アクチュアリー試験講評(2021年度 生保数理 編)


2021年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。

合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。

早速、生保数理について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

1.問題数

2020年度と同じ問題数で配点も同じでしたので、受験生にとって、特段大きな混乱はなかったと思われます。
昨年同様、2時間で8問、つまり15分1問のペースで解ければ、2時間で40点近く獲得できますので、残り1時間で20点弱という理想的な時間配分になるでしょう。

2.各問題のポイント

問題1(1)
解法:連続払確定年金の現価および終価の関係から予定利率を求める問題です。平成29年度の問題1(1)と同様に保険期間が丁度2倍である点に加えて、保険期間(128および64)が2の累乗になっている点も特徴です。

なお、電卓操作の際、ルートキーを連続押下すれば、“2分の1乗”、“4分の1乗”、…という感じで、上手く計算できるように設定されていますね。

問題1(2)
解法:生存確率と死力の積が具体的な関数で表示される場合に、完全平均余命と略算平均余命の差分を求める問題です。平成23年度の問題1(2)の類題ですので、過去問をしっかり解いていれば、取り組み易かったでしょう。

問題1(3)
解法:純保険料を“期待値原理”を用いて求めるという問題で、教科書(上巻)140ページに登場する「確率論的表示」に関する問題です。特に、純保険料に乗じる年金現価が(生命年金現価ではなく)確定年金になっている点も「確率論的表示」の特徴です。これは、死亡時または(満期時の)生存時においては、生存・死亡の条件が確定するため、確定年金が登場するというカラクリです。

なお、生保数理の解答テクニックとして、「nに具体的な数値を代入して正解候補を絞り込む」というものがありますが、本問の場合も、n=1,2などの計算し易い数値で正解候補を絞り込むのも良いでしょう。過去問としては、例えば、平成4年度(保険数学1)問題1(8)、昭和56年度(保険数学1)問題3などが類題となります。

問題1(4)
解法:終身保険の危険保険料を求める問題でしたが、教科書(上巻)196ページに登場する危険保険料の定義を知っていれば、比較的解き易かったものと思われます。過去問としては、チルメル式責任準備金を積み立てる場合の危険保険料を求める問題(例.2020年度問題1(4)など)が比較的多く、本問のように、平準純保険料式責任準備金を積み立てる場合の出題は少ないように思えます。

なお、第5年度の危険保険料を求めるにもかかわらず、責任準備金に関する条件がすべて「経過1年」のみである点に、戸惑った受験生も多かったように思えます。

問題1(5)
解法:初年度定期式責任準備金の問題ですが、全期チルメル式としてのチルメル期間は、(保険期間ではなく)保険料払込期間と等しくなりますので、本問のように、保険料払込期間と保険期間が異なる場合には、チルメル期間を間違えないように注意しましょう。

なお、初年度定期式責任準備金の場合、教科書(下巻)18ページ(8.2.2)などの公式も使用頻度が高くなりますので、併せて押さえておきたいですね。

問題1(6)
解法:連生年金現価を求める問題ですが、異なる被保険者の生命年金現価に関する条件が決まっているため、例えば、全員が1年以内に死亡する、といった計算し易い生命表を“勝手に”仮定できないため、類題(例.平成27年度問題2(5)など)と比べて難易度が格段に高くなっています。

なお、『アクチュアリー試験合格へのストラテジー生保数理(東京図書)第3刷』198ページの「問題10.8(連生年金現価)」の解答を習得していた受験生は、この問題で大きな差がついた可能性もあります。

問題2(1)
解法:平成28年度問題2(2)の類題ですが、3重脱退表になっているため計算がやや複雑かもしれません。なお、解法に登場する「指数関数と多項式の積」の積分については、地道に“部分積分”を用いてもよいのですが、数学オリンピック団長の藤田岳彦先生の資料(http://www.olis.or.jp/hfea/pdf/20130126forum_fujita.pdf)26ページ(部分積分は負け)を用いたショートカット解法も、是非押さえておきたいですね。

問題2(2)
解法:死亡時に残存期間に対応する年金を支払うという点で、累減定期保険(逓減定期保険)となりますが、年金支払について最低保証期間(本問の場合5年)が付加されている点では、実際に発売されている“収入保障保険”に極めて近い保険商品といえるでしょう。

なお、当該最低保証期間は、いわゆる“負値責任準備金(マイナスV)”を回避するために設置される側面もありますので、商品開発部門にいらっしゃる方にとっては、実務に沿った非常に馴染みやすい問題といえるでしょう。

問題2(3)
解法:問題文に登場するβを1.005と考えれば、平成29年度問題2(3)の類題となります。なお、生存確率がすべて等しいという仮定は、例えば、2019年度問題2(6)でも登場しますので、当該問題の公式解答に登場する、“死亡率が一定の場合、生命年金現価が確定年金になる”というテクニックが使えるかもしれません。

問題2(4)
解法:既払込保険料に予定利率と同じ利率で利息を付与して、かつ、与えられた条件に、“確定年金現価”および“満期時の生存確率”があれば、確率論的表示を用いたショートカット解法で解くという典型的な問題です。

なお、営業保険料を求める前に、予定利率を求めるという流れに戸惑った受験生もいらっしゃったかもしれませんが、生存保険の一時払純保険料、生存確率からv(現価率)のn乗が求められて、確定年金現価からd(割引率)が求まりますので、予定利率が計算できます。

問題2(5)
解法:予定事業費が予定新契約費のみであり、かつ、チルメル割合が予定新契約費に等しいという仮定から、チルメル式責任準備金における純保険料のうち「P2」が営業保険料となる点に気づく必要があります。過去問としては、例えば、平成21年度問題1(8)が参考になるでしょう。

問題2(6)
解法:延長保険および(終身保険への)転換が同時に登場する問題で、教科書(下巻)第9章からの出題です。特に、貸付金の処理に関して、教科書(下巻)37~38ページに二通りの方法が記載されておりますが、本問の場合、後者の方法が採用されている点に注意してください。

実際、解約返戻金から貸付金を控除する点に加えて、延長保険の保険金額からも貸付金を控除するため、見方によっては、一種の“二重取り”に感じてしまうかもしれませんが。

問題2(7)
解法:就業不能に関する保険料払込免除特約の問題です。問題文にも記載されていますが、教科書(下巻)166ページの中段にあるとおり、最終年度に保険料払込免除事由に該当しても免除すべき営業保険料がないため、主契約と特約で保険料払込期間が異なる(=特約が主契約よりも1年短い)点に注意が必要です。

問題2(8)
解法:教科書(下巻)第14章からの出題です。がん保険などで実際に発売されている保障内容として、“入院給付金の支払限度日数を設けない”という点が好評ですが、本問の場合、「181日以上の入院発生率がゼロ」、「入院は1年間に2回以上発生しない」という条件から、平均入院日数は有限となります。過去問としては、例えば、平成28年度問題1(8)、平成27年度問題1(8)などが参考になるでしょう。

問題3(1)
解法:保険価格を予定利率で微分する問題ですが、実は、筆者が初めてこの問題に遭遇した際、“教科書の範囲内なの?”と大いに疑問を感じました。帰社後に当時の上司が不機嫌そうな表情を浮かべて、“教科書(上巻)12ページ問題(8)を解かずに受験したのか?”と厳しく叱責された苦い思い出が蘇ります。過去問としては、例えば、平成7年度(保険数学2)問題2などが参考になるでしょう。

問題3(2)
解法:親子連生保険の問題ですが、条件付連生保険かつ保険料連続払という、受験生が最も苦手とする分野からの出題と言えるでしょう。本問に限らず、穴埋め問題ですので、全問正解を目指すのではなく、問題文の流れを落ち着いて読み解きながら、埋められる部分をひたすら探す、という作業で十分だと思います。したがって、問題1および問題2で45点前後を得点できるように訓練することが合格の秘訣といっても過言ではありません。

3.次回以降に向けて
いかがでしたか。今回の生保数理は、比較的オーソドックスな問題が多かったように思いますが、昨年に比べると難易度がやや上がったように思いました。昨年のコラムにも記しましたが、過去問はもちろん、教科書の問題も一通りチェックしておくことが早期合格の秘訣の1つと言えるでしょう。

(ペンネーム:活用算方)

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