アクチュアリーは学者ではなく、ビジネスマン


―アクチュアリーになろうと思ったきっかけは何でしたか。

実は、社会人になるまで、アクチュアリーという職種を知りませんでした。大学卒業後に入社した日系損害保険会社で、上司に「アクチュアリー試験に挑戦してみないか」と言われるまま、目指すことにしたんです。しかし、意気込んで1年目に3科目受けたら全滅(笑)。これは本腰を入れなければ正会員になれないぞと意識を改め、2年目からコツコツと勉強を進め、一次試験を1年に1科目のペースで合格していきました。
夜は残業もあり不定期だったので、毎日朝7時に出社し、始業の9時まで2時間を勉強にあてることに。私が受験していた90年代前半は試験が全部で8科目あり、30歳を過ぎてようやく正会員になりました。

―アクチュアリーの勉強は仕事にどのように役立ちましたか。

日系損害保険会社では商品開発のプライシングを主に担当していましたが、アクチュアリーの勉強をすることで、保険のコンセプトや規制、法律に関わる内容まで包括的に学ぶことができました。商品から保険会社の経営まで理解する上で、今でも非常に役立っています。
アクチュアリー正会員を目指していたときから、意識しているのは、「学んだことを実務にどう生かすか」「知識を会社の利益につなげるにはどうすればいいか」という視点です。
例えば、91年から93年のバブル崩壊後に失業が問題になり、上司から「失業保険のプライシングをしてみろ」と機会をいただいたことがありました。そこで、失業発生率はどんな数値と関係があるのか、さまざまな統計を持ってきては、経済指標との連動を分析したり、自己回帰モデルを使って将来の失業率を予測する自分なりの分析方法を作ってみたりと、アクチュアリーで学んだ知識を応用して、他の人がやっていないようなことをやろうと意欲を燃やしていましたね。

―その後、アクサ損害保険に入るまでの経緯を教えてください。

日系損害保険会社を10年勤めたあとは、約2年間、外資系の損保会社に転職しました。そこで語学力の重要性を痛感。アクチュアリーの試験勉強も終わって時間もあったので、今度は英語の勉強を始めることにしました。その後、34歳のとき、監査法人にシニアマネジャーとして転職し、外国人の上司のもと6年間働きました。正会員の資格と、英語力があったことが、転職の選択肢を大きく広げてくれたと思っています。
監査法人に入ったときには、密に3つの目標を立てていました。ひとつは、当時まだいなかった保険アクチュアリーの「パートナー」になること。もう一つは立ち上げを任されたアクチュアリーコンサルティング部門を黒字にすること。そして、アクチュアリーコンサルティングチームを盤石な組織にすることです。
実際に40歳でパートナーになり、3つの目標を達成。コンサルティング業務も非常に面白かったのですが、お客様のためにソリューションを提供する側から離れ、もう一度「自分の会社のために働いてみたい」と考えるようになりました。そこで、保険業界に戻る決意をしたのです。

―そして、アクサ損害保険のCFOへ。どのような業務を任せられてきましたか。

私が入社した2008年9月当時、当社にアクチュアリーの正会員はひとりもいませんでした。そこで、プライシングや決算、事業計画の策定、商品開発までさまざまな仕事を手がけ、ときに人事、総務まで担当しました。
現在は、決算や事業計画、資産運用などのファイナンス系を担当しており、数理系の仕事を担当する4つの部門にも関与しています。保険料計算を行う「商品数理部」、準備金計算や決算業務を担う「数理部」、ソルベンシーマージン等を担当する「リスク管理部」、そしてデータマイニングやビッグデータの分野を担当する「統計分析部」。20人ほどの数理系の社員が働き、私が入社した7年前とは比較にならないほど、組織は体系化されましたね。

―アクチュアリーを目指す人へ、伝えたいことはありますか。

アクチュアリーに求められるのはコミュニケーション力。知性と知識を使って、会社に役に立つことを企画立案し、実行していく力が必要です。アクチュアリーになって何をしたいのか? 具体的な仕事に落とし込んで考えていくといいと思います。
私は、海外のアクチュアリーと会う機会が多いのですが、彼らは「アクチュアリーは学者ではなく、ビジネスマンである」というマインドが非常に強い。会社の利益を考えるモチベーションがとても高いんです。これからアクチュアリーを目指す方も、資格をとって満足するのではなく、会社の成長につながることを考え続ける、そんなアクチュアリーになってほしいですね。
さらに、アクチュアリーに加えて、もう一つ強みがあれば、市場価値はぐっと上がります。私は「アクチュアリー×英語」でしたが、「アクチュアリー×マネジメント」でもいい。自分の強みや軸は何か、ぜひ追求していってください。

■プロフィール

齋藤 貴之さん

アクサ損害保険株式会社 取締役 CFO 日本アクチュアリー会正会員。立教大学 理学部 物理学科卒業。日系損害保険会社、外資系損害保険会社、監査法人を経て現職。

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