アクチュアリーの次なる一歩:2023年9月のCERA試験


2023年9月にCERA試験が行われました。CERA試験を見たことがない読者もいると思うので、今年の試験の雰囲気をご紹介します。

👉 アクチュアリーの次なる一歩:CERA

CERA試験の概要

日本のCERA試験は、英国アクチュアリー会のSP9(Enterprise Risk Management, Specialist Principles)を用いて行われています。試験形式は3 時間 20 分の記述試験。試験はオンラインで実施され、どこでも受験可能です。問題は英文ですが、回答は日本語に限られます。問題の日本語訳はありません。

CERA試験の範囲

  1. ERM Concept and Framework (ERMの概念及び枠組み)
  2. ERM Process(ERMのプロセス)
  3. Risk Categories and Identification(リスクのカテゴリーと特定)
  4. Risk Modelling and Aggregation of Risks(リスクのモデリング及びリスクの統合)
  5. Risk Measurement and Assessment(リスク測定と評価)
  6. Risk Management Tools and Techniques(リスク管理のツール及び技法)
  7. Capital Management(資本管理)

2023年9月のCERA試験

大問2つで構成されています。問題1が44点、問題2が56点です。問題1では7つの小問が、問題2では12の小問が含まれています。一問辺りの配点のばらつきは大きく、15点や16点の問題もあります。この辺りの配点も意識した時間配分が求められる構成です。

問題1

最初は小学校を想定した出題です。

ABCは、5歳から10歳までの子供向けの学校です。学校は、学校が直面している主要なリスクすべてを含むリスクレジスターを維持しています。リスクレジスターは定期的に更新され、年に一度、ABCのガバメント会議によってレビューおよび承認されます。

「リスクレジスター」は特定したリスクを一覧にしたもので、以下のような項目が含まれることが理想とされています。

  • 一意の識別名
  • リスクのカテゴリー
  • リスクの評価日
  • リスクの明確な記述
  • リスクが定量化可能かどうか
  • リスクの確率の情報
  • リスクの強度の情報
  • リスクのエクスポージャーの期間
  • リスクの現在のステータス
  • リスクが発生するシナリオ
  • このリスクが結合している他のリスクの詳細
  • 実施したリスク対応
  • リスク対応コスト
  • 残差リスクの詳細
  • リスクのレビューのタイムテーブルとプロセス
  • リスクのオーナー
  • 登録者

(出典:フィナンシャルERM)

最初の問題は、以下のようにリスクレジスターに関するものなので、小学校のケーススタディに喫驚することなく、落ち着いて回答すれば正答できそうですね。

List six data fields that you would expect to find for each risk in the risk register.

さらに問題を読み続けると・・・

ABCは放課後の「ディナークラブ」を提供しており、保護者が学校の終了時に彼らを迎えに来ることができない子供たちは、保護者が彼らを迎えに来られるまで世話をされます。ディナークラブでは、子供たちに温かい食事が提供されます。 ディナークラブに加えて、ABCは別の場所で行われるいくつかの放課後のクラブを提供しています。これらのクラブのために、学校のミニバスが子供たちを別の場所へ運ぶために使用され、保護者はその場所から直接子供たちを迎えます。 ディナークラブやその他の放課後のクラブのスペースは、事前に予約する必要があり、適切な同意書が保護者によって署名されている必要があります。

と、ホントにアクチュアリー試験なのかという気もするような想定に。でも、ご安心を。CERAとは、金融機関以外も含む領域でのリスクマネジメントのスキルを鍛えるものなので、あらゆるシチュエーションでのリスクマネジメント力が試される試験です。

実際、このシチュエーションでのリスクを特定し、どのように管理するのかという点が出題されています。

以下の問題は省略しますが、詳細を見たい方は、英国アクチュアリー会のサイトをご覧ください。

問題2

2つ目の問題は、ケースの説明はなく、以下の2つの小問からスタートしています。

Describe the key principles of Enterprise Risk Management (ERM).

List the five main steps in the ERM control cycle.

いずれも基礎的な内容です。

次に、唐突にCEOのコメントが出てきます。CERA試験に登場するCEOの多くは、問題のある意見を行います。(そうしないと、問題にならないので)

XYZは産業機械の部品を製造する会社です。XYZの最高経営責任者(CEO)は「ERMは銀行家が使う流行り言葉に過ぎず、伝統的な製造業の会社である私たちのような場所で使用する価値はない」と述べています。

そして、この意見に対するコメントが問われます。

Comment on the CEO’s statement.

繰り返しになりますが、CERA試験は金融機関以外も含む領域でのリスクマネジメントのスキルを鍛えるものなので、このCEOコメントには色々と突っ込めそうですね。

という感じで、今年はソフトなスキル関連の出題が多いのかと思いつつ、その後、XYZ社がERM導入を決めて、SWOT分析を行い、あるサプライヤーに対する過度な依存リスクを発見したあたりで、徐々にリスク文化が深まっていきます。

そして、話題はいきなりモデル構築の話に移行。

XYZは、これらのリスクが具体化した場合のさまざまな潜在的な結果の範囲を理解するためのモデルを構築したいと考えています。XYZのCEOは決定論的モデルを使用したいと考えていますが、XYZの最高財務責任者は確率的モデルの使用を提案しています。

Discuss the pros and cons to XYZ of each of these types of models.

モデル構築の問題ですが、ここで問われているのは、決定論的モデルと確率論的モデルのメリデメです。モデル利用者の立場で、経営陣にそのメリデメを分かりやすく説明できるのか。そんなスキルが試されている問題ですね。

詳細を見たい方は、英国アクチュアリー会のサイトへ。

以上、今年のCERA試験を簡単に振り返ってみました。日本のアクチュアリー試験とは大きく異なることがわかると思います。一言でいうと、柔軟性。あらゆるシチュエーションで、勉強したリスクマネジメント力を応用できるのか。そんな臨機応変なスキルは、今や刻々と変化する外部環境に適応するための必須のスキルなのかもしれません。

(ペンネーム:ceraverse)

あわせて読みたい ―関連記事―