって、資格試験にありがちな、『あれこれ理屈を考えるよりも、そのまま丸暗記した方が早い!』という問題の一種と言えるでしょう。

6.ひっかけ問題
平成24年問題1(5)にThiele(ティーレ)の微分方程式を用いるような問題が出題されました。実際、問題をよくみると、3つの条件のうち、『《条件2》死亡保険金が即時払』が満たされておらず、(責任準備金に比例する)死亡保険金を(即時ではなく)年度末に支払うという条件になっています。
しかも、早合点した受験生が、誤って、Thiele(ティーレ)の微分方程式を用いた場合の結果も選択肢に含まれているという、まさに、中途半端に勉強している人がひっかかる問題となっています。
是非、上記の3つの条件をしっかり記憶しておきたいですね。

いかがでしたか。Thiele(ティーレ)の微分方程式のように、生保数理では解法が決まった問題が幾つかありますので、これらの問題をできるだけ早くかつ多く身に着けることが、早期合格の秘訣といえるでしょう。

(ペンネーム:活用算方)

あわせて読みたい ―関連記事―