DBとDCのメリデメを比較してみた


前回の記事(DBの未来は明るいのか)で、
DBからDCへの移行が進んでいるけれども、DBの未来はそんなに暗くはないよ、
ということを書きました。

DBとDCの比較が出てきたので、今回はDBとDCのメリット・デメリットをまとめてみたいと思います。

過去の記事で、DB導入のメリット(なぜDBを導入するのか)と
デメリット(DB導入のデメリットはあるのか)を書きましたが、
これは、退職金制度と比較してDBを導入するメリット・デメリットでした。
今回は、企業年金を導入するとした場合に、DBとDCでどのように違うかということです。
(企業年金やDB、DCの説明はこちら:確定給付企業年金(DB)とは

なお、企業の視点と従業員の視点では、若干異なる部分もありますが、
今回は、企業の視点よりでまとめることにします。

<DBのメリット=DCのデメリット>

①給付設計の自由度が高い

給付設計の自由度は、DCと比較するとDBの方が圧倒的に高いです。
給付設計とは、給付カーブの描き方だったり、給付水準だったり、
支給する方法だったりを指しています。

DBの給付設計については、
DBの給付はどのように決まっているのか【前編】
DBの給付はどのように決まっているのか【後編】」の
2回に分けて書いたように様々な設計方法がありますが、
DCは「掛金をいくらにするか」しかありません。
DCの掛金の設定方法は、DBの給付設計のような考え方を使って決めることもできますが、
DCには掛金の拠出限度額があるため、DBと全く同じように考えると上限を超えてしまい、
うまくいかないことも多いです。
掛金の拠出限度額があるため、DCの給付水準は自ずと制限がかかってしまいますが、
DBには給付水準の制限はありません。
(給付水準に見合った掛金であれば、掛金の制限もありません。)

また、DBとDCの給付設計の大きな違いとして、
自己都合退職者や懲戒解雇者に対して減額支給が可能かどうかがあります。
企業年金制度は、企業の退職金制度をベースとしていることがほとんどですが、
退職金制度では、自己都合退職の時は、
定年退職や会社都合退職よりも給付水準が低い場合も少なくありません。
また、懲戒解雇の場合は、退職金なしという場合もあります。
DBでは、退職金制度と同じように、給付水準を下げたり退職金をなしにすることが可能です。
一方DCでは、このような取り扱いはできません。
DCは毎月だったり毎年だったりの掛金を従業員個人の口座に振り込みますので、
その時点で従業員の財産となります。
従って、退職事由によって従業員から財産を奪うことはできないのです。

 

②退職時に給付を支給することができる

給付設計の一部ととらえても良いのですが、
DBとDCでは給付を支給するタイミングが異なります

DBは、中途退職時にも一時金として給付を支給することができます。
これは退職金制度では当たり前で、30歳で退職しようが40歳で退職しようが、
退職時に退職金が支給されます。
企業年金は、「年金制度」であり、制度の趣旨は「老後のため」ですので、
原則は60歳前後からの年金支給ですが、
DBの場合は、退職金制度同様、退職時に一時金として支給することが可能です。

一方、DCの場合は早くても60歳にならないと給付を受け取ることはできません
中途退職者への退職金という意味合いはないと言え、あくまで老後の資金ということになります。
退職した場合のDCの資産は、転職先のDCや個人型DC(iDeCo)に移換され、
その後の掛金や運用収益とともに、60歳以降に支給されます。

 

③投資教育が不要

DCは、従業員が個人で資産運用を行い、運用リスクも従業員が負っています。
しかし、そうはいっても資産運用なんてやったことがない従業員も当然います。
従って、DCを実施する企業には、努力義務として、
従業員に継続的に投資教育をすることが課せられています。
特に大企業は、従業員数も多く、全国各地に在籍している場合も多いので、
投資教育を行うことは一定の負担となります。

DBは、企業が運用を行い企業が運用リスクを負いますので、
当然、投資教育のようなものは必要ありません。

 

<DBのデメリット=DCのメリット>

①掛金の追加拠出が発生してしまう

DBの場合、給付設計に応じた掛金を計算しますが、将来の実際の給付額はまだわからないので、
一定の前提をおいて計算しています。
これが「標準掛金」です。(関連記事:DBって掛金の種類多くない?【前編】

実際には、完全に前提通りにいくことはあり得ませんので、毎年剰余金や不足金が発生します。
運用の不調等で不足金が積み重なり、積立不足が生じた場合は、
企業が追加で掛金を拠出する必要があります。
「特別掛金」や一部の「特例掛金」がこれに該当します。
(関連記事:DBって掛金の種類多くない?【後編】

一方、DCは掛金があらかじめ決まっていて、運用が不調でも給付額が減るだけですので、
追加掛金は一切発生しません。

 

②退職給付会計で負債を計上する必要がある

キャッシュバランス制度の説明をしたとき(DBの給付はどのように決まっているのか【後編】)に
少し触れましたが、
退職給付会計では、退職給付債務と年金資産の差額を退職給付にかかる負債として、
企業会計に負債計上する必要があります。
DBは、実際に給付を支給するまでは、年金資産は企業の財産ですので、
将来給付しなければならないものをまだ支払っていないということで、
負債に計上する必要があるのです。

一方、DCは掛金の拠出額を費用計上するのみで、負債計上は必要ありません。
DCは毎月掛金を従業員の個人口座に入金し、積み立てられた掛金は従業員の財産です。
掛金が追加で発生することもありません。
従って、支払うべきものは支払済みであるため、負債はないのです。

 

③運用リスクを負っている

DBでは年金資産の運用を行っていますが、その運用リスクは企業が負っています。
そのため運用が想定通りいかなかった場合は、
①のように企業が追加で掛金を拠出する必要があります。

一方、DCでは運用リスクは従業員が負っています。
運用が想定通りいかなければその分給付が減ってしまいます。
(従業員の視点では、これはDCのデメリットになります。)

 

以上、DBとDCを比較したときの主なメリット・デメリットを整理してみました。
これらを見ても、どちらか一方が優れているとかいうことではなく、
ニーズに沿ったやり方が複数ある、ということが理解できるかと思います。
年金アクチュアリーがコンサルを行う際は、これらのメリデメをしっかり把握して、
企業にとってよりよい年金制度になるように提案する必要があるのです。

 

ペンネーム:Mah

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