DBの財政検証は何のためにあるのか?


財政運営の全体像の記事(DBの財政運営の全体像)で、
「財政検証」なるものを年に1回必ず行う必要があると書きました。
今回は、その「財政検証」について、詳しく解説していきたいと思います。

<財政決算と財政検証の違い>

財政決算」と「財政検証」という2つの言葉があり、時々混同して使われていることがありますが、
正確にはこの2つは異なります。
「財政決算」とは、文字通り決算を行うことで、(企業決算とは関係なく)DBだけの決算を行います。
すなわち、1年間のお金の流れを把握し、B/SやP/Lを作成します。
DBでは、年に1回決算を行い、厚生労働省に届け出ることが法令で義務付けられています。

財政検証とは、こちらも文字通りではあるのですが、
財政決算で作成した数値をもとに、DBの積立金が適正な水準であるかどうかを検証することです。
こちらも、年に1回財政検証を行うことが法令で定められています。
(財政検証の位置づけは、「DBの財政運営の全体像」をご覧ください。)

実務的には、財政決算と財政検証は同時並行で進んで行きますので、
どちらか一方の言葉で両方を指している場合があり、
そのため両者を混同してしまう場合があるのではないかと思います。

<財政検証とは>

財政検証とは、「DBの積立金が適正な水準であるかどうかを検証すること」と書きました。
では、「適正な水準」とはなんでしょうか。

DBでは、次の3つの視点で、積立金の水準が適正かどうかを検証しています。
継続基準
非継続基準
積立上限

この3つのうち、どれか一つにでも抵触すると、掛金を計算し直す必要があります。
1つずつ詳しくみていきます

<継続基準>

継続基準とは、
「DBが今後永久に存続したと仮定した場合に、現在の積立金は十分ですか」
ということを検証するための基準です。
年金数理で出てくるものは、継続基準の考え方です。

DBの存続を仮定していますので、「積立金+将来の収入≧将来の支出」を満たす状態であれば、
積立金は十分であると言えます。
将来の収入は、「掛金収入現価」です。
DBでは、基本的には「標準掛金収入現価+特別掛金収入現価」となります。
将来の支出は、DBでは「通常予測給付現価」と呼びます(年金数理でいうところの給付現価です)。
つまり、「積立金≧通常予測給付現価−(標準掛金収入現価+特別掛金収入現価)」を
満たしているかを検証し、満たしていない場合は、「継続基準抵触」となります。

では、継続基準に抵触した場合はどうなるのでしょうか。
基本的には、掛金を計算し直す必要があるのですが、
例えば、「1円だけ足りなかった」という状態だった場合、
本当に掛金をわざわざ計算し直す必要があるのでしょうか。
このような「ギリギリ足りなかった」場合まで掛金を計算するのは、実務上大変ですし、
掛金を手当てしなかったからといって、すぐに積立金が枯渇してしまうようなことではありません。
従って、DBでは、「許容繰越不足金」というものを導入し、
不足額が許容繰越不足金以下で収まっているのであれば、
掛金を計算し直さず様子見をしても良いとされています。
つまり、
積立金+許容繰越不足金<通常予測給付現価−(標準掛金収入現価+特別掛金収入現価)
となってしまった時は、必ず掛金を計算する必要があります。

継続基準に抵触し掛金を計算し直す場合は、ほとんどの場合、標準掛金は変更せず、
不足分の特別掛金を追加することになります。
(特別掛金については、「DBって掛金の種類多くない?【前編】」をご覧ください。)

<非継続基準>

非継続基準とは、「DBが仮に今すぐ終了した場合に、現在の積立金は十分ですか」ということを
検証するための基準です。
非継続基準の考え方は、年金数理ではほとんど出てきません。

DBは永久に続くものと思いたいところですが、現実ではそうは甘くありません。
やむを得ない理由でDBを終了する場合もあります。
その時に備えるために、「今すぐDBを終了しても大丈夫か」という観点でも検証しています。
今すぐ終了することを仮定しているため、今後入ってくる掛金や将来的な給付額は関係ありません。
従って、「積立金≧終了した際に分配すべき額」を満たしているかが必要となります。

DBでは、終了した際に積立金を加入者や受給権者に分配することとされています。
この分配金は、当然、過去のDBの加入期間に応じたものでなくてはなりません。
これを「最低積立基準額」と呼びます。
つまり、「積立金≧最低積立基準額」を満たしているかを検証し、
満たしていない場合は、「非継続基準抵触」となります。

では、非継続基準に抵触した場合はすぐに掛金を計算し直す必要があるのでしょうか。
非継続基準は、「今すぐ終了」を仮定していますが、実際に今すぐ終了するわけではありません。
従って、非継続基準も継続基準同様、様子見することができます。
ただし、さすがに継続基準ほど気長に様子見しているわけにはいかないので、
継続基準の時と様子見の仕方は異なります。

非継続基準では「積立金÷最低積立基準額」(これを「積立比率」と呼びます)の値によって
対応が変わります。
非継続基準に抵触しているということは、積立比率が1.0未満であるということになりますが、
積立基準が0.9未満となった場合は、様子見なしで掛金の計算が必要となります。
積立比率が0.9以上の場合は、過去3年間の積立比率を参照します。
過去3年で、非継続基準に抵触した回数が2回以上の場合は、
様子見なしで掛金の計算が必要となります。
言い換えると、過去3年間で1回だけ抵触している場合又は過去3年間は抵触していない場合は、
様子見することができます。

掛金を計算し直す場合は、標準掛金や特別掛金を見直すのではなく、
特例掛金という別の掛金を計算します。
(特例掛金については、「DBって掛金の種類多くない?【後編】」をご覧ください。)
計算方法は複雑なので割愛しますが、
積立比率に応じて最低限拠出しなければいけない掛金額が計算され、
その最低限の額以上積立不足額以下で、企業が決定します。
特別掛金のように「3年償却」などではなく、1年間だけの掛金を計算して、
次回の財政検証でまた非継続基準に抵触したら、
その際にまた次の1年間の掛金を計算することになります。

<積立上限>

継続基準と非継続基準は、「積立金が十分に積み立てられているか」を検証するものでしたが、
積立上限とは、逆に「積立過ぎていないかどうか」を検証するものです。
別に積立金が多過ぎても年金財政上は何も問題ないではないか、と思いたくなるところですが、
これは、年金数理的な考え方とは全く違う観点からの検証です。

以前の記事「なぜDBを導入するのか」でも書きましたが、DBの掛金は、損金算入することができます。
従って、積立金が多すぎるということは、不必要に損金を計上している、
つまり「過剰損金」であるとみなされてしまうのです。
ですので、もし将来的に損失が発生したとしてもさすがにこれだけの積立金があれば十分だろう、
という金額を積立上限額として計算し、積立金が積立上限額を超えてしまった場合には、
掛金の拠出を減少させるか、停止させる必要があるのです。

積立上限額や掛金減少額の計算方法も細かくなるので割愛しますが、
現在のDB環境下であれば、特殊な事情がない限り、
掛金を減少させなければいけなくなることは非常に稀です。

 

以上が財政検証についての解説です。
財政検証で何をしているかがなんとなくでもご理解いただけたでしょうか。
財政検証は、毎年必ず行うものですし、DBや年金財政の基本ですので、
新米の年金アクチュアリー候補生は、最初に携わることも多いかと思います。

皆さまのDB理解のお役に立てれば嬉しいです。

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