アクチュアリー試験講評(2023年度 生保1編)


2023年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。
今年は、CBTによる2回目の試験でしたので、操作方法に慣れ親しんだ受験生も多かったかもしれません。
合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。
早速、生保1について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

1.問題数等

問題数および配点は昨年とほぼ同じでしたので、昨年のように戸惑った受験生は少なかったかもしれません。
また、昨年の問題1(6)では、『死因別の死亡率グラフ』が出題されましたが、今年は、

問題1(6):生保標準生命表2007(年金開始後用)の「将来の死亡率の改善率」

問題2(3):患者調査(女子の入院受療率の形状)

といった、より具体的な商品開発に関する実務的観点からの出題がなされた点も特徴です。

さらに、“文字数”については、昨年同様、“文字数の程度”が指定されていますので、簡潔な答案作成に心がけると同時に、文字数も意識した答案作りが重要です。また、これも昨年と同様ですが、「生保2」は文字数指定が「上限」であるのに対して、「生保1」は「程度(目安)」ですので、両科目を同時受験される場合は注意が必要です。

なお、アクチュアリー試験という特性上、これまで、算出方法書や監督指針別紙(数理事項についての概要書)などから出題されましたが、今年はついに、基礎書類の1つである『事業方法書』の記載事項(保険業法施行規則第8条)からも出題されました。
したがって、試験委員の“出題目線”としては、生保商品実務のうち、算出方法書に留まらない“幅広い理解と見識”を(今後も)求めてくる可能性が高いものと思われます。

2.各問題のポイント

問題1(1)
講評:再保険に関する問題です。特に、(修正)共同保険式に焦点を当てていますので、ESR(経済価値ベースのソルベンシー規制)を睨んだ“特定契約ブロックの包括移転”といった時事ネタを念頭に置いた出題とも言えるでしょう。

問題1(2)
講評:「生命保険会社の保険計理人の実務基準」のうち配当に関する確認(アセットシェア)の穴埋め問題です。なお、団体保険のように「消滅時配当」のない契約のみを保有・販売している会社に所属する場合、決算業務などで適用されない条項ですので、記憶が十分でなかった受験生がいらっしゃったかもしれません。

問題1(3)
講評:上述の通り、基礎書類の1つである『事業方法書』の記載事項(保険業法施行規則第8条)からの出題です。アクチュアリー実務としては、やはり、数理概要書や算出方法書を中心とすることが多いものと考えられますが、今後の試験対策としては、より幅広い視点を踏まえた学習が大切であると思います。

問題1(4)
講評:変額年金保険に関する出題ですが、教科書の内容を十分に理解(暗記)していれば解きやすかったでしょう。特に、同保険では英語(カタカナ)が頻出しますので、余力があれば、語源・由来なども併せて調べておけば頭に残りやすいでしょう。

問題1(5)
講評:生保商品の実務に関する出題ですが、法令に加えて監督指針(特に、自己責任原則)に焦点を当てた出題は初めてのように思います。上述の「事業方法書」と同様に、従来の出題内容よりも幅広い視点からの試験対策が重要になる気配がしますね。

なお、【(ウ)の選択肢】のうち(C)について、“手術給付については従来の88種に限らず多くの手術を対象にしたもの(中略)も多い”という部分は、扁桃腺や痔の手術など“88種に限らないもの”を対象とする代わりに、入院要件をセットで導入されたのが、有名女優をCMに起用された平成15年9月頃と記憶しております。このため、第三分野標準生命表2007の制定よりも早かったように思います。

問題1(6)(ア)
講評:わが国では、男女とも引き続き「長寿化」が進んでいるため、金利上昇の兆しが見えても、(保証期間なし)終身年金の販売再開に踏み切れないケースが少なくないように思います。さらに、2025年度決算から導入予定のESR規制も考慮すると、欧州などでソルベンシーⅡ導入で生じたように、終身型かた有期型への販売戦略変更がますます余儀なくされる可能性も高いかもしれませんね。コーホート効果に加えてこの「長寿化」について、死因別に細かく調査することもアクチュアリー実務としては重要な項目の1つと言えるでしょう。

問題2(1)
講評:いわゆる“販売商品のアンバンドリング”についての出題です。80年代後半から急拡大した「定期付終身保険」路線の影響で「特約化」も大いに発展しましたが、更新時の保険料大幅アップに加えて、そもそもの“契約者間の公平性”ともいうべき“高額割引問題(例.保険金額3,000万円の定期付終身保険1件の営業保険料が、保険金額2,000万円の定期保険1件+保険金額1,000万円の終身保険1件の営業保険料合計よりも安いことの是非など)”も誘発する事態を招いたことも記憶に新しいところです。

なお、問題文では、“考えられる理由を7つ挙げよ”とありますので、試験委員目線でどのような理由が導かれるか、公式解答の公表がとても待ち遠しいですね。

問題2(2)
講評:団体生命保険に関する出題ですが、当該保険のうち「団体定期保険」に関するものが中心です。特に、実務経験がなければ理解しにくい“経験料率(信頼性の理論)と優良体割引の違い”については、受験生自身の言葉で説明できるようになるとよいでしょう。

問題2(3)
講評:平成28年度問題2(2)でも出題されましたが、“男性20歳付近での死亡率ピーク”と同様に、妊娠・出産などで判明する“女性30代での罹患率ピーク”も悩ましい実務上の課題ですね。先行他社追随という制約も考慮しつつ、自社のリスク管理上の視点もアクチュアリーとして備えておきたいところです。

問題3(1)
講評:日銀の方針転換で足元の国債金利が上昇していますが、邦貨建契約の保険料平準払の標準利率がなかなか上がらない環境下では、今のところ、保険料一時払契約の料率改定に留まっているようです。さらに、昨今の地政学的リスク(例.ウクライナ情勢など)による物価高の影響もあるため、問題文に金利のみならず物価水準についても条件に加える点は、まさに“時事問題”であると言えるでしょう。

試験委員からの貴重なアドバイスである“常日頃から問題意識をもって業務に取り組みながら自分なりの考え方を理路整然と相手に伝える能力を磨く”ことの大切さをしみじみと痛感します。

問題3(2)
講評:複数の給付を組み合わせた医療保険の商品開発に関する問題です。まず、目につくのは、一連の“新型コロナ騒動”で発端となった“入院一時金のモラルリスク対応”について触れた受験生も多かったかもしれません。

なお、給付種類のうち、(A)のみが“入院日数”に比例するため、一時金である(B)(C)に比べると事務負荷がかかる点にも触れるとよいように思います。その際、もちろん、予定事業費設定について、(A)と(B)(C)で差をつけることも合理的ですので、問題文に列挙されている“論点”のうち、“基礎率設定”で触れるとよいでしょう。

3.次回以降に向けて

いかがでしたか。昨年のコラムにも記しましたが、第Ⅰ部対策としては、やはり、教科書を中心として監督指針や実務基準等、さらに余裕があれば法令や告示等の理解が極めて重要です。また、第Ⅱ部対策としては、繰り返しで恐縮ですが、やはり、常日頃から課題意識を持ちながら、自分自身の意見や考え方を“自分の言葉で分かりやすく相手に伝える練習”をしておくことも大切です。

当たり前のことを当たり前に実行できることは、決して当たり前ではありませんね。

 

(ペンネーム:活用算方)

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